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「流動性」が鍵? 王道の3-2-1キックカバーを崩す作戦と技術とは?

『タッチフット戦術クルーズ』
イシダトモヒロ(SPEX FOOTBALL)

今回は、6人制タッチフットボールの「キックとリターンのシステム(並びと動き)」について探っていきます。
戦術の話は、とくに目的地のない気ままな船旅のようなものです。楽しみながらのんびりいきましょう。

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キック・リターンは並びと動きに注目

さて、今回の旅の寄港地は、「キック・リターン」です。

タッチフットでは、1試合に約70~80のプレーと、5~10程度のキッキング(&リターン)ゲームをおこないます。

タッチフットボールのキック・リターンをよく見たことがない方もいると思いますので、システム(並びと動き)に注目しながら、次の動画をご覧下さい。

「2-1-2-1リターン」はボール保持に効く

画面左から青チーム(武庫女大)がキックし、画面右の白チーム(成城大)が前列から「2-1-2-1」の並びからリターンしていきます。
成城大は、伝統的に「2-1-2-1」主体ですが、このリターンでは、前の「2」の右ブロッカーがプルして、若干変化をつけています。

2-1-2-1リターンは、「1」のリターナーの周りに人数をバランスよく置くことができる、「ボール保持」(確実にマイボールにする)に優れたシステムです。

次の動画は、2-1-2-1の並びからボール保持重視の動きをしたシステムの例(赤チーム:郡山女子大)です。

2-1-2-1は、フィールド上にトライアングルを多く作れるため、どこにボールが飛んでもボール周辺に味方を集めることができます。

「3-1-2リターン」はマンパワー型

今度は、キックのシステムとリターンのシステムを同時に見てみましょう。
次のテロップ入り動画を見て下さい。
奥の白チーム(アウィリーズ)が「3-2-1」でキッキングカバーをし、手前の青チーム(ワンパック)が「3-1-2」でリターンしています。

この噛み合わせでは、前線で「3対3」のマッチアップが発生することに注目してください。(リターンの前線3人が、マンツーマンでとりにいきますが、中央が抜かれます)

この動画のような「3-2-1」対「3-1-2」が女子のキック・リターンのもっともポピュラーな対戦です。双方3人ずつのフロントがおもに1対1でマッチアップするかたちになるため「マンパワー」に勝るチームにチャンスが生まれます。

3-2-1キック の並び
3 ガンナー(中央の「突っ込み」)
2 コンテイナー(両サイドの「抑え」)
1 セーフティー

3-1-2リターン の並び
3 ブロッカー(おもに3人の突っ込みを1人ずつブロック)
1 リードブロッカー(リターナーの前方を走る)
2 リターナー(ボール保持者以外はリードブロック)

密度やギャップを生み出す並び

次に、他の動画を見て、リターンの並びによる効果を探ってみましょう。

ここでは、手前の赤チーム(ラファーガ)がフィールド中央に固まり、コンパクトな「3-1-2」を敷いています。コンパクトなシステムは、ブロッカーの密度を高め、壁を作りやすくします。

一方、手前のグレーチーム(ブーザーズ)が、フィールドを広く使ったワイドな「4-2」をとります。ワイドなシステムは、個々のスピードが生かしやすく、また相手の縦横のギャップを生み出して、ビッグプレイを狙いやすくします。
※このプレイでは、キッキングチームがコントロールキックを蹴り、正常なリターンを阻止しています。

戦術、優位、ボール

リターンに正解はありませんが、一般的に「よいシステム」は、以下のいずれか(または複数)の仕組みを含んでいます。

1.相手のキッキングシステムや相手の特徴との「噛み合わせ」がよい仕組みになっている(戦術の観点)
2.こちらの選手の技術的・あるいはフィジカル的な優位が発揮できる仕組みになっている(優位性の観点)
3.相手キッカーから見て、穴の少ない仕組みになっている(ボール保持の観点)
4.独自の戦術で、読まれにくかったり、対応されにくい仕組みになっている(予測性の観点)

戦術的にスマートなチームにするためには、自分たちのベースシステムの利点をよく把握し、ゲームプラン(ねらい)に合わせて少しずつ変化をつけることを繰り返すといいでしょう。

3-2-1カバー 対 流動スタイル

最後に、事例として、3-2-1キックカバーを崩す(相性がいい)システムを紹介します。

郡山市のK-SPEXが、2019秋リーグ、冬全国準決勝~3位決定戦と使用し、全国大会(ファイナルタッチ)の2試合続けてタッチダウンをとった2-1-2-1システムです。

画面左、キックの白チーム(アウィリーズ)は王道の「3-2-1」、これに対して、画面右、リターンの黒チーム(K-SPEX)は変化をつけた「中盤流動型の2-1-2-1」で迎え撃ちます。

では、中央突破からタッチダウンにつながったこのプレーを図解します。
図中のBはブロッカー、Lはリードブロッカー、Rはリターナー、Gはガード です。

リターンプレー説明資料

このシステムのポイントは、マンパワー重視の「3-2-1」に対して、
①左右のBとLの3人が流動的にブロッキングをおこなう(ポイントオブアタックは、おもに図中の『青の四角』のエリア)
「左B」のプルが罠になる
の2点です。

このとき、フィールドで起こっていることを、少し細かく解説します。

リターンプレー説明資料2

◆左Bがプルすることで・・・
左の突っ込み(✕印の選手)がノーブロックになり、縦に食い込んでくる
➡ 食い込んだことで、中央の突っ込みとのギャップ(段差)が生じる(緑の線)

リターンプレー説明資料3

◆Lが上がることで・・・
『青の四角』
のエリアで、相手の突っ込み2人と、右B・Lの2人がマッチアップ。流動的なゾーンブロックをしかける
右Bは、ここでは中央の突っ込みをとるのが有効と判断
は、右の突っ込みがかなり食い込んできたためそこはスルーし、中央の突っ込みにスクリーンブロックをかけながら、より前のゾーンを狙う
➡ 相手と見方の位置、状況を見て、リターナーがデイライトで中央突破をはかる

状況に応じて、Rがオープンに展開したときは、下の動画のように、前にいるやプルしてきたも加わりサイドライン際に走路を作ります。

(不注意でイエロー飛んでますけどね)

システムの有効性を高める判断と技術

ところで、K-SPEXは、優れたブロッキング技術という質的優位で、このシステムの有効性を高めています。

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左右の(#57と#51)と(#5)は、いずれもゾーンブロックの技術に熟達し、流動的な動きの中での判断力に優れたプレイヤーたちです。
また、リターナーたちもブロッカーを使う技術に長けています。
絵に描いた餅」を美味しくするのはやはりプレイヤーなのです。


以上、今回は、タッチフットボールの「キックとリターンのシステム(並びと動き)」について探ってみました。

タッチフットはみずから考えて楽しむスポーツです。相手の分析や強豪チームの模倣もさることながら、自分のチームがやりたい作戦を立てて、自分たちの得意なことをゲームで発揮できるように工夫するプロセスを楽しんでみてください。


Author イシダトモヒロ (SPEX FOOTBALL)
宗教家、大学院講師(幸福学・社会政策)。SPEX FOOTBALLディレクター。
第1回シュガーボウル、第1回ファイナルタッチのファイナリスト。監督として東日本学生優勝(郡山女子大)。現在は地元NPOでコンパクトフットボールの普及活動と、6人制タッチフットの批評をおこなう。

イシダトモヒロ (SPEXFOOTBALL)


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