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観客も家の外へ/シラスOOHについて、批評より前の考察

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今から書こうとしているのは、批評の卵、事前研究のようなものだ。そう前置きするのは、ただの予防線ではない。今日取り上げる広告が批評そのものだから、それを乗り越えていくには時間があまりにも足りていない。しかし、本日で掲出が終わってしまう。

新しいプラットフォーム、シラスのOOHの話をする。Out Of Home、屋外広告だ。

すでに下記番組も終わっているのだが、外側から何が見えたのか書き留めておきたい。わたし自身が現時点で全時間の視聴を終えてないので「そんなの番組で言ってましたが何か」みたいなことがあっても、謝れない。(そんな場合は、後日書き加えておくつもりだが)

ともあれ、3/20中にお近くの駅に間に合うようであれば、を探してみてはいかがだろうか。まだ終電までは長い……(半分は冗談です)

◆シラスについて

この広告を見れば分かるように、シラスは自らを「新しいプラットフォーム」と宣言している。その新しさは、単に配信がインディペンデントな環境で行える、という観点だけでは説明仕切れない。

思うに、東浩紀による「誤配」という概念が20年余の時を経て具現化されており、よどみなく持続的なサービスとして機能している。それはかつてない実績と言えるはずだ。

崇高なものとされる知性や情は、本当は人の営みと分かちがたいところにある。むしろそこにカルチャーは生まれてきた(現代社会においては特に)。しかし、その事実から人は目を背けてしまいがちだ。分断を図ったり、無闇に引きずり下ろそうとする。

健全な経済活動を行いながら、さまざまな知を広めていくことができる。配信者と観客は時に入れ替わり、つまり配信を行う「シラサー」も、別の番組に「シラシー」として参加していることもある。

そういう「誤配」が生じてしまうプラットフォームなのだ。

◆作品レファレンスとしての備忘録

キャッチコピーは「有料、生放送、長時間、____」。最初の3つのワードは、シラスの容れ物を端的に表している。そして最後の_____は、駅ごとに違うメッセージが入っている。こちらはシラスで配信中のコンテンツを示すものだ。

背景には、各テナント、チャンネルの配信画像。ユーザーには「おなじみ」の光景かもしれない。では、知らない人にとっては、どうだろう? この手の、配信者勢ぞろいの画像は、最近よく見かけるが、そのほとんどがカメラ目線である。それと比較すると、一瞬の何気ない表情は、それぞれの時間を感じさせる。それは多様性。

キャッチコピーの下には、それぞれのワードの解説文がついていて、読み応えもある。最近、新聞広告ですら珍しい「読ませる」広告だ。

商品の特性を生かしたコピー、デザイン。「こういう広告を作ってみたい」と、自分のレファレンスにストックする広告関係者も少なくないと思う。しかし、それはおそらく失敗する。なぜなら、これが単なる広告ではないからだ。

◆囲い込みから逃れるための装置

無料、超編集、短時間であることが善とされる世の中の潮流に対するアンチテーゼ。さらに、そんなシラスを、全国のターミナルで発信するという試みだった。Stay Homeではなく、Out Of Homeへと誘う。その行為に意味が生まれてしまった。

いま広告は、なるべく誤配を無くそうとしている。ビジネスの現場では、結果の出るWEB広告の信頼性が増しているのだ。(※事業会社に入って1ヶ月、とてもよくわかったのだが、ヤバいほどに一般企業はそれを信じている)しかもOOHですら、その傾向に舵を切ろうとしている。

おそらくは、約20年前に「誤配」が語られた頃より、現代の日本人は実用的な誤配を受けやすい環境にある。諸事情によりデリバリーが身近になった結果、誤配の機会は広がっている。しかしそれに反して、いや、だからこそなのか。人々は必要以上に恐れている。自分と関係のないものは見えないようにしている。

シラス自体は、広告モデルを取っていない。しかし、それは広告を知らないからではない。広告の持つ作用を知っている。だから、このメディアを使った。これはもう、広告の顔をした批評である。

あなたがもし、クライアントにこの広告を例に出そうとするときには、クライアントを説得できるだけの何かを見つけなければならない。なぜなら、クライアントは、クリエイティブについてはよく分からくても、数字や結果へのこだわりがある。多くの場合、批評的なものは望んでいないのだ。

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