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顧客データマネジメント in Sportsビジネス

SSACレポート最終回となる今回は、よりスポーツのビジネスサイドにフォーカスを当てて、スポーツビジネスの顧客マネジメント(CRM)について記載したい。放映権を上手く活用・収益化することで、ここ20年間で総売上を10倍近く伸ばしたMLBや、ミレニアム世代をターゲットにソーシャルメディア対応を積極的に行い、今飛ぶ鳥を落とす勢いで人気が拡大しているNBA等、アメリカプロスポーツは時代の波を捉えてビジネスモデルを変革してゆくのが得意である。そのアメリカプロスポーツが、今後のスポーツビジネス・ファンマネジメントをどう捉えているのか、SSACの幾つかのセッションから得たポイントを纏めてみる。

・スタジアム内外でのファンへのシームレスな体験の提供:スポーツファンとチームが最も感情的に繋がる瞬間、ファンが最も高まる瞬間は、スタジアムで試合を見ている時である 。ただし、どんなに熱狂的なファンでも当然試合会場にいない時間の方が生活の大半を占めている中で、スタジアムの外でどのようにファンと繋がってゆくかが重要になってきている。SNSや公式サイトを利用した選手やチームからのコメント、ハイライトやインタビュー動画の配信はもちろんのこと、顧客個人のデータを活用したお薦めの試合チケットやイベント、スペシャルグッズ等のターゲティング広告(含むクーポン配信)によるパーソナライズされたファンとのインタラクションに加え、試合の当日には直前の練習動画の配信や試合に関連する情報の提供等によってファンの気分を盛り上げるなど、試合を見にきた時の盛り上がりを最大化するために、スタジアム外からも如何にシームレスな体験を提供できるかが重要になってきている。

尚、アメリカの4大スポーツと日本のプロ野球、Jリーグの公式SNSアカウントのフォロワー数(2017年4月13日時点)を比較すると下記の通りになる。アメリカの4大スポーツのソーシャルプレゼンスの高さが顕著に目立つ。特にリーグとしてソーシャルメディア戦略に力を入れているNBAはずば抜けた数字を示している。日本のスポーツは競技やファンの規模を考慮しても非常に小さく伸ばす余地が大いにあることがわかる。

・自宅での観戦vs.スタジアムでの観戦:昨今、デジタルデバイスによる複数カメラを自由に視聴者が選択して試合を観れる技術の発達、多くのスタッツ情報の提供、ソーシャルメディア(Twitter等)を通したファン間のインタラクション等、自宅でのスポーツ観戦はどんどん便利になってきている。一方でスタジアムでの観戦は、駐車するのに時間がかかったり、フード・ドリンクを買う際に長蛇の列ができたり、トイレを待ち時間の間にゲームが進行してしまったり、帰りの混雑が激しかったり、と必ずしも快適ではない要素が多々ある。自宅の快適性に迫る体験をスタジアムでも如何に提供できるかが、ファンを試合に呼び込み、ファンエンゲージメントを高めるために重要である。例えばスマホアプリを使って駐車場の空いているスポートへスムーズに案内したり、フード・ドリンクは席に座りながら注文できるようにしたり、トイレの空き状況もアプリから確認できるようにしたり、アプリでハイライト動画やスタッツを提供したりすることは、スタジアムでの観戦体験を高めるという観点で追求すべき。

・シートアップグレード:アメリカの4大スポーツでは、航空会社のように、直前に空きシートがあれば、シーズンチケットホルダー等を対象に席のアップグレードを提供するケースがある。席のアップグレードを体験したファンはその後のチケット再購入比率やファンエンゲージメントが、そうでない人の3-4倍高まるというデータもあり、興味深い。

・スタジアムのデジタル化へ向けた投資:特にミレニアム世代は試合を観に行く際、体験を求めているし、ソーシャルメディアを使ったスタジアムの体験の発信は、スポーツの試合の興奮をその場にはいないその友人にも拡散するという観点で利用価値が高い。各試合特有の公式ハッシュタグの提供によるユーザクリエイトコンテンツ発信の促進は重要。さらにソーシャルメディアへのコネクションだけでなく、前述の通りスマホアプリへのハイライト動画の配信・試合に関連するスタッツの提供、フードの注文等々をスムーズに行えるよう、スタジアムのWiFi環境の整備は急務である。今後VR/AR技術の発達等により、どんどん試合中にスタジアムでファンに提供できるデジタル情報・インタラクティブコンテンツは増加してくることが予想される中、スタジアムのWiFi環境や各種センサー等の設置は今のAvailableな提供サービスベースでなく、将来3-5年後を見据えた形で先行投資してゆく必要がある(つまるところ相当量の通信環境を整備する必要がある)。NBAチーム、Sacrament Kingsのスタジアムへの投資が良い例、詳細別記事はこちら

・ソーシャルメディア戦略:ソーシャルメディアのPaid広告は行動特性や趣味、ロケーション等の情報をベースにターゲティング広告ができるので、スポーツビジネスのマーケティング費用対効果は非常に高い。例えば既存のローヤルティの高いファンクラブメンバーと似たような特性を持っているファンに新規チケット購入のキャンペーンを打つのは非常に効果的。更にソーシャルメディアの広告は、クリックスルーレート、顧客情報の登録、最終的なチケット購入、といったコンバージョンに至る流れも顧客ごとにトラックできるので、費用対効果も測りやすい。実際にNFLのKansas City ChiefsはソーシャルメディアのPaid広告(Facebook)で、試合のチケットの販売ブーストを行い、$4,500のコストで$80,000の売り上げ増を達成したとのこと。費用対効果の高さが伺える。

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