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エル・サルバドルの働き者

エル・サルバドル(スペイン語で救世主の意)は、過去の内戦の他、地震や火山噴火など中米では日本と同じような自然災害を多く持つ国です。そして親切な国民性と働き者が多い事から中米の日本とも呼ばれているそうです。オリバー・ストーンが撮った「エル・サルバドル」と言う映画をご覧になった人には良いイメージは無いかも知れません。この国に行く予定も無かったのに1泊した時の経験をシェアします。

予定では、グアテマラ・シティから飛行機でホンデュラスの首都テグシガルパへ飛ぶはずでした。フライトの約3時間前くらいには空港から近いホテルで荷造りをして準備をしてたら、凄い地響きのような爆発音と共にホテルが揺れだして一瞬内戦でも始まったのかと慌てて部屋のベランダから外を確認すると空港から凄い量の黒煙が立ち上って、これは尋常ではないことが直ぐに分かりました。空港は軍との共用施設で、軍の弾薬庫で火災が発生し、一部の弾薬が爆発したのでした。(常時携帯してた短波ラジオで知りました)。ホテルからタクシーに乗ってとりあえず空港へ行ってみると、既に軍隊によって完全封鎖されていました。2時間後のフライトどころの騒ぎでなくなりました。

タクシー運転手に今日中にテグシガルパへ行かなければならないけど、何か方法はないか尋ねたら、長距離バスで隣国エル・サルバドルの首都サン・サルバドルへ行って、そこからテグシガルパ行きの飛行機に乗れば良いと教えてくれました。早速、長距離バスターミナルでサン・サルバドル行きを見つけてスーツケースを車体下の格納スペースへ放り込んで搭乗しました。国境近くの道路は色々な障害物が置かれてバスはのろのろ蛇行運転をしてるし、外には兵士みたいな人がいるので検問か何かかと思ったらギャング団だったようで、バスの運転手の機転で止まらず走り抜けたと、後で隣の旅行者から聞きました。本当の国境ではイミグレはバスの添乗員が全員分をまとめてやってくれました。各自パスポートに小額紙幣を挟んでたけど、小職は外国人だから10米ドルくらい挟むように言われました。

バスは無事サン・サルバドルの中心部の5つ星ホテル前へ午後7時を過ぎた頃に到着して、すかさずタクシーを見つけて空港へ走ってもらいました。結構なスピードで走ったにも拘らず1時間以上かかって空港へ到着し、慌ててカウンターでテグシガルパ行きに乗りたいと言ったらたった今、今夜の最終便が出て行ったと、、。空港の照明がどんどん消されてる中、ガックリして外を見るとタクシーの運転手がニコニコしながらこちらを見てる。「どうやら友達になりそうだね、俺たち」って話しかけてきた。「お前、間に合わないの分かってたんじゃないのか?」、「へへへ、で、今夜はどうするんですか?」、「空港周りは何にもないからサン・サルバドルへ戻るよ」、「じゃあ俺のタクシーで!」、「この野郎、、」てな会話をしました。

空港からサン・サルバドルへの帰路は、ほんと何にも見えない漆黒の闇の中、タクシーのヘッドライトだけが光源でした。暫くすると運転手は、「あんたは神を信じるか?」って尋ねて来ました。「なぜそんな事訊くのか?」、「もし俺たちが無事サン・サルバドルへ着いたら神に感謝しなけりゃならないよ。なぜならこの道が強盗団が出没する最も危険な場所なんだ、だから俺は何が出て来ても絶対に車を止めず走り抜けるからね」、「お前、それ先に言えよ!何で金と時間を掛けて危険な思いしなけりゃならないよ。知ってりゃ今頃バスが着いたあのホテルでくつろいでるのに、、」。

無事サン・サルバドルの5つ星ホテルに夜中近くに到着してチェックインを済ませて運転手へサヨナラすると、「明日の朝のタクシーは、どうする?」、「えっ、お前来るの? 早朝4時だよ」、「もちろん来ますよ」、「分かった、じゃあ明日の朝」。翌朝、知らない男から声をかけられた「あんただろ空港へ行くのは?」、「なぜ知ってんの?」、「昨夜は弟が世話になりました、奴はまだ寝てるから俺が代わりに来ました」、「なんだよ、兄弟で稼いでんのかよ」。その後、無事空港からテグシガルパ行き朝1便に搭乗しました。

今、エル・サルバドルでは米国で不法就労してたサルバドル人の多くがトランプ政権の毅然とした対応で大勢帰国してるそうです。中にはギャング団も含まれていて親の故郷のこの国で犯罪組織を作って、他の組織との抗争事件が多発してるそうです。顔にそれぞれのギャング団の刺青を入れる為、誰がどのギャング団に所属してるかが直ぐに分かり、至る所で暴力事件が起きてるそうです。中米で1番の働き者の国が、内戦、自然災害、そして今はギャング団抗争の国になっています。小職が偶然通過した時は、実は束の間の平和な時だったんだと思います。

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