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「小説の言葉尻をとらえてみた」を読みました(2022.1.28)

 飯間浩明さんの「小説の言葉尻をとらえてみた」(光文社)を読みました。感想を書きます。

とっても面白かった!!!

 いきなり大きな声を出してすみません。面白かったもので……。
図書館でこの本を見かけたとき、タイトルから「揚げ足をとるような感じかな……?」と思ってしまいました。本当にすみません。そんな幼稚な考えは、本書のプロローグですぐに打ち砕かれました。

どんなことばであれ、理由があって生まれてきます。自分になじみのない語や用法だからと言って、「そんなのは誤用だ」と片づけるのは、一種の思考停止です。

(12ページ)

 読んでいて、「このことばの使い方は、自分のそれと違うな」と思っても、それを「誤りだ」と終わらせてしまってしまうのは違う、というのが著者、飯間さんの意見です。ことばの背景にあるものを探求することの楽しさを味わってほしい、とも言っています。
 これって、ことばに限らず、とっても大事なことだと思いませんか?「あなたの行動はおかしいよ!」「きみの考えは間違っている!」と言うことは簡単です。でも、その行動・考えに至るまでの道のりを知ることって、簡単じゃありません。いろんなことを学んでいないと、学び進めないといけないので。それでもあきらめず、わからないことに向き合っていくことは大切だと思っています。真摯に向き合うのって大変だけど、楽しいこともたくさんあるからね!!

物語に「入り込む」

 この本は、「三省堂国語辞典」の編集委員である飯間浩明さんによって書かれています。物語の筋を追うだけが小説を読む楽しみではない、というのが飯間さんの主張です。そこに書かれた『ことば』もまた、小説の面白さであるとして、話は進んでいきます。
 私が面白いと思ったのは、物語の中に入り込み、自由に行動して、日本語の用例採集を行っていく、そのスタイルです。

『ああ、読者か』

  既存の小説からことばを採集するということは、引用がたくさん挿入されているのかな?なんて思いながら読み始めたのですが、そんなんじゃなかったです。ふふふ。
 飯間さんは、物語に入り込み、自由に冒険しながらことばに出会っていたのでした。これだけだと何を言っているのかわからない(自分でも何を言っているかわからなくなってきた)ので、実際に紹介してみたいと思います。

 物語の主人公、古橋笙之介は今、そこからほど近い船宿、「川扇」に来ています。
 対座するのは、東谷こと坂崎重秀。搗根江戸留守居役で、若い笙之介を江戸に呼び寄せた人物です。
 私はと言えば、江戸時代なのに、ワイシャツにズボンという格好で座敷の隅に控えています。二人から見れば異様な風体ですが、彼らは「ああ、読者か」と一瞥をくれただけで話を続けます。

(95ページ)

 ……ご理解いただけたでしょうか。読者として、物語の人物たちと同じレイヤーに立っているのです。本の外から読むのではなく、内側から読んでいます。そのほうが、登場人物たちの話す、生きたことばに触れられるのでしょうか。想像すると、なんだか不思議な光景です。

あらすじと挿絵もいい

 もうひとつ、物語に入り込む上でいい役割を果たしているのが、あらすじと挿絵です。

 この本では、全部で15冊の小説が紹介されています。用例採集という旅の目的地に選ばれた、と言い換えてもいいのかもしれません。1章で1冊ずつ扱われており、各章の冒頭には、小説のタイトルと一緒に挿絵があります。菅沼孝浩さんの絵が、なんともかわいらしく、ユーモラスです。というのも、その物語のワンシーンに、さも当たり前のように飯間さんがいる一枚なのですから。親子の食卓に並んでサンドイッチを食べる飯間さん、電車の中から登場人物たちと一緒にオブジェを眺める飯間さん、源義経と向かい合って話す飯間さん……。物語に入り込み、その中の人々と同じ空気を吸う飯間さんが描かれており、彼の用例採集はこうやって行われているのだな、と想像するヒントをくれているようです。

 あらすじも好きです。挿絵の次ページ、本文の前に差し込まれています。小説の筋をざっくりと紹介しながら、そこに筆者が入り込むぞという流れで書かれています。用例採集へ向かう助走のような役割を担っているように感じました。

言葉へ向き合う、全方位から

 飯間さんがどのように用例採集をしているか説明してきましたが、ここからはその内容に触れていこうと思います。

これは誤用?

 まずは、ことばの使い方について。辞書に載っていないことばや、一般的に誤った使い方とされる表現が、小説には登場します。例えば『愛想を振りまく』という表現が見られたとき、飯間さんは、「それは間違っている!」なんて言いません。その表現は、これまでに使われたことがあるのか、いつから、どのくらい見られるのか、そもそも辞書にはどう書かれているのか……。誤用である、と判断されることの多い表現であっても、実は100年、200年前から使われていたりします。それを間違いだと決めてしまうのってどうなんだろう?と考えるのって面白いですね。

方言

 筆者の出身地に注目することもあります。小説の登場人物たちが話すことばは、舞台設定によって異なりますが、多くは、筆者の出身に関係しています。飯間さんは、登場人物たちの話すことばと筆者の出身地を紐づけて考察しました。筆者がどこで生まれ育ったか、なんて辞書を開いても分かりません。飯間さんの用例採集の旅は、人物史をひもとく道のりでもあるのかもしれない……。

時代のことば

 ことばには、時代があります。今となっては使われなくなったことばから、ここ数年でよく使われるようになったことばまで。文化、時代、ことばは密接にかかわってますね。
 小説の中には、「このことば、この時代には存在しないよね……?」ということもあります。しかし、飯間さんはこれを否定しません。「時代のことば」と「時代小説のことば」は異なるとしています。単純にその時代のことばだけで書いてしまっては、現代の読者には読みづらいでしょう。近現代のことばを含めて書くことは、時代小説におけるひとつの手法だとしています。

おわりに

 「小説の言葉尻をとらえてみた」の感想文でした。改めて、とっても面白かった~というのが感想です。小説の読み方ってひとつじゃなくて、物語を追ってもいいし、ことばのひとつひとつで立ち止まって、ゆっくり向き合ってもいいんだな、と思わせてくれる一冊でした。

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