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◯拷問投票133【第二章 〜重罪と極刑〜】

 その中、具体的な手がかりもないではなかった。首を絞められているときに被害者が激しく暴れたというのは映像からも確認できる客観的事実であり、被害者の心の中を推認するのに役立つ。少し太り気味の七番が、その点を指摘した。
「これだけ暴れているのであれば、やっぱり、生きようとしていますよ。死ぬことを受け入れているなら、こんなに抵抗しなくないですか」
 これには佐藤も同感だった。
「僕もそう思います」
「わたしも反対するわけではないですが、反射的なものという可能性もあるので、そこは無視できないのかも」
 八番が言った。
「首を絞められて息ができなくなったら苦しいですし、たとえ死んでもいいと思っていても、まったく抵抗しない、ということにはならないのでは。もちろん、反対するわけではないんですが」
「じゃあ、その点、じっくり、みんなで考えていくことにしましょう」
 田中裁判長が指揮をとり、被害者が激しく暴れていることをどのように評価するか、詳細な吟味が始まった。
 八番が提起した反射的なものという説明も、十分に説得力があった。しかし、本人の意思が暴れ方にも表れてくるのではないか、という話になった。死ぬことを認容している人の暴れ方と、絶対に死にたくないと思っている人の暴れ方では、差が出てくるだろう。映像で見る限り、腕をバタバタと振り回すなど、かなり積極的に暴れている。であるとすれば、反射的なものという要素もあるにしても、生きたいという意思も含まれていると考えるべきではないか。そのような方向へ、議論は進んでいった。
 その先に待ち構えていたのは、認容がなかった――つまり、同意がなかった――という結論である。
 誤った判断にならないように、目に焼き付くほど何度も、映像を確認した。激しい抵抗という事実が、どの程度、被害女性の心の内を示しているのか。その証明力についても、慎重な話し合いが続いた。