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◯拷問投票128【第二章 〜重罪と極刑〜】

 すると、その躊躇を読み取ったかのように、田中裁判長が「それで?」と促してきた。これはありがたい。なんだか恥ずかしいが、せっかく用意してくれた機会を利用しない手はなかった。
「少し話は進んでしまうかもしれませんが、第一の事件では、被害者の後頭部をいきなりハンマーで殴りかかっています。偶然にも、それほど騒がれずに済みましたが、ふつう、急に打撃をされたら騒ぐと思うんです。それは被告人も考えれたはずですから、やっぱり、第二の事件みたいに、ナイフを首に突き付けたほうが合理的なんじゃないか、と。それなのに、ハンマーで殴りかかっているというのは、相手が人型ロボットだと――叩けば壊れる機械だという――意識があったんじゃないか、と、ですね。そう思いますと、完全に人間だと認識していたとも思えません」
「あ、あの意見ですね」
 田中裁判長は、ホワイトボードに掲げられた証言整理表を指した。そこに貼られた付箋紙のひとつには、佐藤が提示した小型ハンマーによる暴行の不合理性についての疑問が載っている。
 そのほかの裁判員たちにも意見を確認してから、田中裁判長は、また佐藤のコメントに戻ってきてくれた。
「みなさんの意見を聞きますと、程度に差はあっても、人間だと認識できていたんじゃないかということでした。わたし個人としても、最初の段階から、人間だと認識できていたと考えます。さきほどの六番さんの意見ですが、どうでしょう。とくに四番さんは人型ロボットだと錯誤していたかもしれないということでしたが、六番さんのような考えた方はいかがですか?」
 四番は、こくりとうなずいた。
「ええ、わたしも、人型ロボットだと確信していたとは思ってませんので、どちらかといえば、六番さん寄りです。どっちでもいい、みたいな投げやりさはあったと思います。人間かもしれないけど、たぶん、人型ロボットだから、ハンマーで殴ってやれ、と」
「ということですが、ほかのみなさん、どうでしょう?」
「わたしは、賛成できません。人型ロボットの可能性については、被告人も考えていなかったのでは、と思いますね」
 年配の三番が、自発的に発言した。