
夢の中の世界を具現化するシンガーソングライター ムラサキチハヤの頭の中:sprayer Interview
軽快なバンドアンサンブルをぐにゃりと歪ませる、祭囃子と古琴の音色、瘴気ただよう謎めいたサウンド。アヴァンギャルドで幻想的な音世界は、芸術家の頭の中に直接ダイブしているかのようだ。
2023年4月に前名義でバンドスタイルでの活動を開始したムラサキチハヤ。2024年9月から現名義に改め、ソロのシンガーソングライターとしてのキャリアをスタートさせた。
今回は、活動形態変更の背景や彼の掲げる「夢の中で見た世界を具現化する」というテーマ、そして最新シングル「脳に潜む」の裏側や2月7日に開催される初の単独公演『羊太夫を見つめて』への意気込みについて、話を聞いた。
具体性だけが正義じゃない

-ソロSSW・ムラサキチハヤへの名義変更は、いつごろから考えてらっしゃったんですか?
そもそも、前名義の活動の趣旨は、3年間くらいライブ活動をしていなかったそれ以前の時期の鬱憤を晴らすことでもあったんですよね。だから当初は、バンドにできるならしたいという思いと、ソロという形もありなんだろうなという思いが半々くらい。でも、やっていくうちに、自分の個としてのオリジナリティをもっと表現できそうだなと思えてきて。一年くらいかけてその形を作って、ソロ一本でやっていくことを表明したという流れです。
-活動の重心が徐々に変わってきて、それに伴う改名だと。
そうですね。ライブの本数をちょっと落として、もっと世の中に切り込んでいくようなやり方を見つけたくて。尊敬するソロアーティストはたくさんいるんですけれど、その影響もあります。バンドで功績を残すのにも憧れはあったしもちろん凄いと思うけど、個人で大勢の人を魅了することに興味がシフトしていったというか。
-チハヤさんが個人で表現したいものを、もう少し詳しく言うと?
作品を作る時に、具体的なものと抽象的なもののバランスについて考えるんですよ。「もっとわかりやすくした方がいいよ」みたいなアドバイスもよくされるんだけど、それには違和感がある。僕自身、抽象的な表現をするアーティストに惹かれることが多かったから、そこに重点を置きたかった。その一例に「夢の中」があると思って。
記憶もあやふやだし、景色もどんどん移り変わる。想像もしてなかったような情景が見えるのがすごく面白いなと思って、それを作品にしようと。そこに行き着いて以来、夢をテーマにした作品からインスピレーションを受けることも増えて。これが自分のやりたい表現なのかなって気付きましたね。

-確かに、夢っていち個人の脳内で繰り広げられることだから、それを表現するにはバンドという集団よりもソロの方がしっくりくるのかもしれない。
集団でもできるだろうけど、「俺の脳内はこうなんだぜ」ってコミュケーションを取るのが苦手だし、そもそもメンバー同士の距離感でやっていくのが向いてないと思っているので、一人にこだわっているのかもしれないですね。まあ、頑固なんですよ(笑)。
-誰かと共有するために整理されたものじゃなくて、グチャッとなったままのものをアウトプットしたかった?
そういう部分もありますね。未完成で抽象的なものの中にも美しさがあるっていう見方があると思っていて。具体性だけを押し付けられると違うなと思います。
-実際に現名義で活動を始めてみて、チハヤさんの中のマインドに変化はありましたか?
うーん、良くも悪くも変わってない気がしますね。表現の引き出しは増えましたけど。前名義でリリースした「ハラキリ万歳」っていう曲があって、あれこそが僕の中で具体と抽象のバランスが絶妙な楽曲なんですね。やっぱり、まだあの曲を越えられてないっていう気がしてて。ということは、目指してるベクトルは変わってないんだと思います。
-「ムラサキチハヤ」になったことで何かが変化したというよりは、向かっていく道がハッキリしたというか。
そうですね。以前は、とにかく何も考えずにふわっとしたものを書き起こしていくというバイタリティがあふれていたけれど、目指すところが見えてなかった。でも、色々な人と出会ったり、見てくれるお客さんも増えたこともあって、進む先がハッキリしたっていうのはあります。
-バンドって、メンバー同士の関係性も含めたストーリーにみんな注目するじゃないですか。ソロ名義ではそういった成長物語的なものと距離を置くのでしょうか?
ソロ名義とはいえ、僕一人で動かしてるわけではないし。自主でやってるレーベルの人間もいて、それはいわばバンドに近い、チームなので。やっぱり活動とストーリーは切っても切れないものだと思います。
-ソロ名義になっても、特定のシーンに属することへのこだわりは変わらずあるんですか?
「どこにも属さずにやってるヤツは、それなりの強さを持ってる」っていう言葉があって。「自分はこのカテゴリにいる」って自分から言うのは違うかなと。これまでに僕の曲とか世界観を好きになってくれた人には、ムラサキチハヤという音楽家がこれからどうなっていくのかを見届けてほしい。それだけですね。
「混ぜるな危険」のギリギリにあるマリアージュ

-個の強さがあればどこのシーンにも行けるし、他のシーンにも影響を与えられるということですね。話は戻りますが、チハヤさんが掲げる「夢の中で見た世界を具現化する」というテーマがすごく面白いなと思っていて。そもそもなぜチハヤさんは「夢」に惹かれるのでしょう?
昔から、見たことないものを面白いと感じる、未知を開拓したくなる性分なんですよ。夢って、それを味わわせてくれるもので。「なんじゃこりゃ」が詰まってるじゃないですか。だから、作品を作る上で自然に惹かれていった。適当に言うんですけれど、たとえば学校があって、転校生が来たと思ったら、エイリアンだった、みたいな。そういうのが夢じゃないですか。そういう違和感とか矛盾が許される世界が夢だから、それを音楽にしたいなって。
-「なんじゃこりゃ」なんだけど、自分の中の隠れた欲望が表れていたりもするのが夢の面白さでもありますよね。
うん、面白いですね。でも、夢で見たままを直接言うと伝わらないから、いかにそれをみんなが理解できる範疇に収めるかっていう、理性的な部分とのバランスは大事にしています。
-ということは、チハヤさんの楽曲は実際に見た夢がインスピレーション源になっている?
主にそうです。「銃で撃たれる夢」はムラサキチハヤとして1作目に出した曲なんですけど、まさに文字通りですね。
-なるほど。ちなみに、よく見る夢とかってあります?
めっちゃしょうもない話なんですけど、最近は3日に1回ぐらい、(2月7日開催の)ワンマン当日の夢を見ますね。でも全然新曲が仕上がってなくて。本番数時間前に、スタッフと「あと数時間あれば曲が出来るから、頑張って作ろうぜ」とか話してるんですけど、リハとか始まってんですよ(笑)。あとは、もうお客さんが入ってるのにセトリが決まってないとかいう夢を10回ぐらい見ましたね。
-(笑)。僕も、急遽ONE OK ROCKのメンバーになってギター弾かされる、みたいな夢をよく見ます。
ははは(笑)。そういうのが面白いし、普段の日常における不安が表れてるんだなと思いますね。そこと戦ってるんだなって。

-夢以外に、曲を書き始めるきっかけになるものってありますか?
だいたいはメロディからですね。フックになるメロディの基準が自分の中にあって、それを超えたら採用する。パソコンを開いて作るっていうより、何気なく日常を過ごしているときとか、寝る前にふと思いつくことが多いですね。それをもとにバックのサウンドを頭の中で作ったり、世界観やテーマを「あの時に見た夢から持ってこよう」とか考えたり。
-なるほど、夢とメロディを結合させていくと。チハヤさんの楽曲の特徴として、琴のようなオリエンタルな楽器の使用や、バンドサウンドから逸脱したパートの挿入が挙げられますが、こういったアイデアはどのように発想するんですか?
元々、アジアの民族音楽や民族楽器が好きなんですよね。小学校の音楽の授業とかで歌わされたりするじゃないですか。その時からファンなんです。みんなに合わせて「授業ダリぃ」とか言いながら、内心では「めっちゃ良い曲だな」って。
あと、楽曲にある「なんじゃこりゃ」っていうセクションは、結構迷いながら作ってて。王道で行こうと思えば行けるんだけど、ああいうのをあえてぶち込んで。レコーディングやミックスの時にも「なんだこれ!?」ってよく言われるんですけど、押し通す(笑)。僕の中ではそこが勝負なので。何でもかんでもやるってわけじゃないけど、自分の中の基準を超えられるものならそれでいこうと。
-そのあたりも含めて、ルーツがロックだけじゃないんだろうなっていうのは楽曲を聴いていて感じます。
ハマらないジャンルももちろんあったけど、幅広く好きなんですよね。聴いてるってだけじゃなくて、好きなものが多くて。上手いこと引き出しから取り出してます。今でもテクノが好きで聴いていたり、昔はHIPHOPを聴き漁っていた時期もありましたね。
-たとえばHyperpopのように、色んなジャンルがごった煮になっている音楽っていうのはトレンドだったりもしますけれど、チハヤさんの楽曲における異ジャンルの差し込み方っていうのはそれと少し違うんですよね。新しいんだけど、ただ今どきっぽいっていうわけじゃないっていうか。
混ぜるな危険も、ギリギリのところにはマリアージュがあったりする。それが面白くて作曲してる部分は大いにありますね。
「サウンドが軽くなった分、色んな音を鳴らしやすくなった」

-1月14日にリリースした最新シングル「脳に潜む」についても聞かせてください。こちらはどういった流れで生まれた楽曲なのでしょうか?
僕の高校の同級生で、結構覚醒してるタイプのヤツがいるんですけど(笑)。そいつがSNSか何かのプロフィールに「自然とは? 人工物とは? それは個々の脳に潜む」みたいな文章が書いてあって。また何か言ってるなと思ってたんですけど、「脳に潜む」っていうワードが引っ掛かったんですよね。だから、俺の脳の中に何が潜んでるのかというテーマで曲を作ってみようかなと。
ただ、「脳に潜む」は割と急ぎ足で作った曲なんです。レコーディングの日程が決まっちゃってた中で、なかなか作曲が上手くいかなくて。こんなので大丈夫か? と思いながら出来たのが「脳に潜む」なんです。
-締め切りを意識して。
そうですね。締め切りに追われてるメジャーアーティストはすげえなと思いつつ。サウンドも今までとはちょっと系統を変えてみました。ロックチューンではあるんだけど、今までは太い歪みに頼っていたのをやめてみようと。あとは昔っぽいデジタルなシンセをメインにしてみたり。挑戦的な部分もあります。
-話は逸れますけれど、ヒット曲を作ったアーティストは、しばしば「この曲が売れるとは思ってなかった」なんてことを語りますよね。
言いますよね。今までは神経を張り詰めて、時間をかけて曲を作ってたけど、もっと思いのままに軽い気持ちで作ってもいいのかなって気もしています。
-その一曲を作る時間は短かったとしても、それまで積み重ねてきた長い時間が表れますからね。
その通りだと思います。
-「脳に潜む」には、いわゆる邦ロックっぽさがあるというか。4つ打ちのダンスビートが、ライブの乗りやすさを意識してるのかなと思いました。
それはありますね。ライブで飽きない乗り方を想像しながら作る。そうしないと実際に演奏するときに自分が困るので(笑)。

-前名義にはもっとメタルっぽい質感の曲もあったじゃないですか。現名義では、オルタナ~ギターロックっぽい曲が中心になってきてますよね。
僕がオルタナを好きだっていうのもあるし、その中でも自分の個性は出せると思うので。今のサウンドの方が、曲作りに頭を悩ませますけどね。前名義では歪んだパワーコードが中心で、言い方は悪いけど適当に形にすることができたんです。でも今は、コードワークを意識することが増えたので。
-メタルコアなんかは、ある程度コード進行やリフの構造にフォーマットがありますもんね。逆に言うと、音楽性を変えたことでさらに個性を前面に出しやすくなったんじゃないでしょうか。
そう思います。コードワークの意識もそうですし、サウンドが軽くなった分、色んな音を鳴らしやすくなったので。その面白さを受け取ってもらえたら嬉しいですね。
-余談なんですけれど、『ドロヘドロ』っていうアニメ、観たことありますか? 楽曲のオリエンタルなテイストやアートワークにすごい親和性があるなと思って。
タイトルは聞いたことありますね……あ、思い出した。観ました! 友達に、「お前が好きそうだから観ろ」って言われたんで。
世界観を魅せる初の単独公演開催へ

-2月7日には初の単独公演『羊太夫を見つめて』を東京・神楽坂の神楽音/Kaguraneにて開催します。始動から約半年のタイミングでワンマンをやるのは思い切った決断なんじゃないかなと思いますが。
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— ムラサキチハヤ_staff (@chihayamurasaki) November 23, 2024
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最高80人‼️
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👁👁LIVE情報解禁👁👁#ムラサキチハヤ
初のワンマンライブ開催決定!!
『羊太夫を見つめて』
【日程】 令和7年2月7日金曜日
【場所】新宿 神楽坂 神楽音/Kagurane
【会場/開演】 18:00/18:30
【料金】前売:¥4,000-/当日:¥4,500-(+D代¥700-)… pic.twitter.com/7qXpZxksX3
だいぶ思い切りましたね。11月に対バンライブがあって、その次の予定が決まってなかったんですよ。で、急いで対バンの予定を入れるよりも、このタイミングでワンマンやるって言ったらどうするよ? って言ってみたくなって。SNSで発信してみたら思いの外リアクションがあったので、やってみるかということで。当初はまだライブハウスも押さえてなかったんですけど、表明しないと、僕逃げちゃうんで。
-先の予定を決めて自分を追い込むというか。
そうでもしないと次に行けない気はしたので。
-締め切りが迫る中で「脳に潜む」を作ったという先ほどのお話と重なりますね。
今、僕のケツを叩いてくれる人っていないんですよ。一人だし、事務所に入ってるわけでもないし。自由にできる反面、「絶対にやりきれよ」って言ってくれる人がいないから。
-ライブの組み立て方は、前名義からどのように変化するのでしょう。
名義が変わったからというよりは、単独公演自体が初めてなので、やってみないとわからないですよね。ただ、前名義では結構動いたりするタイプのパフォーマンスが多かったんですけど、今は別の何かで世界観を魅了したいなとは思っていますね。そういう要素が大きくなるんじゃないかと思います。
-それでは最後に、単独公演への意気込みをお願いします。
僕にしか見せられない表現があると思うので、気になる方はぜひ来てください。自信はあります。

Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to)
Edit:sprayer note編集部
Profile:ムラサキチハヤ

『夢の中で見た世界を具現化する』をテーマに作品を届けている。2023年4月から活動を始めたバンドスタイルの活動を経て、2024年9月を機に『ムラサキチハヤ』へと改名し、新たなスタートを切ったシンガーソングライター。
歴史的な楽器やメロディ、時には崩壊したサウンドとも思えるような表現を『夢』へと落とし込み、現実では体感できないようなサウンドがそこにある。
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▼YouTube
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