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”サッカー不毛の地”アメリカでサッカー人気が急上昇!MLSの正体とは。

サッカー不毛の地、アメリカ

アメリカと言えば、言わずと知れたスポーツ大国だ。NBA、MLB、NFL、NHLの4大スポーツは世界1位の規模と実力を誇る。

しかしそんなアメリカでも、サッカーに関してはあまりイメージがない方も多いかも知れない。W杯でも、アメリカ代表にはそこまで印象はない。

それもそのはず、アメリカではこれまで何度も国内サッカーリーグの人気拡大を図ってきたが、国民の心を掴むことができなかった歴史があるからだ。

そんなサッカー”不毛の地”アメリカで、新たなサッカー熱が加速している。それがMLSの躍進だ。

MLSとは、メジャーリーグサッカーの略称。1994年のワールドカップ招致でプロリーグ創設の機運が高まり、アメリカおよびカナダの10クラブによって1996年にスタート。現在は、 米国が23・カナダが3クラブの26クラブが参加している。

果たしてMLSはこれまでの挫折を乗り越え、アメリカでの国内サッカーリーグ普及に貢献できるのだろうか?

これまでアメリカで国内リーグが育たなかった理由

もともとアメリカでは、サッカーリーグがいくつも立ち上がっては解散してきた。その中でも1967年から開幕した北米サッカーリーグ(NASL)は特に有名で、ベッケンバウワーやペレ、クライフといったスター選手が参加し、一時期は30クラブにまで拡大するなどアメリカにサッカー人気をもたらした。

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(画像はGetty imageより)

しかし、スター選手ばかりで自国の選手が育たなかったことや、一部のチームに実力・財政が集中し過ぎたことによる実力差などが原因で多くのチームが撤退し、最終的にリーグは幕を閉じることとなった。

MLSがアメリカで人気急上昇中

数多くの挫折を経験してきたアメリカサッカーで今、異変が起きている。前述した1996年よりスタートしたMLSの台頭だ。元日本代表の久保裕也選手がMLSのFCシンシナティに移籍するなど、日本でも少しずつ知名度があがってきている。

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データをみても、2017年に1試合あたりの平均観客数22000人を突破。2013年が約18000人、また2000年前後は14000人であったことを考えると5000人以上の増加を達成している。

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また、2019年の1試合平均観客動員数では、4大リーグのNBAとNHLを上回っている。もちろんキャパシティに制限がある室内アリーナという側面や、試合数の違いなども考えられるが、多くのファンが足を運んでいることには変わりはない。また、2014年FIFAワールドカップの試合がワールドシリーズやNBAファイナルを越えてサッカー番組史上最多のTV視聴者数を記録している。

そんなMLSの変わった仕組みを紹介を以下に紹介する。

MLSの独特な仕組み

1、ローカライズされた制度

MLSには欧州サッカーにはない仕組みがある。それが、『特別指定選手制度』、『ドラフト』、『昇降格なし』である。

アメリカのスポーツ事情に詳しい人ならピンと来るかもしれないが、MLSは欧州リーグの仕組みを一部継承してはいるものの、アメリカ独自にローカライズしている。

これらを説明する前に、まずは「シングルエンティティ」から説明する必要がある。シングルエンティティとは、”リーグ自体が一つの会社となり、各部署としてチームが存在する”という組織のこと。

MLSがシングルエンティティを採用したのは、NASLでの反省を生かし、資金力で勝るクラブに戦力が集中することを避けるためである。MLSでは選手がクラブではなくリーグと契約するため給与もリーグから支払われる。これによってリーグは、クラブの経営安定のためにも「サラリーキャップ制」を設け、選手の年棒やチームの年棒総額に上限を決めることができるのだ。クラブの成長よりもリーグの成長を最優先するための制度である。

ただし、選手年棒が上がりづらく、スター選手の獲得ができないという弊害が生まれていた。その弊害を解消するための策が、特別指定選手枠である。

特別指定選手枠では、リーグからの給与とは別に、各チームが2人まで(条件次第では3枠まで)予算を独自に決定することができる。

この特別ルールによって、ベッカムやカカ、アンリ、イブラヒモヴィッチ、久保裕也といった海外スター選手を次々と獲得し、人気拡大に成功している。

また、ドラフト制度も導入している。ここにも有力選手の特定クラブへの集中を避けるという目的があり、弱小クラブでも将来有望な選手を獲得できるようになっている。アマチュアスポーツの人気が高いアメリカ独自のルールだろう。

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(2016年にドラフト1位指名された遠藤選手。USA TODAY Sportsより引用)

昇降格なしも、戦力差を均衡にするための制度だ。JリーグにはJ1、J2、J3があり、それぞれが毎年昇格&降格することでクラブの入れ替えが行われる。しかし、これでは時間をかけてじっくり補強・育成・チームの構築をする時間がないため、弱小クラブにとってリーグ制覇を行うのは難しい。Jリーグは比較的戦力差が均衡している方だが、欧州リーグでは顕著に戦力差が現れている。これらを回避するため、2リーグ制による昇降格なしという特殊なシステムになっている。

こうした戦力均衡や1クラブへの資金集中を防ぐための仕組みがNASLの反省からもしっかりと実現されているため、リーグ全体の拡大につながっているのだ。

2、地域密着とエクスパンション

MLSはJリーグやブンデスリーガのように、地域に密着したクラブ経営を行っている。クラブは自前のスタジアムを整備し、地域に密着したファンサービスや活動を積極的に行うことでローカルの観客を増やし、チケット収入を拡大させる。MLSではチケットを売る専門のスタッフをチームごとに20人以上も配置し、価格設定も細かく用意されているのだ。

そうして注目度を上げていくことで、チケットを買えなかったファンの間でテレビ・ネット放送の需要が高まり、放映権やスポンサー料が向上していくという狙いがある。

各クラブがこうした地道な地域密着経営を行いつつ、そしてそのチーム数を年々拡大し、アメリカ中の様々な都市に次々と新たなチームを誕生させているのだ。

10チームでスタートしたMLSは、2009年には15クラブ、2010年には16クラブ、2012年には19クラブにまで拡大し、今や26クラブまでもが参加している。

3、若年層やヒスパニック系からの人気

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ギャロップ社によるアメリカ人を対象にしたスポーツ観戦人気度調査では、NFLが37%、NBAが11%、MLBが9%、MLS7%という結果が出ている。(2017年)

すでにNHLよりも人気度が高いことには驚きだが、やはりNFLやNBA、MLBにはまだ届かない現状である。しかし、MLSが最も優れている点は若者からの人気だ。

アメリカの4大リーグでは、ファンの高齢化が急激に進んでいる。ESPNの調査によれば、MLBの視聴者の平均年齢は53歳と4大スポーツで最も高い。また、NFLは47歳、NBAは37歳とどのスポーツも若者からの人気獲得に苦戦しているようだ。

以下は同じくギャロップ社の年齢別での人気度調査結果。

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0~34歳までの人気度ではすでにMLBをダブルスコアで追い抜き、NBAと変わらない数値を叩き出している。

若者を取り込むデジタルマーケティングや、若手選手の育成、ブランディングを積極的に行うことがこの数字につながっている。

また、スペイン系のヒスパニックからの人気も高い。彼らは元より欧州サッカーへの関心が高いので当然だが、そのヒスパニックの人数がアメリカで増加していることも大きく関係していると言えるだろう。