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歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏のTEDトーク Why humans run the world. 2015年5月

7万年前、我々人類の祖先は取るに足りない程のちっぽけな動物でした。先史時代の人類ついて知っておくべき最も重要なことは、人類は重要な存在ではなかったということです。人類がおよぼす地球への影響はクラゲやホタルやキツツキと大して変わらなかったのです。ところが今日では人間がこの地球をコントロールしています。ここで疑問が湧きます。いかにその先史時代からここまでに至ったのか?アフリカ大地の片隅で自分たちが生きるのに精一杯な取るに足らない存在の類人猿から地球の支配者になったのか。大抵この疑問に対し人間はそのほかすべての動物を比較して個々の違いに目を向けます。

我々が信じたいのは - 私が信じたいのは人間には特別な何かがあるということです。人間の身体や脳に犬や豚やチンパンジーよりずっと優れている特別な何かがあると信じたがります。しかし、実は個々の能力のレベルでは恥ずかしながらチンパンジーと差はないのです。さらに言えば、もし私ひとりと一匹のチンパンジーを孤島に置き去りにした場合、生き残りをかけて必死になりますが、どちらが上手く生き延びる可能性があるかー 私ならチンパンジーに賭けますね。これは私に問題があるわけではなくて、ほとんどの人がたった一人でチンパンジーと孤島に置かれたらチンパンジーの方がよっぽど生存可能性が高いでしょうね。

人間とそのほか全ての動物の本当の違いは、個々の能力のレベルではなく集団としての違いにあるのです。人間が地球をコントロールしているのは、人間が唯一柔軟かつ大勢で協働できる動物だからです。さて、ほかの動物でも蜂や蟻のような社会性のある昆虫がいますね。多数で協働しています。ただ、柔軟性があるわけではないんです。彼らの協働はとても柔軟性に欠けています。ミツバチの巣は基本的にひとつの方法でのみ機能しています。もし、ミツバチが新しい環境や初めて遭遇する危険に出くわしても一夜にして新しい社会システムに作り変えることはできません。例えば、女王蜂を処刑してミツバチ共和国を設立したり、働き蜂の共産主義独裁政権を設立したり、そんなことはできません。

ほかにも社会性のある哺乳類はいます。オオカミや象やイルカやチンパンジーです。彼らはもっと柔軟に協働できます。でも、それは少数に限っての場合です。というのもチンパンジーの協働はチンパンジー同士がお互いをよく知っていなければ成立しません。私はチンパンジー、あなたもチンパンジー、あなたと一緒に協働したいんです。あなたのことをよく知る必要があります。あなたはどんなチンパンジー? 善良なチンパンジー?それとも悪いヤツ? 信頼していい?あなたのことをよく知りもしないで協働なんてできるわけないでしょ? ふたつの能力を持ち合わせ柔軟性を持って大勢でも協働できる唯一我々ホモ・サピエンスだけなのです。

1対1あるいは10対10ならチンパンジーの方が良い成果を出す場合もあります。しかし、1000人の人間に対し1000匹のチンパンジーなら容易に人間が勝ちます。理由は簡単です。数が1000匹となるとチンパンジーは協働できないからです。10万匹のチンパンジーをオックスフォード・ストリートやウェンブリー・スタジアムはたまた天安門広場やバチカンに連れてきて押し込んだら、もうそこは完全なるカオスです。想像してみてください。ウェンブリー・スタジアムに10万匹のチンパンジー、大混乱ですよね。対照的に何万人もの人が普通にスタジアムに集まりますが、それでもカオスにはなりませんよね。その代わりに極めて洗練された効率的な協力の輪を築きます。これまで人類が成し遂げた偉業はピラミッドであれ月への飛行であれそれらは全て個人の才能によるものではなく大勢が柔軟性をもって協働できるという人間の能力によるものなのです。

このプレゼンテーションひとつをとってもそうです。今300から400人の観衆の皆さんの前に立っていますが、ほとんどの方が私にとっては初めてお会いする方々です。同様に、このイベントを運営している人々のことも私はよく知っているわけではありません。昨日、飛行機でロンドンまで来ましたが操縦していたパイロットや搭乗員のことも私はよく知りません。プレゼンを録画しているこのマイクやあのカメラを発明した人や製造した人も私は知りません。このプレゼンを準備するのに本や論文を読みましたが、その著者たちのことを私は知りません。そしてインターネットでこのプレゼンを見る人々、ブエノスアイレスやニューデリーのどこかで見ている人々のことを私はもちろん知りません。それにもかかわらずお互いに知らない同士でもここでアイデアをグローバルに交換するために私たちは協働することができます。チンパンジーにはこれはできません。もちろんチンパンジーもお互いのコミュニケーションをしますが、遠く離れたチンパンジーの群れにバナナや象や、その他チンパンジーが興味がありそうなことについて遠路はるばるプレゼンしにやってくるチンパンジーなんていません。

たしかに協働がいつも良いわけではありません。これまで人間がしてきた忌まわしいことも実際我々がしてきた酷いことも大規模な協力から生まれたものです。監獄も協力体制の上に成り立っていますし、大虐殺もそうですし、強制収容所も然りです。チンパンジーの世界には大虐殺も監獄も強制収容所もありません。皆さんは納得されるでしょう。人間は大勢でも柔軟性をもって協働することができるから地球をコントロールするまでになったと。すると探求心のある方々はすぐに次の疑問が湧いてきますよね。まさにどうやって協働しているのか。ほかの動物にはできないような協働を可能にするのは何か。答えはズバリ、想像力です。

人間は無数の知らない人たちとも柔軟性をもって協働することができます。それは、この地球上で人間だけが唯一、想像したり架空の物語を作りそれを信じることができるからです。全員が同じフィクションを信じれば、同じルールや基準や価値観に従って全員が行動します。その他の動物が行うコミュニケーションは事実を伝えることだけに使います。チンパンジーの場合、「見て!ライオンがいる!逃げろ!」とか「見て!あっちにバナナの木がある!バナナを取に行こう!」とかです。対して人間は事実を伝えるためだけではなく、新しい現実や架空の現実を創り出すために言葉を使うのです。人間は「ほら、雲の上に神様がいる、もし私の言う通りにしなかったら死んだ時に罰として地獄に送られてしまうよ」と言えるのです。もし全員が今私が作ったこの話を信じたら、同じ規範、法律、価値観に従うことになり協働が可能になります。人間にしかできないことです。バナナを渡すようにチンパンジーを説得するのに「死んだら天国に行けるよ」と約束してもダメです。「その善行によって天国でたくさんのバナナをもらえるよ、だからバナナをちょうだい」、チンパンジーは絶対にこの話を信じませんよね。人間だけがこういった話を信じる。これが人間が地球をコントロールし、一方でチンパンジーが動物園や研究所の檻の中に閉じ込められている理由です。

同意いただけると思いますが、宗教では同じフィクションを信じることで信者は団結しています。何百万人という人が一緒になって大聖堂やモスクを建てたり、十字軍やジハードで戦うのは神、天国、地獄といったことを皆が信じているからです。しかし、ここで強調したいのは人間がなし得る大規模な協働は、どれもまったく同じメカニズムにもとづいているということです。宗教に限ったことではありません。法律の分野を例として挙げてみます。現在では世界の法律制度のほとんどは人権に対する信念を基準としています。ところで人権とは何でしょうか?神や天国と同じように人権もホモ・サピエンスが作った話なのです。客観的な現実ではありません。人類になんら生物学的影響をおよぼすものでもありません。人間の身体を切って開いて中を見ると心臓、腎臓、ニューロン、ホルモン、DNA、でも人権は見つからないでしょう。人権が見つけられるのは我々が作って、ここ数世紀かけて広めてきた話の中だけです。

それらはとても前向きでとてもいい話かもしれませんが、やはり我々が作り上げた架空の話です。これは政治の分野でも当てはまります。近代政治において最も重要な要素は国家です。ところで国家とは何でしょうか? これらも客観的には実在しません。山は物理的に存在します。見ることができ、触れることができ、匂いを嗅ぐことができます。しかし、国家、イスラエル、イラン、フランス、ドイツなど国家は人間が作ったストーリーにすぎませんが、その考えは非常によく定着しています。経済の分野も同様です。グローバル経済で重要な役割を担っているのが企業や法人です。おそらくここにいらっしゃる多くの方がどこかの法人に勤めていると思います。グーグルやトヨタやマクドナルド、これらってつまり何でしょう? 法律家は、これを法的擬制と呼びます。法人も人間が考案した作り事ですが、強力な魔法使いたちによって守られています。まあ、法律家たちのことですが、、。

法人は一日中何をやっているのか?大部分は金を稼ごうとしているんですよね。ところでお金って何でしょう? またしてもお金とは客観的に存在せず、客観的価値もありません。この緑色のドル紙幣、見てください。何の価値もありません。食べられないし、飲めないし、着ることもできません。でも、これが優れた語り部の手にかかると大手の銀行マンや財務大臣や首相が語ると、とても説得力のある話になります。「ほら、この緑色の紙が見えますね?これは実はバナナ10本分の価値があるんですよ」。もし、私がこれを信じたら、そしてあなたも信じたら、みんな信じたら成立するのです。この価値のない紙っぺらを持ってスーパーマーケットに行って会ったこともない見知らぬ人に渡して代わりにバナナを手に入れます。バナナは実際に食べられますからね。驚くべきことですよ。チンパンジー相手にこれはできません。もちろんチンパンジーも交換はできます。「ココナッツをくれたらバナナをあげるよ」これならあります。しかし、価値のない紙っぺらを渡されてバナナをくれってどういうこと?とんでもない!僕を人間だとでも思っているの?

実際のところお金は人間が考案し、受け継がれてきたものの中でもっとも成功した例です。全ての人が信じる唯一のストーリーだからです。全員が神を信じているわけではありません。全員が人権を信じているわけではありません。全員が国家主義というわけではありません。ところがお金やドルは、全員が信じるところとなっています。オサマ・ビン・ラディンでさえもです。彼はアメリカの政治と宗教と文化を憎んでいましたがアメリカ・ドルにたてつくことはありませんでした。実際のところ相当好きだったと思います。つまりは人間は二重の現実にいるので、世界をコントロールしているんです。

他の全ての動物は客観的実在の世界だけに生きています。彼らの現実は、実在的に存在するもので構成されています。川や木やライオンや象のような実在です。我々人間も実在の世界に生きています。川や木もあればライオンも象もいます。しかし、何世紀にもわたって、この実在の世界に加えてフィクションの世界というもうひとつの層を形成していったのです。虚構の世界です。国家、神、お金、法人のようなものです。そして驚くべきことに歴史の過程でこの架空の現実がよりパワーをもつようになり、今日の世界ではこの架空の存在がもっとも力を有しています。

今は川や木やライオンや象が生き残れるかどうかは、まさに架空の世界の決定や願いにかかっているのです。アメリカ合衆国やグーグルや世界銀行のような人間の想像の中にだけにある存在にかかっているのです。ありがとうございました。

Q&A
ブルーノ・ジュッサーニ:ユヴァルさん、新しい本を出版されましたね?「Sapiens」出版の後、次の本を執筆して原書はヘブライ語でまだ翻訳されていないということですが、、。

ユヴァル: 鋭意、翻訳に取り組んでいるところです。

ジュッサーニ:私の理解が間違ってなければ、この本では、いま私たちが経験している驚くべきブレイクスルーについて論じていますね。それは将来的に、私たちの生活を良くする可能性を秘めているだけではなく、あなたはこう記しています。「まさに産業革命のように新しい階級や階級闘争をもたらす」と。今すこし説明いただけますか?

ユヴァル: はい、産業革命では都市部に労働者階級という新しい階級が生まれました。過去200年の政治的また社会的な歴史は、この階級の扱い、新たな問題や機会といったことが大いに関係してきました。そして今日は「役に立たない人々」という巨大な新しい層ができています。コンピュータがより多くの分野においてより高度に利用されるようになり、多くのタスクにおいてコンピュータが人間を超越し、人間が不必要になる可能性がはっきりとしてきました。そして、21世紀における政治的かつ経済上の大きな疑問は「何のために人間が必要なのか?」となるでしょう。控えめに言えば「何のために、こんなにも多くの人間が必要なのか?」

ジュッサーニ:この本の中に答えは書かれていますか?

ユヴァル: 今のところ最も妥当な答えは、彼らをハッピーにさせておくことです。ドラッグとコンピュータ・ゲームで、、。まあ、これはあまり好ましい将来とは思えませんね。

ジュッサーニ:あなたは著書とこの場においてこう主張されていますね、著しい経済的不平等を示す傾向が顕著になっているという議論において我々はまだそのプロセスの初期段階にある、。

ユヴァル: これは予言ではありませんが、我々の前にその可能性が示されてきています。ひとつの可能性は「役に立たない人々」という新たな巨大な層の誕生です。もうひとつは今までとは違った生物学的な階級に区別されていくということです。富裕層は、仮想の神へと成り上がり貧困層は役立たずの層に成り下がっていくのです。

ジュッサーニ:1~2年の内にもう一回TEDでお話いただきたいものです。ユヴァルさん、遠路はるばるありがとうございました。

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