見出し画像

育休中に1日フリーの日を過ごした妻の日記

我が家は2月に子どもが生まれ、今9ヶ月である(とてもかわいい)。
妻は育休が今月いっぱいで、12月から復職予定だ。

僕たちは東京に住んでいるが、僕も妻も実家が愛知県で、妻の母親は10年以上前に亡くなっている。そのため、実家に帰省して親の手を借りるということがしづらい状況だった。また、子どもが生まれた直後にコロナ禍が起きたので、そもそも愛知県に移動するのも気がはばかられた。
だから、子どもが生まれてからのこの9ヶ月は2人だけで子どもの世話をしてきたわけだが、僕のサポートが十分だったとは口が裂けても言えず、妻は本当に大変だったと思う。
(たまに妻の友人が手伝いに来てくれていたのだが、それは本当に大きかった。感謝しかない!)

結果、妻の負担が大きくなってしまい、疲れているときも多かったので、

「子どもを1日俺に任せてもらって、出かけてくるとかホテル泊まってくるとかしていいよ」

と以前から言ってはいたものの、保育園の申請・入園手続きや自身の復職手続きなど、諸々のことが片付かないとそういう気分にはなれなかったようである。また、日々疲れていて出かけるというよりも家で休んでいたい、ということも大きかったようだ。

11月に入って、子どもがお慣らし保育に通い始め、来月に向けて復職手続きもほぼ終わった、というタイミングで、ようやく1日出かける気分になったらしく、先日その時間をとってもらった。

その時に妻が書いた日記が非常に味わい深かったので、公開したい。
これを読んで、1日フリーの日を作って本当に良かったと思った。そしてもっともっとこういう時間を作らねば、と思った次第である。

ではどうぞ。

※基本原文ママですが、てにをはや句読点の調整は少し僕がしました。また、「○○編」というタイトルをつけたのは僕ですが、「第○部」というのはその形で妻が数時間置きにLINEで僕に送ってくれたものです。

---------------

第1部 近所の喫茶店編

夫が家事、育児からフリーの日を私にくれた。今日がその日だ。
朝おきて、息子の顔を拭き、クリームをつけ着替えさせる。そして間もなく保育園にむけて玄関を出る夫と息子を見送る。
これから13時間がフリータイムとなる。
先週から引きずっている風邪のせいで喉が痛く、口内炎が舌の上に2つも鎮座しているが、気力を振り絞り今一番お気に入りのセーターをきて、1年ぶりぐらいにピアスをつけて家を出る。

まずはかねてから読みたいと思っていた本を本屋さんに買いに行き、その足で近所の喫茶店に。ガテマラを注文した。コーヒー豆をローストし、挽くのに時間がかかるとのことでウィンナーコーヒーにチェンジ。こんな日にも時間を気にしてしまう自分を恨めしく思う。

本を開き目を落とす。

しばらくして老眼でピントが合わなくなっているコンタクトが辛くなり目をあげると、名物のカレーを朝から食べにきているお客さんがスプーンを口に運ぶ姿が見える。もうお昼だが全く食欲がわかない。こんな日に。悔しくてたまらない。

少し、移動してみよう。お腹が空くかもしれない。

第2部 新宿編

子供が産まれてからずっと出来なかった、目的なくぶらぶら服をみて気になったものを試着しまくるという夢をかなえるため、新宿にやってきた。
野暮用をすませ、早速ターゲットの店をまわるべく勇んで乗り込んでみたものの、ほしい服が見つからない。正確には試着したいという気力がなかなか起きない。
そんな時、一体のマネキンが着ているシャツが目に入り、足を止める。
シルクのドレッシーな白のブラウス。襟の部分と袖周りが薄いグレーと色が切り替えてあり、スカートは同系色のグレーでコーディネートされている。私の好きなデザイン、色合いだ。
かつての私なら間違いなく手を出していただろう代物だが、なぜか遠い隔たりを感じる。
今はドレッシーは必要ない。コンフォータブルが重要なのだ。不思議と切なさはない。また、近いうちにドレッシーなシャツを身に纏う日がやってくるであろう。

第3部 銀座編

やっと少しお腹が空いたので銀座に移動する。
リッチなフレンチを頂く訳ではなく、昔からある洋食屋のオムライスを食べにいくのだ。お昼時を過ぎた老舗の洋食屋さんは空いていた。
これまで夫や息子、日々の暮らしを頭の中からいったん追いやってまるで独身の時のように過ごしてきたのだが、反対のテーブル席で4人家族がオムライスを食べているのを見て、私なしで日常を過ごす家族を思った。
このお店のオムライスは胡椒や塩が抑えた味付けで、離乳食版のチキンライスが大好きな息子はあと数ヶ月もすれば喜んで食べるだろう。一緒に食する日のことを思い浮かべると自然と微笑んでしまう。

食事を終えていくつかの百貨店のデパ地下を巡る。

途中ミキモトのクリスマス用の見事なショーウィンドウを横目で見ながら通り過ぎる。コロナの時代であっても街を華やかにするゴージャスな飾り付けに心が明るく照らされる気がした。

そして最終目的地のホテルに到着。
このホテルには宿泊しないでデイユースできるサービスがあり、5,000円でお昼の12時から24時まで滞在できる。
風邪を引きずっている私は1日中外にいる自信がなく、このホテルで休みながらノスタルジーとゴージャスをかねそなえる銀座の街を覗き見ながら、出産依頼待ちこがれた生活から解放された時間を締め括りたいと思う。
ホテルのアロママッサージで体をほぐし、1人のんびり風呂に入るのだ。

第4部 帰宅編

ホテルを8時前に出て蕎麦屋に向かう。ボヤージュの締めくくりに最近ハマっている大根おろしそばを食べにいく。

バーニーズニューヨークの前を通るルートをあえて選ぶ。世界各地から厳選されたオシャレなアイテムが取り揃えられているデパートだ。
ここで買ったアイテムを粋に着こなせる大人な女性になりたいとかつては思っていた。
クリスマス用に飾り付けられ、より一層キラキラした店内に久しぶりに足を踏み入れてみようか迷ったが、やめておいた。レースのパンツではなくユニクロの綿のでかパンツを履いている自分に気づいて、怖気づいた。
そして、踏み入れる必要がない気もした。
ショーウィンドウを横目に歩きながらじんわりと思った。疲れはあるものの、今、私は満ち足りた気持ちで日々暮らせているんだと。

夜10時前に家に帰宅した。
2年ぶりぐらいに夜9時以降の少し混雑した列車にのったのでなんだかソワソワしてしまった。
列車をおり家に向かう途中、開いていたファストフード店でシュークリームを2つ買った。

家は思いのほか静かだった。
夫の寝かしつけが効かない息子がグズっている光景を想像していたが、息子はすでに眠りについたあとだった。
夫が小さな声でおかえりと言った。

それから小一時間、少し甘すぎるシュークリームを2人でムシャムシャと食べながら成立しているか分からない会話をした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?