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カレー・インド好きにおすすめの7冊の本

コロナ禍で緊急事態宣言が出ていた4月から5月にかけて、SNSでいろんな「バトン」が回りましたね。多くの人が参加していた「ブックカバーチャレンジ」という1週間毎日おすすめの本を紹介するものがありましたが、自分が影響を受けたカレーの本を見直す良い機会になると思い、僕も参加しました。そのときに紹介した内容を一部加筆修正してこちらにまとめておきたいと思います。

参考までに、僕は2003年にインドに旅行に行ったことをきっかけにカレーにハマり、食べ歩きを始めました。正確に数えているわけではありませんが、訪問したお店の数は1,000軒ちょっとくらいだと思います。また、インドには5回訪問しています。Japanese Curry Awardsというアワードものの選考委員もやっています。また、1度だけですがdancyuカレー特集号に記事を書いたことがあります。以前ほどではないですが、カレーやインド料理も作ります。という感じでカレーやインドが三度の飯より好きです。

では、おすすめの本、行ってみましょうー。

1. 森枝卓士「カレーライスと日本人」(1989年刊)

日本におけるカレーの歴史、どのように日本人にカレーが定着していったかを、各地でのフィールドワークやさまざまな文献の引用をもとにアカデミックにまとめた、カレー好きならマストな1冊。開国してからの近代日本は常にカレーとともにあることがよく分かります。そして、これを読むと洋食屋のカレーやカレー粉、固形カレールウがとても愛おしくなる。

この本の現代版と言える水野仁輔さんの「カレーライスの謎」、洋食としてのカレーがどのようにイギリスから日本へ入ってきたのかを探るために日本各地の港町やイギリスを訪ね歩いた、同じく水野仁輔さんの渾身のルポ「幻の黒船カレーを追え」もあわせて読むと日本のカレーについての理解が深まります。


2.小野員裕「東京カレー 食べつくしガイド 104/380店」(1998年刊)

僕がカレーの食べ歩きを始めた2003年当時はインターネット上に情報が全くなく(そもそも当時はネットで検索する習慣もなかった)、お店情報は本や雑誌、知り合いからの口コミだけが頼りでした。ラーメン店のガイドブックはたくさんあったが、カレー店のガイドブックは、小野員裕さんのこの本と水野仁輔さんの本しかなかったのではないでしょうか。もしかすると、この本は日本で初めてのカレー店ガイドブックなのかもしれません。

この本の好きなところが2つあります。

1つは喫茶店や蕎麦屋、果ては雀荘まで、カレー専門店ではないお店も幅広く紹介されている点。地方のお店のレポートや、何となくフラッと立ち寄ったと思われるお店も含まれており、「こんな店もあるんだ」という発見がたくさんあります。

もう1つは、5点満点評価で1.5点がつき、「納得がいかない」「解せない」など辛辣なコメントが遠慮なく書かれている点。特に甘みが強いカレーへの評価が厳しい。まえがきに「お店の評価は僕のきわめて個人的な見解」と書かれているとはいえ、今だったらきっとNGになってしまうのではないでしょうか(講談社さん、よくぞ出版してくれました!)。 そういう点から、企画がよく練り込まれた出版本というよりも、小野さんの個人ブログを読んでいるような楽しさがあり、何度も読んでしまいます。

これの本を初めて読んでから17年が経っていますが、残りの276/380店が未だに気になってしょうがない。小野さん、続きを書いていただけないでしょうか!


3.dancyu 2006年7月号と2007年7月号

ネットでお店情報があまりなかった2000年代に頼りにしていたのが、毎年夏に発売される各雑誌のカレー特集号。掲載店を食べ歩くのが毎年の楽しみでした。中でもdancyuは別格。新店情報もレシピも毎年刺激的で、dancyuに教わったことは本当にたくさんあります。

中でも、南インド料理が注目され始めたタイミングでの2006年の南インド(チェンナイ)特集、2007年のデリー・コチのチキンカレー・ビリヤニ特集は忘れられません。内容がマニアックでついてこれない読者もいたと思いますが、逆にこの特集に感化され、インド料理に傾倒していった人は少なくないのでは。僕もその1人です。日本のインド料理屋では見たことのない料理写真の数々に興奮し、現地のレストランに行くことを夢見ました。その後ゆっくり時間をかけて、3回ほどの渡航でこの2冊の掲載店はほとんど制覇。人生を変えたと言うと大袈裟かもしれませんが、10年スパンで僕の行動に影響を与えた特集でした。

そしてこれらの特集の10年以上あとに、まさか自分がdancyuに記事を書くことになるとは思わなかった。当時の自分に教えてあげたい!

ちなみにdancyuの1991年から2010年までのカレー特集号の記事だけをまとめた「カレー大全」という別冊があり、これが死ぬほど楽しく、安くネットで買えるので是非買ってください。もちろん、上記の2006年と2007年の特集も載っています。


4.水野仁輔「スパイスマジックでつくる カレーの法則」(2006年刊)

この本は僕の中に「カレーのフレームワーク」を作ってくれた1冊です。

カレーとインド料理の食べ歩きにハマった僕は、当然のようにルウを使わずスパイスでカレーを作りたくなり、スパイスとレシピ本を買い揃えて週末にカレーを作るようになりました。レシピ本はそれなりの数持っているし、いろいろ作りましたが、1冊の本に載っているレシピ全てを作ったのはこの本だけです。

この本は水野さんが今提唱している「ゴールデンルール」に繋がる、カレーのモデル化、理論化を試みた最初のレシピ本(だと思う)。味の構成や素材とスパイスの役割を図式化しての説明は斬新かつ分かりやすかったし、社会に出てロジカルシンキングを叩き込まれた僕にはとても合っていました。

これの何が良かったかというと、カレーを作って、例えば思っていたのと違う味になった場合に、それまでは「よく分からないけど何となくあれがダメだったのかもしれない」くらいの解像度だったのが、「この工程のこれがダメだったからこうなったのでは」ときちんと検証ができるようになったこと。
そして、これは作るときだけの話ではなく、食べるときにも役に立ちました。この甘さは何なのか、このコクはなぜ出るのか。なぜ感じる香りに順番があるのか。カレーの香りや味をロジックで理解することで、感じることを自分なりに言語化できるようになってきました。
(それが正解かどうかは別問題です…)

ちなみに、2013年の「カレーの教科書」ではさらに細かく各工程が検証され、フレームワークがより明確になります。玉ねぎ炒めの検証は圧巻です。合わせてどうぞ。


5.水野仁輔「銀座ナイルレストラン物語」(2011年刊)

主観的な表現よりも客観的な記述の方が著者の思いが伝わることがある、ということに気づかせてくれる本です。

数ある水野さんのカレーに関する本の中でも、カレーへの愛を猛烈な勢いで綴った「カレーになりたい」、好きなお店へのラブレター的な「本当は教えたくないカレー東京最好の100店」など、読んでいて恥ずかしいくらい水野さんのカレーに対する思いが爆発している本も大好きなのですが、この「銀座ナイルレストラン物語」は、ある真逆な、淡々とした文体の本です。でもそれがゆえに、僕が最も好きな水野さんの本かもしれない。

何度もお店に通ってナイルさんに話を聞き、丁寧に取材していることが読んでいて伝わってくるし、そこになるべく解釈を入れないように文章が組み立てられている。それは、お店の方やお店の歴史、そこに通うお客さんをリスペクトしていることの証だと思います。

早くコロナ禍が去って欲しい。何も気にせずナイルレストランでムルギランチをまじぇまじぇして食べたい。


6.松岡宏大・野瀬奈津子「持ち帰りたいインド」(2016年刊)

インドというと、雑多で、汚くて、物乞いがたくさんいて、リクシャードライバーとの交渉でトラブルがあって、訳の分からないことが起こる、みたいな、カオスなイメージが強いと思います。確かにそういった光景はインドを旅するとほぼ必ず出会うし、分かりやすいインド感があります。でもそれは、いろんな面がある(ありすぎる)インドのごく一部でしかないと思います。

5回行ったインドのうち、僕も最初の2回はそういった光景を求めていたところがあったのですが、この本からインドにはもっといろんな面があると教わりました。

紹介されているのは、チャイグラス、アーユルヴェーダコスメ、陶器、布や服など、雑貨が中心。民芸品よりも、もっと生活に根差したもの。どれもおしゃれで味があり、人の仕事の温もりが伝わるものばかり。
それまでの自分の旅にこういう視点が全くなく、この本の影響で街歩きの視点ががらっと変わりました。ジャイプールは元々あまり興味がなかったのですが、この本に紹介されている陶器や布や服を買いたくて行ったくらい。ジャイプールでたまたま見つけた、Nayikaというお店で買ったシャツはかなり気に入っています。Nayikaのinstagramの写真、めちゃくちゃいいですよ。悶絶します。

と書いていたら猛烈にインドに行きたくなってきました。インドもコロナ禍で大変そうです。早く旅ができる日常になりますように。


7.マージョリー・シェファー「胡椒 暴虐の世界史」(2014年刊)

カレーは世界史だ、と思う。

日本のカレーは明治時代に洋食としてイギリスから入ってきました。イギリスになぜカレーがあったかというと、植民地だったインドにスパイス料理があったから。イギリス人は、スパイシーなソースのインド料理に「カレー」と名前を付け、料理に合わせて都度スパイスを調合しなくてもいいように「カレー粉」を発明しました。

インドの海沿いの街はスパイス貿易で早くからヨーロッパの国と交易がありました。だから、クリスチャンが一定数いて、ヒンドゥー教やイスラム教では食べない牛肉や豚肉を使った料理があるし、長らくポルトガル領だったゴアにはポルトガル料理の手法で作られるカレーがあります。また、インド料理(というか世界のあらゆる料理)に欠かせないトマトと唐辛子は、そもそも南米が原産。インドにはポルトガルやイギリスから伝わったのは想像に難くありません。

多くの人が持っているインド料理のイメージは、インドを長く支配していたムガル帝国の宮廷料理が原型だと言われています。そのムガル帝国を作ったのは、今のウズベキスタン出身のバーブルという人。ウズベキスタンには古くから「プロフ」と呼ばれる炊き込みご飯があるのですが、ピラフやパエリアなど世界中の炊き込みの原型だと言われます。シルクロードを伝って世界に炊き込みご飯が広まったのです。インドにもきっとバーブルが進出したのに伴って伝わり、「プラオ」や「ビリヤニ」になったのでしょう。

というような感じで、カレーやスパイスの話を辿っていくと歴史の話になり、いろんなところで世界が繋がっていることを感じます。この本は胡椒を軸に、そういったヨーロッパのスパイス貿易について書かれた本で、実はまだ読んでいる途中なのですが、めちゃくちゃおもしろいです。

各国が躍起になって胡椒を求めたのは、食料の保存に使ったり薬に使っていて生きていくのに必要なものだからだと僕は想像していたのですが、シンプルに「おいしくて儲かるから」でした。めちゃくちゃに儲かるから、航海での生存率がかなり低いにも関わらず、独自ルートで胡椒を仕入れられるルートを開拓したかったということのようです。

きっと世界のどこに行ってもインド料理屋があるのはスパイス貿易を通じてイギリスが世界を制したからだろうし、インドが胡椒の一大生産地でスパイス貿易の一大拠点だったからに違いありません。それがどのように起こって現代に至るのか、これからじっくり読みたいと思います。

その他のおすすめの本

ブックカバーチャレンジには書かなかった(またはその時読んでいなかった)けどおすすめの本、まだ読んでいないけれどきっとこれはマストだろうなと思う本を紹介します。


小林真樹「食べ歩くインド」(2020年刊)

「アジアハンター」というアジア食器の輸入販売をしている会社の代表、小林さんがインド各地を食べ歩いた記録の本。

もう圧巻です。仕事で毎年インドに行っているとはいえ、よくもこんなに食べ歩いたものです。また、ただ食べ歩くだけではなく、その地方や食文化の背景をなるべく理解しようという小林さんの姿勢が本当に素晴らしい。これは「地球の歩き方」、沢木耕太郎さんの「深夜特急」に並んで、インドを旅する人のマスト本と言ってもいいのでは。2003年に初めてインドを旅した自分に渡してあげたい。

ちなみにアジアハンターさんは仕事柄、お店が新しく開店するときに食器を卸している関係で、各SNSをフォローしておくとインド料理店の新店情報が入ってきます。また、インド料理に関するマニアックかつ深い投稿が読めて楽しいです。毎年小林さんがインドに行っている時期のSNSを仕事中に見ると、悶々とします笑

https://www.facebook.com/asiahuntercom
https://www.instagram.com/asiahunter_kobayashi/
https://twitter.com/AsiaHunter_com

小林さんのもう1つの著書「日本の中のインド亜大陸紀行」も、日本各地でインド亜大陸の料理を求めて各国のコミュニティに入り込んでいく小林さんの静かな狂気が垣間見れ、読み応えがあります。


井坂理穂・山根聡「食から描くインド」(2019年刊)

「食は文化なり」という言葉がありますが、まさに食の歴史や人々の食生活の変遷を通して、インドが描かれている本。どちらかというと論文集という感じですが、アカデミックな内容で裏付けがある分、想像が掻き立てられます。特にタンドリーチキンやバターチキンが生まれた背景についての章は読んでてゾクゾクしました。

この本にも多く引用されている「インドカレー伝」という本があるのですが、こちらも読まねばならないと思っています。


以上が僕のおすすめのカレー・インド関係の本です。7冊どころか倍以上紹介してますねこれ。。

しかし書いていてカレーが食べたくなりました。
カレーを食べに行こう。

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