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ひらめき☆マンガ教室最終課題【ネームだけの感想です】(香野コメント)

最終課題は、作品が掲載される媒体を意識して描く。想定した媒体を明記する。想定する媒体が紙や商業でなくても可。ネームの講評会の後、最終稿の提出となるけど、ネームを提出しなくて完成稿のみの提出であってもOK。

せっかくなので、ネームだけの感想をUPします。どこに当てて描くかも明らかにしなくてはなので、その辺りも読み手としての感想を書いてます。

それではどうぞ!

◆蝶々ひらり「やさしいリスカ」


https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/88hirari/15876/
今まで何度か出てきているシリーズ。「やさしいリスカ」という概念をいちばん丁寧に説明していて、グルメ情報と内容がもっともリンクしてます。メンバーも3人になって「部活っぽさ」がプラスされている、しかもどうやら一枚岩ではない様子で…。友情ではなくて、「やさしいリスカ部」なんだなってことですね。

この「やさしいリスカ」について詳細を語るのはメンヘラ界隈の心情に理解があるとも限らない一般誌に載せるための作戦だと思います。ただ、ゲス男の元から去る場面とあわせて、少し冗長に感じました。もっと本質を捉えた言葉(モノローグでも発話でも)と一緒になっていると説明が深まるのでは。リスカというのは外側の傷で表面だけなぞるのが普通ですが、これは内側から舌の先まで傷つけるので、実はエグいのですが、「あれ?でも似たような経験あるかも…?」という読者がいたらいいと思う。

同志の2人は普段なにをしている人かわかるけど、主人公の幸子の属性がわからないのが不自然だなって思いました。

ゲス男の元を去るところは、ダベリながら女だけでいきさつを回想して話してる方が、雑誌のページをめくりたくなるかもしれません。


◆五月十三日「君が望む言葉」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/admwtjgmgm/15594/

牧瀬さんが不憫でかわいい。「相手が求める言葉がわかる」時に、顔の表情が見えなくなる代わりに文字が出てくるという演出。この状況のおかしさを言い当てるのに、マンガでしかできない表現だと思いました。ただ、結局この作品では「君が望む言葉」を人に言われたまま発言することを肯定的に捉えているのか、否定的に捉えているのか、どどちらなのかはっきりとしないもどかしさはありました。

もちろん、白黒つけるのが重要ではないです。ただ、視点はコールセンターの牧瀬さんだけど、牧瀬さんはどんな立ち位置でオペレーターしているのだろうか?そこがモヤモヤしています。読み初めは、声の主が発明者とか、こういうことが当たり前になってる世界設定かと思いました。ただ、まだ開発途中という感じですし、そもそも雇われオペレーター。この二人の状況を見てもなお、このに何故この職場にこだわるのか?よほどの大金が手に入るのだろうか…?という訝しさがあります。

メガネについてひとつ疑問があります。実際メガネで見えている光景ではない、コマの演出ですよね。これは面白いのですが、このグッズは超能力的なことではなくて科学的な範疇のものですよね。なので、牧瀬さんから送られてくるメッセージも、テレパシーなどではなく、電波に乗ってメガネを通じて聞こえているのだと想像するわけです。オペレータールームもありますし。そうなると、肝心のメガネをかけた時の光景が気にってきます。


◆ささやか「2月」


https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/amnsmt/15906/

「お兄ちゃんと僕」みたいな感じでかわいい(決して「赤僕」の二次創作にする必要はないのですが・・・!)。

ところで「ご当地もの」って文フリとの相性もいいので、「僕の街に季節がくる」みたいな連作はいかがでしょうか。こちらは「冬編」ということで(さすがに12ヶ月は厳しいと思うので)その街の紀行文や小説、グラビアページと一緒にするのも楽しそうです。ヤマメと触れ合う少年、ひまわり畑で迷子になる少年、紅葉狩りで狐に遭う少年・・・・・・すみません、妄想が膨らみすぎです。実際にある街のことなのか、「どこかの街」なのか、それはよしなに。

ラストはもうちょっと踏み込んでも良いのではと思いました。お兄ちゃんめっちゃ熱出るとか、意外とお兄ちゃんは彼女と抱き合ってるのを見たとか…。同人誌掲載でも、もうひとヤマあると「絵がかわいい」以上になれるので「買い」に選ばれる率高くなりそうです。

今後、リアルなイベントが少なくなってくる可能性も鑑みると、本としての企画が立ってるかどうかもポチッとする要素になってくるのかなぁと考えております。


◆景山五月「こころよるやま」


https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/gogatsu/16065/

タイトルにもなっている夜の山に気持ちを預けるというくだりが、情景と連動して印象に残ります。

家でも学校でも、自分から動かなくてどんどん居場所が狭くなっていく感じは「あるある」で、乗り越えた方がいいことだとしても、少年が「ここぞ」というときに「お前は誰だ」と言えた時点で、割と乗り越えていると思いました。狐の呪いは、少年だけ記憶が消えないというのはおもしろい。でも、「怒りや恨み」はエピソードであまり感じられなかったです。それと、わたしは性格が悪いので、自分だけ知ってるということは「後ろめたさ」になるのだろうか・・・などと思ってしまいました。

でもきっと、ご本人のコメントにある通り、ここに描ききれていない行動だったり言葉だったりがあると思いますので、完成稿が楽しみです。

前の課題でも思いましたが、子どもの表情が生き生きとしていて、いいですね。ただ笑ってるだけじゃなくて「ぐしゃ」ってなってる顔がかわいい。(変態的な意味ではなくて…遠回りにそうなのかもしれませんが…)

◆暮介「僕は親が嫌いだ」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/guresuke/15755/

なかなか強烈な出だしだったのですが。30社ではまだまだ甘いのでは…と氷河期世代は思ってしまうのですが。いや、世代の問題ではないのかも。この主人公はかなり極端に育っているので「これで面接100社目だぞ!」ぐらいのボリュームでも違和感ないと思います。

毒親と対峙して1年でスッキリさせるというのは、個人的な経験に基づいていたとしても、他の人からはリアルな感じに思われづらいかもしれません。

媒体ですが『モーニング』って、主人公よりも、けっこう上の人が読んでいると思うんですよね。「なんか若造が言ってる」みたいにならないかなっていうのが心配です。

◆グヤグヤナンジ「新しい音」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/guyaguyananji/15793/

これはとても、いいマンガの予感です。もちろん友人にプレゼントでもいいのだけど、すごくクオリティが高い・・・持ち込みとか、全然アリでは・・・と思いました。

ドラマーが主役でドラムを叩いてるのを前面に出すというところが、いい。独創性ある。コマについて言うと、ドラムを鳴らす一呼吸のコマが最初にあるといいかもしれませんね。女性の途中の感情線が、吸い込まれるよりも引いた感じになっているような気がしました。ラストが女の子の表情がもっと見えるカットだと、さらに前向きになれるかと。

「誰かひとりに届くように描くと、みんなに届く」ということが実践できていて、最終課題としてはすごく良いものになっているのではと思います。

◆拝島ハイジ「おとなげ」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/heidimasa82/15935/

主体的に動こうともがいているのに、結果的にブン回されている草なぎ先生が寂しくて愛おしい。草なぎ先生の真意を匂わせたり共感させることで、「あぁPC的なヤツね…」と回収されないようにしてあげたいです。

森田が女子だからダメなのか? と思っていたけどそういうわけでもないらしい。単に先生と生徒だから、ということは建前(だと読める)。※個人的な意見としては、こういう境界線は「好き」という気持ちの前では無効化されると思うタイプなのですが、それとは関係ないです。理由は後述※

草なぎ先生は、過去の出来事を振り返り、「利用した」「利用された」と言いますが、それだけではない「何か」を無意識に知っているはず。なぜなら、森田の扱いに困っているから。草なぎ先生は、昔、人間関係をやろうとしていたから傷ついたのだと思います。単に「騙された」のではなく。そして大人になって再び、目の前の森田に傷つけられたと思ったわけで。

それは先生と生徒だからではなくて、同い年だって年下だって、同じようなことが起こりうる、ということかと。歌に持ってくるラストは、単なるPC的な正しさとは別の道を描こうとしているのかなと思えました。人間関係を結ぶときの感情の豊かさが表出できると、いろんな人に読んでもらえるてマス媒体向きになるのでは、と思えました。

◆静脈「最悪」

何か、とても最悪なことが起きているのだとは思いました。ただ、ただ・・・・・これからの展開が読めなさすぎて、わからない。気になる。

最終兵器とはどんなものなのか?(この「先生」のカラダなのか?)この人たち、一体誰なんだ?・・・という基本的な5W1Hがほとんどないので、読み手も「どこがわからないのかわからない」という状態です。

わたしは作者のことを知っているので「気になる」と思えるのですが、全く知らない書き手のものだったら、うーん、そこまで興味がわかないかもしれません。それはもったいない。ナゾ感だけで煽るのは、たぶん見開きが精一杯だと思うんです。

もちろんこの続きは気になるのですが、『ジャンプ+』で続きを読むにはハードルが上がってしまうと思います。「ここだけわかったらスッキリするのに!」ということで「次の作品を読む」をクリックさせるような「つづき」なら読みたくなりそう。

◆ハミ山クリニカ「こんな晴れた気持ちのいい日に人面犬とか言ってくれ」

最後の展開に胸がキュンとしました。物語の中心にいる女子2人の表情がクルクル変わって、読んでいて楽しいです。個人的にハマれるテーマだということを差し引いても、意味深なモノローグが効果的と表情の変化に惹きつけられるので、スマホで見たら、どんどんタップしちゃうなぁと思います。

ちょっと気になったのは、大人になっていく感じが、「中3の夏」よりも「中2の夏」の方がしっくりくるのかなぁと思ったんですが……いや、でもこのふたりの、これまでの時間を考えると場合は「中3」なのかもしれないですね。そう思ったのは、彼氏が先輩なのかなって頭が先に来たんですよ。同学年だと「オカルト娘」って有名だし、中学で後輩の男の子と付き合うケースはレアかなって(まぁないわけじゃないか)。でもまぁ、別の学校の子かもしれないですしね。頭がカタくてすみません。

清々しさのおかげか、数十年前の悶々とした中学生の頃の記憶が、オブラートに包まれていい感じで思い出されるので、フラッシュバックが起きるほどの劇薬にならず、よい塩梅で読めました。

◆kubota「蔓延性フラットライナーズ」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/kubota/16005/

kubotaさん、前もマルチの企画がありましたね。社会人になると、いやホントにありますよね……。でもまぁ境界線はわかんないですよね。ホームパーティで広める密閉容器とか化粧品のすべてが悪いってわけでもないし。それがサプリメントで人生勝ち組とか言われると、「うへぇ」ってなる。

前の扱い方よりも最終課題の方「あるある感」が高いので読み手の幅が広がりそうです。「ヒーロー?」って首を傾げる人もいそうだったので。ゾンビは流行ってるだけじゃなくて、つかみとしても効果的です。(それなら、ゾンビが途中や最後に出て来ても…と一瞬思い過ごしましたが、やりすぎか。夢の話だしね)

想定は25〜6歳とのことでしたが、もっと上の読者層にも響く作品だと思いました(LINEで高校生時代の人とつながるっていうのは年代的には限られそうですが)。同窓会の生々しい感じとかあるので。昔を思い出したり、近くの若者を見たり、身近に感じるところがありそうです。

◆鴫原一起「1+1+1(いちたすいちたすいち)」

ダウナーな雰囲気でゆるく会話をしている女子を愛でるマンガですね。アイドルを保護者目線で見る感じにも通じるかもしれません。3人のキャラクターがもっと異質感があると、掛け合いが多彩になってくると思いました。

それこそ、アイドルグループと同じようなことをさせてみるといいかもしれません。知っているところでperfume。3人そろって会話してるところを観察してみると、たぶんわかりやすい。3人とも、姿形がかわいいし、ちょっとずつ斜め上のことを言っててかわいい、声がかわいい、つまり有り得ないほどかわいい・・・!なのですが、「かしゆか」「あーちゃん」「のっち」はそれぞれ、髪型や服装を統一してイメージを決めています。そのビジュアルに紐づいて、ネタを振ってくる角度というか、どのような形で言うかなど、役割が決まっている(かのように見える)のです。なので曲によって振り付けの立ち位置は変わりますが、フリートークでは立ち位置がはっきり見えて来ます。

何もここでperfume談義をしたいわけではなく・・・とにかく作品がかわいい要素がちゃんとあるので、誰に読んでもらうためのマンガか、がはっきりすると課題の応答になるのかなと思いました。

◆矢作さくら「ギャギャギャ飯」

深夜にページを開けた時、冒頭がかなり怖くて「あぁ、どうしよう、すごいグロテスクな感じ来るのか〜きゃ〜」と思いながら読み進めたら、違ってたけどよかった〜〜!と思いました。食材がやたらめったら美味しそうなシズル感があるととても魅力が増しそうです。

食欲のエロティックとぶっ壊れ加減が、いい感じでマッチングしていて、想定媒体の選定の仕方や、自身の絵を武器にしているところに痺れてます。

タイトルがちょっと違和感がありました。が・・・・・・あえての違和感で喚起する、でしょうかね?あの音の擬音が「ギャギャギャ」じゃないような気がするのですが、個人の感想かもしれません。

管理人のお婆さんのしゃべり方が、ちょっと昔すぎるかなぁと思いました。別に現代ってことにこだわらなくてもいいかなとは思いますが、「映え」とか言ってるし、パティシエ修行の風景も、現代っぽい感じがします。「いまどこかで起きてるかもしれない」ほうが臨場感があって、週刊誌であれば似合っていると思いました。

◆土屋耕児郎「コンビニエンス」

社会の変革をこの目で確かめようと上京して、コンビニエンスストアで働いている男。想像上のテロルは「禁じられた遊び」の匂いがします。思考実験というよりは、少女との文字通り「遊び」で踏みとどまったところに、主人公の善良さが感じられました。

ただし、ふと疑問がよぎります。この男は、どんな革命を望んでいたのでしょうか。また、今の世の中に何を望んでいるのでしょう。その辺りが見えて来ると、作品の輪郭がハッキリとすると思います。

男は「いわゆる遊び」を悪だと思っているようです。また、少女や少女の母を見る、周囲の視線が悪だとも考えている。その点では、極めて普通の市民と言ってもいい。・・・・・・となると、社会通念上「認められていない」ことをひっくり返したいわけではない。正義を揶揄するものの、男は正義を通したいがために想像上のテロを繰り返すのであって。こうした核心に当たる部分をもう少し掘り下げて欲しいなと思いました。

このままでは「中二病から脱却するだけの話」になってしまうので。今まで土屋さんが描いてきた作品から察するに、そういうことではないと思うんですよね。だから余計に、気になっています。

◆タケチイチコ「空と蜘蛛」

蜘蛛の糸の続編……!二次創作にはあたらないだろうか?とふと思いつつ、ではあるのですが。読んでいて気持ちが洗われました。

すごくよく完成されているだけに気になるところがありまして…。カンダタを主人公に据えたままなのか、鬼の話のスピンオフなのかが、ちょっとわかりづらかったです。

最後の「空」が印象的なのですが、ただ、これは鬼の望みだったのかな?と少し迷子になりました。「もう暴力ふるいたくない」というところから「空」への興味に移るまでが早くて。もしかしたら「蜘蛛の糸」のマンガ化で「空」を見たいということをカンダタの想いに据えたのかもしれないのですが。もちろん、カンダタの言葉に心を動かされて「空」に憧れを抱くのは登っている最中の変化としてわかるので、登りきるのをダメ押しするワードとしては自然だと思います。

提示された想定媒体を踏まえてのことですが、個人的な好みとしては、タケチさんの絵で大正時代を読んでみたいですね…最終的に、芥川の家にクモが現れるとか…ど、どうでしょうか…。ホクホク。

ちなみにこれは余談として聞いてもらえるとなのですが、「蜘蛛の糸」と「二次創作」と言えば……芥川の原作自体が、これはアメリカの研究者が書いた文章の翻訳を拠りどころにしている説が濃厚です(昔、祖父に教えてもらったのはドストエフスキーだったけど、学説がひっくり返ったらしい)。宗教研究の結果の創作物を児童文学して、「赤い鳥文庫」という教育のための本に収録されています。お坊さんの説話ではなく、机上の話。実像がないのに、日本に浸透している、不思議な話だと思います。その意味では、タケチさんがこの作品を選んだのも、実は日本のサブカル的な流れを汲んでいるのですね!などと思いました。

◆市庭実和「事故物件でグッモーニン!」

https://school.genron.co.jp/works/manga/2019/students/tilapia/15685/

以前の課題で出した作品がブラッシュアップされていて、すごく読みやすくなっています。イタコ体質・・・いや、きっと彼女の場合は南の方ですね。名字で読み解けば、そんな感じがします。その彼女が無意識に除霊していく様子が、躍動感があっていいです。市庭さんの絵が持つ魅力と異界との接点がちょうどよい塩梅。

憑依シーンについては、見せ場なので、もっと長くていいかも…と思ったりしました。それかから、想定媒体が『モーニング』であれば、除霊するときはものすごく艶っぽくなるとかどうでしょうか。普段は自然児なんだけど、モードが切り替わると…!!というギャップ萌えを狙う。

霊のことばは、吹き出しの処理を変えるとか、この世のものではない感を出すと読みやすいかもしれません。

「連載」と言い切ったところ、課題へのストレートな解答が良いですね。実際に連載となると、どれだけ続けられるか手駒が必要とのことなので。このあたり、さすがメソッドを理解しているというところなのかもしれません。

それにしても、偶然にも、確かに地縛霊みたいなだと思う日々が続いていて、本当に切実ですよね……!


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