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第4話 実践【Ocean College 伊豆半島~三崎編】

【Ocean College 伊豆半島~三崎編 OC01】

⚓︎ この記事は2019年11月に伊豆半島で開催し、月刊Kazi誌に掲載された【Ocean College(オーシャンカレッジ) 】の長編記事になります。

11/24 実践

朝5時、アラームが鳴る。今日は相模湾を南下して下田までの航海。初めて帆船に乗る人ばかり、参加者は5名。
昨日の宴会の余韻が残る船内、思っていたよりも気温が低い。日が上る前に出港としたいが、何かお腹を温めるものをみんなに食べてもらってから出港することにしよう。再び日本の南側に現れた低気圧に捕まれば二、三日は沼津への帰港が遅れてしまうが、急ぐ旅じゃない。
みんなが起きて来て、チョコレートなんかをかじりながら簡単なスープを飲む。胃を温めておくと体温が保たれ、寒い海上でも体力が持つ。

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出港は06:00を周り、外はうっすらと明るくなってきていた。それでも夜間航海には変わりはなく、灯台・航路ブイ・船舶の灯火を頼りに慎重に船を進める。港外は北の風が強く吹いていて、うねりも大きい。針路は270°真西、横にドタンバタンと揺れる。

こんなかではお湯も沸かせないだろうと、暖かい紅茶を大きな保温ポットに入れておき、お腹が空いた時用にサンドイッチも昨晩の内にみんなで作っておいた。

作戦は完璧だ。そろそろ温かい紅茶でみんなにほっこりとしてもらおう・・・・船酔いはしたくないが、インストラクターとしてホスピタリティーが大事だと思う。船酔いを覚悟で船内に突入。
シンクの中で中身が全て流れて空の保温ポット発見。急いで何もせずにデッキに引き返す。

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船酔いというものは、バランス感覚を司どる三半規管と視覚のズレによって起こる現象だ。そう、視覚と自分の感じているバランス感覚を合わせれば船酔いはしない!いくら揺れていても船酔いのような状態にならない典型的なものがバランスボールだ。これに乗って「きもちわるーい」と言ってダイエットを諦めている人を見たことがない。ただ単にバランスボールに飽きてただけだ。そうだ、船は大きなバランスボールのようなものではないか。僕は今、大きな船の形をしたオシャレなバランスボールに乗り、体幹という体幹をバッキバキに鍛えるためにこのような状態をかれこれ3時間ほどトレーニングとして行なっている。水平線を見つめ、足をしっかりとデッキにつけてこの大きなバランスボールを乗りこなすように、遠くを見つめ!バランスボールのように・・・・!!

おえーーーーーーー。

予報では風・うねりともにあと数時間で落ち着く予報だ。あともう少しの辛抱だ!昨年発表された論文では、南氷洋調査船で船酔いしない人のグループと船酔いする人のグループの呼気の二酸化炭素濃度を計測したところ、船酔いしないグループの二酸化炭素濃度が数パーセント高いことがわかった。つまりはゆっくりと呼吸することで体内の二酸化炭素濃度を高めることにより船酔いは・・・しない・・・!

おえーーーーーーーーーー。

伊豆半島が近づくにつれて、波も小さくなり、針路も270°真西から240°南西に変針したことで船は安定し、船酔いはけろっと治った。
帆船では風を斜め後ろから受けると一番安定して走ることができるので、Soldier’s Wind と呼ばれているらしい。昔の船は船乗り以外も兵士として乗船していたんですね。いわゆる海兵隊。船が安定して帆走ると船酔いから解放されて兵士が喜ぶと・・・。まあ、うんちく以外で現場で実際に「今日は斜め後ろから風を受けているからソルジャーズウィンドだね!」なんて言っている帆船乗りを見かけたことはないが。

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大きなうねりの間から今回は大島が小さく見える。大島の近くを流れる北の潮流にぶつからないために大回りをした。潮流は本来、潮の干満や時間で向きを変えることが多いが、津軽海峡を代表に日本はいくつか決まった流れを持つ場所が存在する。内航船のタンカーで航海士をしている時に先輩航海士の人にこのような特徴的な場所の走り方をよく教えてもらった。
大型船でも速力が大きく変わる流れなので小型の帆船やヨットだと、この潮の流れを理解していると随分と走りやすさが違うと思っている。

10:00に伊東港の沖を通過、予定より少し遅れているが、このまま下田港を目指すことに。
急ぐ旅ではないことがかえって航海の判断を鈍らせることもある。午後に伊豆半島を弱い前線が通過するのだ。前線が通過するということは、風が逆に吹くということ、突風が吹くということ、天候が急変する可能性があるということを考えなければならない。
風は北東、この風が西に変わったら爪木崎をかわしたら真向かいの風、しかも天候が急変したらと思うと、「伊東にしておこうか・・・」という気がしないでもない。もう一度予報と現在の天気図を見て、このまま午後に爪木崎をかわすことになっても、東から下田港に入るときには特に岩礁地帯など危険がない、距離はさほどない。万一、航行できないようなことがあっても、伊豆半島の東側に戻り逃げ込めば風は避けられる・・・下田までは難なく入港できるはずと判断して南下を続けることにした。

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そこで出会った大きな虹。よくみると二重になっている。ポリネシアンの船乗りの間では虹は良いことが現れる前触れ。船が伊豆大島、伊豆半島、相模湾全体にお祝いされているようなそんな目出度い、ハレの気分にデッキが包まれた。やはり海は素晴らしい。この「オーシャンカレッジ」を開講できて本当に良かった。参加してくれたみんなと、こんなに素晴らしい時間が共有できて良かったと心から感謝した。

13:00爪木崎を通過して風は向かい風になりはしたものの、大したこともなく、難なく下田港に入港することができた。
下田港は歴史も温泉も買い物にも困らない良い港だ。しかし港を出るとすぐに太平洋ド真ん中な外海なのでタフなコンディションが多く、小型の帆船では西伊豆からなかなか来れない場所だなと思った。

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港に到着したみんなは、それぞれ帰り仕度を整えて、帰路についた。温泉であったまっていく人、靴を濡らしてしまって新しく買う人、ビールを飲もう!と宣言する人などそれぞれ個性的だったけど、たった1泊2日航海を共にしただけとは思えないような連帯感が生まれていることが、19歳で初めて帆船に出会った頃の自分が航海を終え、さみしいような、とても嬉しいような、船から帰るときの感情を思い出させてくれる光景だった。


Ocean College 伊豆半島~三崎編の様子▼
帆船で大航海 伊豆半島を目指す!

https://youtu.be/iKkHGWKk7cA


【スピリット・オブ・セイラーズチャンネル】

【オーシャンカレッジ オンライン】



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