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2カ国同時立ち上げで始まったスタートアップROMS。ハードウェアへのこだわりと「チーム」の魅力。【利用者インタビュー第六弾】 ROMS代表 前野洋介

今回は、「知の還流」がコンセプトのインキュベーションオフィス「SPROUND」に入居する企業、通称SPROUNDERの入居者インタビュー第7弾として、ROMS, Inc.の創業者、前野洋介(まえのようすけ)さんにお話を伺います。

ポーランドと2カ国同時立ち上げという形で始まったROMSの事業。”少子化、ECの台頭、コロナ禍など様々な課題を抱えるリテール業界に対し、ハードウェアからソフトウェアまで一気通貫したサービスを提供し、新たな顧客体験の創造に導く。”そんなROMSの代表前野さんのハードウェアへのこだわりや、「チーム」についてを語っていただきました。今回は代表の前野さんだけでなく、社員の脇さん、阿部さんにもご同席いただき、お話していただきました。

聞き手はDNX Ventures(以下、DNX)の倉林陽さんです。


前野さんの自己紹介とこれまでのキャリア 

倉林陽さん/DNX Ventures(以下倉林):今日はゆるくおしゃべりしたいと思います。まずは前野さんの自己紹介と創業ストーリーをお願いします。 


前野洋介さん/ROMS代表取締役(以下前野):株式会社ROMS代表取締役の前野です。よろしくお願いします。 

大学卒業後、総合商社に入社し、約14年勤務しました。M&Aや、新規事業開発を担当、うち6年間はアメリカに駐在し、New YorkでM&Aや新規事業開発を担当したり、投資先の在Pittsburghのロボット(AMR/自律走行搬送ロボット)の会社に出向、その会社のエグジット支援をしたりしました。 

私がアメリカに居るときにちょうどWalmartがD2Cのスタートアップを買収したり、AmazonがWhole Foodsを買収したりしていて、アメリカでリテール業界のデジタル化が進むのを目の当たりにしました。自分も日本でそういう動きの中で事業をしたいと思い、日本に戻って大手アパレル会社に転職しました。 

日本のアパレル会社で店舗のデジタル化・変革に取り組む中で、既存の会社ではなく自分でビジネスを立ち上げたい思いが芽生え、2019年にROMSを創業した次第です。 

前野洋介さん/ROMS代表取締役


創業ストーリー とチーム間コミュニケーションの重要性

前野:ROMSは、私とポーランド人達とで共同創業した会社で、 東京とポーランドの第二の首都クラクフの2拠点で同時に立ち上げました。

総合商社の際の先輩の紹介で、「日本で何かしたい」というポーランド人達と出会ったんです。初めて会ったのは日本で、彼らが日本に来たのならFairにいこうと、その1週間後に私が当時彼らがいたロンドンへ飛び、その場で起業を決めました。それが2019年の3月頃ですね。エンジニアメンバーがポーランド、ビジネスメンバーが日本という布陣で、グローバルな体制で始まりました。 


倉林:前野さんは前職の総合商社では本当に有名人で。前野さんが立ち上げた会社に投資しています、と言うと「え、あの前野?」という反応が来るくらい、僕の知り合いは大体前野さんを知っていて。前野さんは本当にみんなから愛されています。 

倉林陽さん/DNX Ventures

前野:ありがとうございます。そんな自分でも、やっぱり創業当時は創業メンバー間での意識合わせに相当悩みました。今回、日本人とポーランド人、時間もいる場所も違うという環境で仕事をしてみると、瓦解しやすく、明確な役割分担が必要だと身をもって感じました。スタートアップである以上、同じ時間と考えを持つことが大事だと痛感しましたね。

そのことが、今日一緒に来てもらっているメンバーの二人(以下で紹介)とのコミュニケーションについても、行動を共にしてもらい、電車の中の呟きや他愛もない話を通じて認識を一致させようと思ったきっかけにもなりました。 

ハードウェアはなくならない、その力へ

倉林:SPROUNDをご覧頂いても分かる通り、我々DNXの投資先はSaaSスタートアップが多く画一的です。その中で、同じくBtoBではあるけれども、ハードウェアも伴うロボティクス、リカーリングビジネスといった事業を展開している御社に他社とはまた異なる魅力を感じています。前野さんから見て、リテールテックにAIとロボットを使い、かつリカーリングなモデルを作るROMSの事業の魅力は何ですか?

前野:最初に言えるのは、世の中「ハードウェアがない」なんていうことはありえないということです。今のご時世、ネットが当たり前で、ソフトウェアがメインのビジネスを考えがちですが、ソフトウェアがある前にやっぱりそこにはハードウェアが絶対存在する。ハードウェアがどれだけ洗練されるかによって、ソフトウェアの価値も向上すると思っています。

例えばiPhoneやApple Watchは、あのデザインでなかったら成立しなかったと思うんです。どんなに性能やアプリが良くても、iPhoneの形などあのハードウェアのデザイン全部がないと、利用者はこんなに食いつかなかったはず。ハードウェアに磨きをかけることで、結果的にソフトウェアの洗練度が上がっていく。そこがハードウェアに対して魅力を感じているところです。

アメリカにいた時に、「日本の会社はなんでハードウェアに注目しないのか」と色んな現地企業の方に言われました。日本にそうした企業がないのなら、そういう会社を日本で作って、自分が変えたいと思いました。

ハードウェアを扱うむずかしさ

前野: 一方、世界的に見てもハードウェアスタートアップはことごとく失敗しています。もちろん軌道に乗ったところもありますが、確率論的にハードは難しいんです。

ハードウェアスタートアップが難しいとされる大きな理由の一点目は、製品として世に出したらそう簡単に変更が効かないこと。その商品が良いか否かは人によって判断が異なるため、製品の良し悪しは世に出してみないとわかりません。ソフトウェアは一定の条件下では変更が利きますが、ハードウェアはそうはいきません。 

二点目の難しさは、一点目に連座してお金がかかることです。モノを製造し、それをデリバリーして回収するまでに無茶苦茶お金がかかる。所謂 Capital Intensiveなビジネスです。ハードは、企業はもちろん、お客様にもお金を投下してもらわないといけない。その2点が難しいポイントだと思います。  

そこで、ハードウェアをSaaS的な考え方に近づけることで、ハードウェアのスタートアップが感じる難点にブレイクスルーが生まれるのではないかと考えています。 

「RaaS(ロボティクスアズアサービス)」と呼ばれるものも存在しますが、まだ定着していません。恐らくSaaS業界出身者がまだハードウェアやロボティクス領域のスタートアップに少ないのでしょう。我々が、SaaS業界出身のPMやPdM、エンジニアもどんどん迎え入れて、ビジネスモデル自体を造り変えていきたいです。 

倉林:ハード+ソフトは期待される領域ですし、日本ではROMSさんがフロントランナーだと思います。逆に言うとまだわからない部分も多いですが、ROMSさんが切り拓いていって、後に続く会社が生まれればいいなと私も思います。 

SPROUNDの使い方 、良さ

前野:ハードウェアのスタートアップは特に情報共有が重要です。ハードウェアの試運転後に、今日あったことやこれからやるべきことなど、みんなと認識を共有しないとついてこられないメンバーも出てきてしまう。そこで昨年コロナでリモートワークが始まった頃から毎日全メンバーで情報共有を行う朝会を開いてきました。

メンバーが20名ぐらいに拡大し、各領域でチームもできたので、朝会の出席はリーダークラスだけにしました。ですが、週に一回はみんなで集まろうと、SPROUNDの会議室を活用しています。緊急事態宣言が出てzoomで集まる期間もありましたが、顔を合わせて話す環境を残すことは心掛けています。 

元々はエレベーターサイズのオフィスでしたが、そういったオフィスから出て、積極的に様々な人と会ったり話したりするのも大事だと思います。 

あと、隣にDNXのオフィスがあるのもSPROUNDの良さです。うちのメンバーは、今までの仕事で倉林さんみたいな人(投資家)と触れ合ったことがあまりない。SPROUNDにいると、投資家がどういう人なのか、どういうマインドセットでバックアップしてくれているのかを、すぐそこで直接話をして知ることができる。すぐ隣にVCがいるワークスペースってあんまり聞いたことないんですよ。すごくいい機会だし、みんなにとって刺激になると思います。 

前野さんの目指すチームと哲学

前野:実は、創業して少し経ってから、小売業界は相当地域性が強いビジネスで、その点からポーランドにエンジニアを集中させる二拠点での活動は難しいと感じ始め、日本でのエンジニアメンバーの拡充を進め始めました。そのタイミングで新型コロナウイルスの感染拡大が始まった事もあり、2020年4月頃、ポーランドとの二拠点での活動を断念するという経営判断をしました。

以来、日本のみでのチーム編成に移行しています。そのなかで大事にしているのは、私「前野洋介」がこういう人でこういう思いを持っているから一緒にやりたい、ということをメンバーにきちんと伝えること。私は代表取締役とか社長という役職名が好きじゃないんです。私が代表取締役なのか社長なのかははっきり言ってどうでもいいと思っていて。自分が前に出たりトップダウンでディレクションを出してそれに従ってもらうのではなく、一定のディレクションはあれど、それに沿う形でみんなでボトムアップでやっていきたいというのが私のフィロソフィー。

私が言ったことにリアクションするのでなく、みんながプロアクティブにやりたいことを発言し、それを実現することを後押ししたいし、それを咀嚼してディレクションを出したいし、そういう人に来てもらいたいです。 

今日一緒に来ているメンバーの阿部、脇はROMSへの参画を短期間で決めてくれた結構変な人で(笑)。阿部は、一度目はビデオ会議で、二度目に実際に会った吾妻橋のお店(ROMSが展開するトライアル店舗)で、「入社する」と決めてくれて。脇も会って三度目で入社を決めてくれました。私も凝縮して話をして決めたいタイプで、あまりズルズルしたくなかったので、嬉しかったですね。採用というのは、お互いが採用する側される側だと思うんです。 私がその人をどういう人なのか見ているのと同様に、相手にも私が何者なのかを知ってもらいたいと思うし、判断してもらいたいと思っています。

倉林:ありがとうございます。前野さんの器の大きさを感じますね。私も今後の採用に活かしていきたいです。 

脇さん:一つの業界に特化し、課題とソリューションに集中

倉林:さてここからは、同席頂いた脇さんと阿部さんにも、これまでのキャリアやROMSに入ったきっかけを伺いたいと思います。 脇さんは元々経営コンサルティングのお仕事をされていましたよね。


脇さん:はい、私は大学卒業後、アクセンチュアのストラテジー部門で6年間働いていました。消費財業界を担当し、マーケティング戦略立案や、デジタルを活用した新規事業考案を担当していました。

ところが、新規事業案を検討していた当時のクライアントから「初期構想はアクセンチュアでいいけれど、アクセンチュアはお金もかかるし図体も大きすぎるので、その後、実機を作ってPDCAを回す段階に移ったら、ベンチャーと組みます。」と言われ、ショックを受けました。その時に、私は絵を描くだけでなく、何かを創り、実装することでクライアント・ユーザーに価値を提供したいと感じました。転職活動の結果当時80人ほどだったAIのベンチャーに転職、リテールビジネスユニットのリーダーも担当しました。 

ところがすでにリテールの分野には多数の大手ソフトウェアソリューションプロバイダーが存在し、魑魅魍魎お金の奪い合い状態でした。「これでは業界が変わらない、AI・ソフトウェアに限らずできるだけ幅広く、Verticalなソリューション開発がしたい」と思い、当時DNXで働いていた高校の同級生に相談しました。紹介してもらったスタートアップの中で1番フェーズ的にも業界的にも自分に合っていたのが、ROMSでした。ROMSはハードウェアもソフトウェアも扱っているということで、リテール業界の幅広い課題にソリューションを提供できると感じ、入社を決めました。

ROMSに入ってから、Verticalにサービス提供する仕事は自分にとって楽しく、自分が好きなリテール業界のお客様に集中できる喜びを感じています。一つの業界に特化すると、注力すべき課題と提供すべきソリューションを24時間考えていられるのがすごく面白いです。 

課題はやっぱり採用。小売業経験者だけでなく、ロボットが得意な方、アプリが得意な方、ソフトウェアが得意な方にそれぞれの業界から参画していただかなくてはいけない。どの業界の方にも共通してROMSの面白さと立ち向かう課題の深さを伝えるにはどうしたらいいか、想いをチューニングして一緒にやっていくにはどうしたらいいか、未だに解は見えていません。そこがチームビルディング・採用の難しさであり、ROMSがハードウェアからソフトウェアまで扱っていることの難しさだと感じています。

脇春菜さん/ROMS社長室長

倉林:小売りとテクノロジー両方をわかっている人が必要ですが、わかっている人を探すというよりは、一緒にやりながら成長していくような採用も必要かもしれませんね。 
では、今度は阿部さんの自己紹介とROMSの感想をお願いします。 

阿部さん:真面目に事業に向き合う小売業界の魅力とコンサルの限界

阿部さん:私のキャリアのスタートは、外資系投資銀行でのM&Aの仕事でした。金融に興味があったのと、自分の修行も兼ねて1番ラーニングカーブが急なところを選びました。約2年働いた後、小売りやファッションが好きだったことと様々なご縁が重なりハンドバッグのCoachに転職しました。

小売りの面白さは、日々の移り変わりの速さ。月次週次日次でビジネスをすることと、その先にあるお客さんの反応を想像しながら事業をすることに面白さを感じました。 

その後、MBA取得のためニューヨークへ。ニューヨークを選んだのも明確な理由がありました。キャリアの軸に小売をおいていたので、その最先端の場所に身を置いて、ビジネスのアンテナを張った状態で2年間学生生活を過ごしたかったからです。 

帰国後、違う形で小売りに関わりたいと思い、コンサルへ転職。小売りや消費財のプラクティスをメインに担当。嗜好財から飲料、百貨店、スーパーマーケットまでいろんな形で小売りさんと付き合いました。これだけ小売り業界が好きなのは、スピード感の速さもですが、すごく真面目な方が多くて。小売業は(製薬や金融業等と比べ)規制で守られていない産業ということもあって、みなさんバチバチ戦って一生懸命なのですが、薄利多売でどうしたらいいのか困っている方も多い。 

私がやっていた戦略コンサルは、高い費用を払っていただいて知恵を貸すのですが、具体的なサービスや製品のソリューションを直接提供できるわけではなく、コンサルの限界を感じました。小売りさんのDX推進のための指針は示せても、深く手触り感のあるアドバイスは言えなかったんです。そこで、「小売り×DX」で世の中を変えていくためのキャリア選択を考え始め、前野さんに出会って、ROMSの事業は面白そうだと思いました。 

阿部翔太郎さん/ROMS経営戦略室長

倉林:先ほど前野さんのお話では、阿部さんは前野さんと会って二度目の吾妻橋のお店ですぐに入社を決めたとのことでしたが、決め手は何だったのですか ?

阿部さん:一回目話した時になんとなくソリューションの内容はわかったのですが、二回目吾妻橋のお店でプロダクトを見てダイレクトにその「良さ」が伝わりました。ROMSが提供している商品を見た瞬間、自分がコンサルの時に提案していたネットスーパーのソリューションに近かったのと、これを日本でやっているところは他にないだろうと直感的に思いました。 

倉林:なるほど。鳥肌が立ちました、今の。プロダクトを見た時にもうダークストアのイメージまで湧いていて、かつそれが日本では他にないだろうということでベットした(賭けた)ということですね。 

阿部さん:そうですね。 ベットはベットですけど、そこに自分が関わって自分が成功させたいし、あのモデルが日本のスーパーさんに入っている姿をとにかく見たいと思いました。 

倉林:元から業界への知見があったのも、そういったConviction(納得感)を得るのにすごく良かったかもしれないですね。 本日は、 お三方から素敵なお話をいただき、ありがとうございました。


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