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【保存版】出版業界への経済学的視点【需要が減ると、どうなるか】

 こんにちは、山本清流です。


 経済学部に在籍していて、500ページの教科書を三冊は読みました。

 経済学の基礎の基礎は理解できています。


 今回は、経済学の基礎的な知識(たぶん、中学でも勉強するレベル)を用いて、出版業界への経済学的な視点を身に着けることを目標にします。


 あくまでも経済学の理論的な話であり、僕自身、出版業界の実情について詳しいわけではありません。

 しかし、考え方だけでも頭に入っていて、損はないはずです。


 平易に述べるので、ご安心ください。


 誰でも知っているはずの『需要と供給』をテーマにします。


 【需要と供給について】

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 どこかで聞いたことがあると思いますが、需要と供給の均衡点で価格と販売数量が決まります。

 ざっくりと言えば、需要とは、「欲しい」という消費者の気持ちの強さであり、供給とは、「つくりたい」という生産者の気持ちの強さです。


 右下がりの需要曲線と、右上がりの供給曲線が交わるところで、縦軸の価格が決まり、横軸の販売数量が決まります。

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 図のように、価格が低くなると、「欲しい」という消費者の気持ちは強くなっていきます。

 逆に、生産者は、価格が低くなると、「つくりたい」という気持ちが弱くなっていきます。


 「欲しい」という消費者の気持ちと、「つくりたい」という生産者の気持ちが、ちょうど、曲線が交わったところで一致します。

 その交点で、均衡価格と、均衡数量が決まります。


 例:100万部売れた1000円のハード本の場合

 たとえば、100万部売れた1000円のハード本を考えます。

 このとき、縦軸の均衡価格は1000円で、横軸の均衡数量は100万部です。

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 消費者は「1000円なら買おう」と考え、生産者も「1000円なら嬉しい」と100万部を生産します。


 【現在の出版業界について】

 現在の出版業界は、需要が減少している状況です。

 これは、グラフ上で表すと、需要曲線の下方シフトになります。

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 新しい均衡点は、赤い点です。価格が700円、販売数量が60万部に減少しました(※データは適当です)。


 今後も読者離れが進むと、販売数量がどんどん減少していって、一冊当たりの価格も下落していく未来が予想できます。


 以上が、きわめて基礎的な経済学的な視点でした。


 【傾きの問題】

 鋭い方は、「これって、曲線の傾きに影響されるんじゃないか」と考えたかもしれません。そのとおりです。


 例:供給曲線が垂直な場合

 たとえば、供給曲線が垂直な場合は、以下の図のようになります。

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 需要曲線が下方シフトしても、販売部数は変わらず、価格だけが下落しています。1000円から500円に下落していますね(※データは適当です)。


 電子書籍の供給曲線は、以上の図とは違い、ほとんど水平になると思います。供給曲線の形状は、生産コストに影響されます。追加的なコストがほとんどかからない電子書籍の供給曲線は、水平、もしくは緩やかになるはずです。

 

 その場合、需要が減少したら、取引される電子書籍の量は、紙の書籍の場合よりも大きく減少します。供給曲線が水平であるがために、需要が動いても価格がほとんど変わらず、需要が減少したぶんを価格の低下で対応できないからです。

 理論上は、電子書籍の普及によって、販売数量は、紙の書籍よりも少なくなるものと思われます。


 しかし、一般に、書籍の価格はぐらぐら変動したりしないので、価格は一定していると考えてみましょう。その場合、電子書籍の普及によって、販売量がより少なくなるのかどうか、わかりません。


 【ただ、古本市場が消えたなら】

 電子書籍の普及によって、紙の書籍が淘汰され、古本市場が消滅した場合、どうなるでしょう。


 古本は、おそらく、書店で売っている本の代替財なので、古本市場があることによって、文芸市場の需要は低下しています。

 

 もしも、電子化することで古本市場を消滅させることができれば、おそらく、現在よりも書籍の需要は増加します。

 そこはもしかしたら期待かもしれませんが、そのためには、紙の書籍を全面的に廃止して、完全に電子化する必要性があります。


  【需要が減少する要因】

 需要が減少する要因(価格以外で)は、4つあります。

 ①消費者の減少、②消費者の所得や資産の減少、③消費者の嗜好の変化、④他の財の価格の減少、です。

 ひとつずつ、見ていきましょう。


 【①消費者の減少】

 消費者が減少すると、需要も減少します。

 少子高齢化によって日本語を話す人は減少傾向にあるので、今後、日本語で書かれた本の需要は当然、自然減少していきます。


 日本語が世界に普及でもしない限り、勝手に減少していくでしょう。


 【②消費者の所得や資産の減少】

 消費者の所得や資産が減少すると、需要も減少します。(※ただし、所得や資産が減少することで需要が上昇する財もあります。出版業界は主に娯楽なので、その例外にはあてはまらないと考えられます)


 現在の日本は、ほとんど経済成長していません。会社員の収入も増えておらず、厳しい状況です。

 娯楽に回せるお金は減少している傾向にあると言えます。


 【③消費者の嗜好の変化】

 消費者の嗜好が変化すると、需要も変化します。


 youtubeやゲーム、映画のサブスクリプションサービスなど、娯楽が多様化する中で、消費者の嗜好も変化しています。


 例:コンタクトレンズが奪ったもの

 コンタクトレンズが開発されるまで、視力の弱い人のためには眼鏡しかありませんでした。

 コンタクトレンズが開発されると、眼鏡の価値は低くなりました。


 これはデータ上の話ではないです。イノベーションが起こると、消費者に選択肢が増え、一般に、以前からあるものの価値は低くなります。専門的には、需要曲線が弾力的になり、消費者余剰が減少する、と言えます。

 その観点からいって、現在、本の価値は低くなっています。それがデータ上に大きく表れだすのは時間の問題かもしれません。


 現在の出版業界の縮小は、兆候に過ぎないのでは、と個人的には思えます。


 【④他の財の価格の減少】

 他の財(代替財)の価格が減少すると、需要も減少します。


 いま現在のいちばんの本の代替財は、youtubeだと思います。youtubeは無料なので、そちらに娯楽を求める顧客は流れやすいですね。


 現在は、ユーチューブにも有料コンテンツが増えてきているので、今後はどうなるかわかりませんが。


 ここまでは、出版業界(娯楽業界も)を脅すような内容になりました。

 しかし、本にしかない価値もあると思います。


 【娯楽が多様化する中で、本にしかない価値とは】

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 僕は、「圧倒的な情報量の違い」だと思います。

 これはあくまで持論ですが。


 本に含まれている情報量は、youtubeや映画に含まれている情報量の比ではありません。小説も同じだと思います。

 作家の福井晴敏氏も「小説はもっとも容量の大きいメディアである」と述べています。


 【小説でしか構築できない世界がある】

 僕は、そう考えます。

 たとえ、VR技術が発展して、異世界にいるかのように生々しく体験できるゲームが登場しても、です。


 小さな動作や細かい感情の動きを表現できる小説の情報量を舐めてはいけません。

 そこにしかないシーンや、その物語の流れの中でしか成立しない情景がたくさんあります。


 【つまり】

 小説より情報量の少ないメディアでは、小説の世界を完全代替できないのです。


 【だからこそ、情報量のある小説を書こう】

 今回はこれくらいで。最後にひとつ。

 小説でしか描けない世界を描きたい。そんな思いが僕にはあります。


 情報量の多い小説です。

 他のメディアでは再現できないレベルの情景を生みだしたい。


 そんな思いを胸に、僕は、小説を書いていきたいです。

 

 以上で。読んでいただき、ありがとうございました。