見出し画像

◯拷問投票127【第二章 〜重罪と極刑〜】

「ワンボックスカーで住宅街を進む中、夜遅くに、被告人は被害女性を発見しました。このときは、五メートルほど背後から確認して人型ロボットだと思ったということでしたか、この被告人の証言については、みなさんは、どう思われますか?」
 田中裁判長は円卓を見まわしたが、誰も発言しようとしなかった。そこで、「どうでしょうか、四番さんは?」と促した。
「ああ、はい。そうですね」
 同年代の女性、四番は、みんなの視線が集まったことに恐縮するように肩を縮めた。そのわりには声量がしっかりしている。
「うーん。わたしも、日常生活の中では、人型ロボットと人間を区別することは難しい気がしますね。しかも夜道だったことを考えますと、人型ロボットだと間違えても、おかしくはないような、ね。人型ロボットを襲いたいと思っていたのなら、なんか、その期待もありまして、この人、たぶん、人型ロボットだ、と希望的観測に陥ることも不自然ではないのかなあ、という気もしますが……」
「七番さんはどう思いますか?」
 いきなり話を振られると、七番は、「えーと、ですね」と言いながら首を傾げた。もともと補充裁判員だった身体の大きな中年女性である。
「弁護人のかたもおっしゃられていましたけど、歩き方だけで人間と人型ロボットを区別するのは、困難だが、不可能ではない、と思います。だとしたら、被害者の方は人間でしたから、じっくりと見れば、この人は人間だ、となりそうですね。もしも本当に人型ロボットだと間違えたのだとしたら、その間違えた理由がなにかあるはずですが、被告人の口からはそういう理由が出てきませんでしたので」
「七番さんとしては、やはり人間だと認識できていたのではないか、と?」
「そうですね。はい」
 田中裁判長は、続いて、佐藤に目を向けた。促されるまで待つのも失礼かと思い、先に口を開いた。
「僕としては、あやふやな状態だったんじゃないか、と思います。完全に人型ロボットだと認識していた、というのは考えにくいです。七番さんがおっしゃったように、錯誤せざるを得なかった理由みたいなものが、ぜんぜん見えてこないので。だから、なんというか、人間かもしれないし、人型ロボットかもしれない、どっちでもいい、みたいな感じだったんじゃないか、と、まあ、そんな感じで」
 心に浮かんできた言葉を、佐藤は、そのまま口に出していた。言いたかったことはまだあったが、あまり長々と話すのもな、と躊躇した。