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森鴎外「高瀬舟」を読む

本作品は、京都から大阪へ遠島を課せられた罪人を護送する舟に同乗する同心の心情を語ったものです。現代では刑務所へ護送する役目の刑務官と言ったところでしょうか。テーマとして「足るを知る」と「安楽死」を短編小説で物語っています。小倉の学生時代の現国の教師は、森鴎外が軍医として小倉に住んでたことからか、その分野では名の知れた研究者であったため通年してただただ文庫本で彼の作品を朗読するスタイルの授業で辟易していたことばかりが思い出されます。テーマに興味が持てなかったのか真剣に読んだことが無かったのです。

物語(ネタバレです)は、弟殺しの罪人を高瀬舟に乗せて遠島へ出る港まで護送する間に同心が、心の中でその罪人に付き添いの家族は誰一人と無く、そして本人は微笑みこそ浮かべないものの喜んでいるようにも見えることから、つい身の上を尋ねてしまうことから始まります。罪人は早くに両親を失い小さな弟と二人で雨風を凌げるような場所を点々としながらなんとか生活をしてきたと言う。罪人には多少の生活費が奉行所より支給されるが、その僅かな金さえ懐に持ったことがないこの罪人からすれば喜びだと言う。同心は自身の生活状況と比較して、「足るを知る」とはこのことかと感心してしまう。

そして罪状についても、この罪人の表情や話す内容からして親族を殺害するなど考えられないことから、このこともつい尋ねてしまう。すると罪人は弟が病に倒れ兄に迷惑をかけてはと刃物で自殺を図るも喉元に突き刺さったままどうすることも出来ず苦しんでたところへ罪人が戻ってきて慌てて医者を連れてこようとすると、弟は楽にさせてくれと懇願して刃物を抜いて息の根を止めて欲しいと言う。遂には怨めしそうな目つきで兄を見る。兄は楽にさせようと刃物を抜き息の根を止めたところを近所の婦人に目撃されたとのこと。

同心は、これは殺人なのか?安楽死を願う弟を楽にした兄が罪人になるのか?と自問自答を始める。結局、同心自身では判断が出来ないと結論付け、奉行所の上の人間が判断すること、として話は終わる。

話は同心の心情を吐露する形で語られますが、これは当然軍医として執筆活動も行っていた森鴎外本人の心情でもあったと思います。簡潔な文章とテーマ、明治の文豪は素晴らしいです。

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