ひぐらしず プログレッシブマスロックな二人組が切り拓く、学生バンドシーンの未来:sprayer Interview
2023年3月に活動を開始した、東京のオルタナティブツーピースバンド・ひぐらしず。「プログレッシブマスロックバンド」を自称する彼らは、一筋縄ではいかない変拍子とユニークな楽曲展開、そしてダンスミュージックやボサノバまでをも包摂する豊富な音楽的ボキャブラリーをもって、たった二人とは思えない(あるいは二人だからこそ織りなせる)無限の想像世界へとリスナーを誘う。
2023年7月にはバンドコンテスト『エマージェンザ・ジャパン2023』にて決勝大会に進出し、今後さらに目が離せなくなるであろう彼らにインタビューを敢行。現役の東大生でもある彼らが今まさに築こうとしている東大バンドシーンについても話を聞くことができた。
探求の末の「プログレッシブマスロック」
-お二人は中学時代からの同級生なんですよね?
佐々木(Dr):中学2年の時にクラスが一緒だったんですけど、当時は音楽もやってなかったし、普通の同級生で。
荒川(Vo,Gt):特別仲が良いってこともなく、ただのクラスメイトでした。
佐々木:高校に入って、文化祭に出演するためにそれぞれ別のバンドを組んだ時に、初めて音楽の話をしたかな。
-当時からお互いのことは意識していましたか? 「こいつ、何か光るものあるな」みたいな。
荒川:ほぼ毎日遅刻してきてたっていう印象しかなかったです(笑)
佐々木:高1の時に、文化祭に出るためのオーディションがあったんですけど、僕のバンドのギターが体調不良で来れなくなっちゃって、急遽1曲だけやったことがありましたね。ギター上手いなと思いました。THE BLUE HEARTS「TRAIN-TRAIN」をコピーして。
-それから2人でバンドを組むことになったきっかけは?
荒川:僕は高1くらいから曲を作ったりしてたんですけど、特に人前で演奏することもなくて。だけど、オリジナル曲をバンドでやってみたいっていう気持ちはずっとありました。で、彼もオリジナルでバンドをやりたいとは聞いてたんで、とりあえず受験を頑張って、大学に入ったらやろうって話をしてました。
-結成当初はどのようなバンド像を目指していましたか?
荒川:最初から「バンドやるぞ!」って感じではなくて、最初スタジオに入った時は、僕が循環コードを弾きながらそれにドラムを合わせて、最近あった近況を話すっていうのをずっとやってて(笑)。ただ遊んでるだけみたいな。
-それがだんだん曲に発展していった?
荒川:そうですね。で、遊びでライブに出てみたら思いの外いいかもって。
-ちなみに、ひぐらしずというバンド名の由来は?
荒川:通ってた高校が日暮里にあったから(笑)。ライブに出るにあたって名前を決めなきゃいけなくて、3秒で決めました。
-お二人それぞれの音楽遍歴についても聞かせてください。荒川さんのルーツとなった音楽は?
荒川:幼い頃は親の影響で、マキシマム ザ ホルモン、BUMP OF CHICKEN、QUEENばかり聴いてました。で、小学校高学年ぐらいからいわゆる邦ロックにハマって。ゲスの極み乙女とかサカナクション、中学からはNUMBER GIRLを聴いていました。ギターを始めたのも中学1年生で。今のスタイルに一番影響を与えたのは崎山蒼志さん。こんなすごい同級生いるんだ!って衝撃を受けて、彼の曲をコピーしまくりました。
-佐々木さんはいかがでしょう?
佐々木:小さい頃から楽器に触るのが好きで、小学生の時にはドラムを始めてました。その時はフォークソングばっかり聴いてて。海援隊、チューリップ、イルカ、かぐや姫とか。
-それは両親の影響?
佐々木:いや、テレビで見てハマって。むしろ親はフォーク嫌いなくらいでした(笑)。その後は、僕もゲスの極み乙女やサカナクションを通って。高2くらいの時にチャットモンチーを知って、すごくカッコいいと思い、それからオルタナを幅広く聴くようになったかなっていう感じです。
-ひぐらしずの楽曲にはボサノバ、サイケ、ダブ、ダンスミュージックなどの要素が含まれていますし、お二人のSNSからもかなり幅広い音楽を貪欲に摂取していることが見て取れます。
荒川:ワールドミュージックとかも好きですし、色んなジャンルを知りたいっていうマインドではあります。
佐々木:僕も荒川君ほどじゃないですけど、ジャンルの縛りはなく色々聴いてます。
-それは、あくまでリスナーとして音楽が好きだから?
荒川:そうですね、それだけです。
-特に最近気になっているアーティストやジャンル、シーンはありますか?
荒川:大学入って以来すごく聴いてるのは台風クラブ。ああいう空気感が大好きだし、ギターボーカルとして上手すぎるなって。
佐々木:直近ではめっちゃKornを聴いてます。
-Korn!
佐々木:ドラムの刻みがめっちゃかっこよくて。
-正直、意外な回答でした。一方で、ひぐらしずは「プログレッシブマスロック」という肩書を掲げてますけど、二人とも直接的にマスロックからガツンと影響を受けてるというわけではないんですね。
荒川:the cabsとかtricotとかは好きですし、今も新しいマスロックを聴いてはいるんですけど、いわゆる"マスロック"はやりたくない。CANみたいなクラウトロックやOGRE YOU ASSHOLEが大好きで、もっとミニマルなことをしたくて。
-特殊チューニングで流麗なアルペジオを弾いて……みたいなある種の「エモさ」とは距離を置いていますよね。
佐々木:二人だからできないっていうのもありますけど、なんとなく綺麗すぎる音楽は嫌だっていう気持ちはあるかもしれないです。
荒川:一番やりたいのは、音楽を聴いてて「この部分、すごい気持ちいいな」「快感を感じるな」っていうところを詰め合わせて自分たちで再現することで。その一つに変拍子特有の気持ちよさ、気持ち悪さがあった。
-それを突き詰めたら、結果的にマスロックと形容できる音楽になったと。
荒川:そうですね。
最少人数で紡ぐアンサンブル
-昨年7月にはバンドコンテスト『エマージェンザ・ジャパン2023』にて決勝大会に進出しました。それまでの活動とは異なる手応えはありましたか?
荒川:自分たちが思ってたよりも多くの人に見てもらえるきっかけになって。大きく変わりましたね。
佐々木:それをきっかけにちゃんとレコーディングをしてみようってことになったし。
-バンドのモチベーションに火が点くきっかけになったと。
佐々木:色んな人から、ツーピースであることも含めて「他に似たようなバンドが思い付かない」ってことを言われて。すごく嬉しかったし、その個性を持ってこれからもやっていきたいなと感じました。
-確かに、ツーピースという体制は大きな武器でもありますよね。直近のライブではサポートメンバーを迎えたりもしていますが、現在の体制にはこだわりがあるのでしょうか?
荒川:……実はそうでもなくて(笑)。最近は、二人であることよりも純粋にもっと良い音楽であることの方が大事だなと思ってます。そのためには、何十人になってもいい。いまは低いところから高いところまで幅広い音域をカバーできるようにフレーズを作ってるけど、やっぱり限界があって。思いつく限りの二人でやれることはもうやったかなと思います。
-逆に、ツーピースならではの自由度のようなものはありますか?
荒川:すごくありますね。ライブでも、残りの時間を見ながらパートを付け足そうと思ったらすぐにできる。それを汲み取ってくれるのは二人だからこそかなって思います。
-インプロへの対応力を高く保てる。
荒川:そうですね。
佐々木:テンポが頻繁に変わる曲も、目を見て合わせる感じでやってます。
-最少人数で楽曲やライブを成立させるために工夫していることはありますか?
荒川:ライブでの音作りの観点では、一本のギターの音をベースアンプとギターアンプから出して、音域をカバーしようとしたり。
佐々木:ドラムも、使うタムとかは気を付けてます。タムをいっぱい回すことで、低めの音圧も出したいなって。キックの数も意識しますね。
-なるほど。どなたか参考にしてるアーティストやバンドがいらっしゃるんですか?
荒川:長野で活動してる7th Jet Balloon。ライブを観たときに感動しちゃって。音の出し方、音圧が完璧だなと。
佐々木:Klan Aileenっていうバンドがいて。ツーピースなんだけど、アンプを三台使ってるんですよ。そのプレイスタイルも参考になりました。
-曲作りはどういった流れで進むのでしょうか?
荒川:まず僕が弾いてて気持ち良いなと思うメロディを、こういうことをやりたいっていうコンセプトとともに何個か用意します。一緒に構成を考えて、それをぶっ壊して。
佐々木:ライブごとに、「ちょっとこのパートを増やしてみよう」とか。既にある曲に新たなパートを増やすこともありますね。
-作詞に関して気を付けていることはありますか?
佐々木:半分くらいは僕が書いてるんですけど……ひぐらしずでは、なるべく無機質な歌詞を書きたいと思ってて。あんまり感情的じゃないのがいいかなって。
荒川:僕は逆で、感情しかない(笑)。あとは、語感の良さは大事にしたいかな。MONO NO AWAREの歌詞とリズムの取り方が好きで、ああなりたいなと思ってます。
-7月10日にリリースされた最新シングル「喫茶」ではラップも披露していますもんね。こちらはどのように制作されたんですか?
荒川:中高生のころには『フリースタイルダンジョン』をよく見てましたし、HIPHOPっていうジャンルはずっと好きでやってみたいなと思っていたので、作ってみました。歌詞は僕が書いてて……恥ずかしい話、失恋って感じの内容ですね(笑)
-実体験から綴られた言葉なんですね。
荒川:そうですね……。
-そこはあまり詳しく語らず(笑)。
東大バンドシーンとひぐらしずの未来
-東京大学の学生でもあるお二人ですが、今年4月には東大出身バンドの結成・活動を支援するサークルである東京大学ISK主催のイベント『若草』に出演されていますよね。
佐々木:ISKは、僕ともう一人のメンバーで今年立ち上げたサークルなんですけど。そもそも、僕らが外のライブハウスに出演し始めた時に、他の出演者やライブハウスとのコネクションがなくて、立ち振る舞いがわからなかった。なので、そういったノウハウをシェアできるネットワークがあればいいなと思って。僕らの大学の中でオリジナルバンドをやりたい人が集まる場所として、動き始めたところです。
-なるほど。
佐々木:ゆくゆくは、進行方向別通行区分やトリプルファイヤー、Khakiを輩出した早稲田のMMT(Modern Music Troop)みたいなサークルになりたいなと。東大には、そういうバンドサークルのカルチャーがあまりないので。
-東大のバンドシーン事情について、もう少し詳しくお伺いしたいです。
佐々木:僕らよりもっと上の世代には色んなバンドがいるんですけど、コロナ禍で断絶しちゃったんですよね。でも、僕らや一個下の代になってオリジナルのバンドが増えて。サブスクに曲を出してるバンドもいくつかあるし。シーンってほどのものではないけど、傾向としてはエモやマスロックを好む人が多いような気がします。
-現在の東大バンドシーンを象徴するバンド、これからリードしていくようなバンドを挙げるなら?
佐々木:難しいな……みんな良いんですけど、バリバリのマスロックなドデカサッテっていうバンドからは僕らも影響を受けました。ちょうど最近、初のサブスク音源(7月11日リリースのシングル「水光落暉」)を出したばかりです。
-ISKが今後どのような展開を見せるのか、非常に楽しみです。
佐々木:来年2月にキャンパス内にあるホール(駒場キャンパス多目的ホール「駒場小空間」)を使ってフェスをやろうって話を進めていて。ウチの大学のバンドと外部のゲストバンドを合わせて、シーンを作っていこうと計画しているところです。
昔、同じ会場で『東京BOREDOM』ってイベントが開催されたことがあるんですよ。非常階段、SuiseiNoboAz、Qomolangma Tomato、割礼とか、名だたるアングラバンドたちが集結した伝説のイベントで。今回は、大学の外部からじゃなく内部から盛り上げていきたいと思ってます。
-最後に、ひぐらしずが目指すバンド像について教えてください。
荒川:一番は、ちゃんと自分のペースでやれれば。周りに流されず、好きなことをただやるって感じですね。
佐々木:ちゃんと作品を仕上げて、MVとかも作って……みたいな一通りのことを、一個ずつやっていければと思ってます。二人なんで、なかなか人手が足りないんですけど(笑)
Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to)
Edit:sprayer note編集部
Profile:ひぐらしず
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