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スタートアップこそ社労士を活用すべき理由〜スタートアップの労務マップ

リソースが限られる立ち上げ期こそ人事労務手続が重要です

スタートアップと言ってもステージは様々ですが、ここでは会社の立ち上げ期、従業員数でいうと1〜10人程度の規模感を主に想定しています。(シード〜アーリーステージ)

社会保険労務士事務所ヨルベのかなやま(@kanayama_sr)です。

スタートアップの労務管理を主要業務の一つとしています。ベンチャーキャピタリストとのやり取りの中で、スタートアップの労務管理の難しさと重要性を実感したことから、開所時から重点を置いています。各種アクセラレータープログラムのメンター等の活動や発信活動も積極的に行っています。

会社の立ち上げ期から社労士を活用する会社は決して多くはありません。
限られたリソースの中で、会計経理はともかく、人事労務に関する部分は専門家に報酬を払って委託しようとはなかなか決断しにくいというのが理由の一つかと思います。

しかし、一方で、立ち上げ期にこそ、社労士を上手く活用することで、リソースを最大限に活かすことができるのも事実です。

スタートアップにとっては、チームメンバー(従業員)の存在が非常に重要です。
人事労務関連の手続きを正しく行うことは会社と従業員との間の信頼関係の前提となります。チーム一丸となってプロダクトを作っていく上で、決しておろそかにすることはできません。

また、会社を成長させていくにあたっては新しい人を採用するというプロセスが必ず発生します。働きやすい環境の整備はより良いメンバーを獲得することに繋がりますし、適切な労務管理を元にして助成金を正しく活用することで、「人材獲得」にかけられるバジェットを増やすことができます。

社労士を上手に活用して、どのようにしてよりよい企業作りに繋げるかを整理しておきたいと思います。

全体像をイメージする

労務が重要とは言っても、そもそもどのようなイベントが発生するのか、都度、どのような手続きを行わなければならないのか、全くイメージがつかない場合も多いと思います。

そこで、少し規模が大きくなるまでの段階において、少しでもイメージがつきやすいように、スタートアップの労務マップを作りました。

0804(最終版)【スタートアップの労務マップ】のコピー

手続きの詳細は割愛していますので、専門家に相談するきっかけを見逃さない、というような形で使っていただけたらと思います。

社労士を活用する局面として、以下に4つ挙げてみました。

1.労働保険・社会保険の手続き

会社を設立したら、社長1人であっても、社会保険への加入が義務付けられています。

また、従業員を1人でも雇用した段階から、労働保険への加入が義務付けられています。

社会保険は、日常生活に直結する健康保険や、定年後に受給する年金額に反映される厚生年金保険など、従業員にとって影響の大きいものです。

労働保険は、業務中あるいは通勤中に起きた事故に対して保障が行われる労災保険や、失業の際に給付が受けられる雇用保険など、同じく従業員にとって重要です。

それぞれ、年金事務所、労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)に必要書類を提出する必要がありますが、手続きをもれなく正確に行うのは、基本知識がない場合には意外と大変です。
(また、場所や時間によっては混雑しており時間がかかるケースもあります。)

各種手続きは紙ではなく電子申請を行うこともできますが、現状では、会社自身が電子証明書を取得するのにそれなりの費用がかかるため、手続きがさほど多くない局面では得策ではありません。(今後、gビズIDなどの活用で、より使いやすくはなると言われています)

この点、社労士に依頼することによって、スムーズかつ正確に社会保険・労働保険の手続きを進めることができます。

2.労働法の基礎知識

一人でも人を雇用する場合、労働基準法を守ることは事業主の義務です。

労働保険の届出に加えて、1日8時間、1週40時間を超える時間外労働が発生する場合には、通称「36協定」と呼ばれる労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。

雇用契約を締結するにあたっては、労働契約の期間(期間の定めがあるかないか)や賃金の決め方、退職に関する事項など、必要事項を雇用契約書(労働条件通知書)に記載して労働者に通知する必要があります。

就業規則がない場合には、雇用契約書の内容が、従業員との間において労働条件を定める唯一の取り決めとなります。従業員が会社をやめる際に、取り決めがないことでトラブルに発展したり、会社側が痛手を受けるケースも目にします。

また、
就業規則は、新規作成の際には、従業員の「意見を聞く」だけで良いですが、一度作成した後に、従業員にとって不利益となる変更を加える場合は、意見を聞くだけでは足りません。
そのため、従業員が10名以上になって作成義務が生じたから、インターネットで見つけたテンプレートをそのまま作って届け出る、というようなことは危険ですし、ほとんど意味をなさないこともあります。

ベンチャー、スタートアップでは、従業員との間で固定残業代制裁量労働制での雇用契約を締結している例が多いですが、制度導入の要件を満たさないまま運用しているケースも非常に多いです。(後になって制度が有効でなかったと判明し、多額の未払い残業代支払いに至るケースもあります)

そのほかにも、従業員の方が仕事中に怪我や病気になったら、産休や育休に入ることになったら… など、知識をつけておくことは、従業員のためにも、会社を守るためにも、必須と言えるでしょう。

日頃から信頼して相談できる社労士などの専門家がいることで、こうしたことをあらかじめ想定し、対応しておくことができます。

3.給与計算の正確性担保・手間の削減

割増賃金の計算や、給与から控除する項目など、正確な給与計算を行うには、手間と時間がかかります。急成長し、従業員が一気に増える局面にある会社にとっては、尚更でしょう。

残業代の計算などを誤っており、未払い賃金が発生していると、退職後のトラブルにつながりかねません。また、未払い賃金の有無はIPOやM&Aの際の重要なポイントともなります。

(民法改正に伴い、未払い賃金の消滅時効が2年から5年に延長されました。(当面の間は3年))

労働時間や賃金の専門家である社労士にアウトソースすることで、会社の成長のために時間を割くことができ、後のトラブルを防ぐことが可能です。

4.助成金の活用

従業員を雇用すると雇用保険に加入することになり、雇用保険料を納めます。
この雇用保険料を原資として、厚生労働省が助成金を支給しています。

助成金は、労働者の雇用の安定や能力の開発などのために会社が行う施策に対して支給されるものです。

つまり、雇用保険に加入しているのであれば、労働環境を整えた上で、助成金を正しく活用することが、会社にとっても従業員にとってもメリットがあります。

そのためには、雇用環境を整えること、そして、助成金の支給要件を満たすことが必要です。助成金には様々な種類があり、要件や募集時期もそれぞれ異なります。日頃の労務管理をカバーし、かつ、タイムリーに情報提供を行ってくれる社労士がいれば、助成金活用の幅は一気に広がるといえるでしょう。

例えば、
スタートアップでも活用しやすい助成金の一つとして、
キャリアアップ助成金(正社員化コース)が挙げられます。

簡単に言うと、期間の定めのある契約(6ヶ月以上)で雇い入れた従業員を、期間満了時に、正社員などに転換した場合に、転換時から6ヶ月後(つまり、雇入れから1年後)に助成金を支給します、というものです。これは、当該従業員の雇用の安定につながる取り組みを評価するものです。

(単純化してご説明しましたが、ほかにも細かい要件等がありますので、正確な情報は厚生労働省のHPをご参照ください。申請にあたっては計画の策定などが必要です。)

助成金額は以下のようになっています。(令和2年4月1日現在、厚生労働省HPより)

有期 → 正規:1人当たり57万円<72万円>
有期 → 無期:1人当たり28万5,000円<36万円>
無期 → 正規:1人当たり28万5,000円<36万円>
※①~③合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人まで
※< >は生産性の向上が認められる場合の額


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本記事は弊所HPより引用しています。労務マップもダウンロードできますのでご活用ください。

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