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「救済」とは何か―『終末少女 AXIA girls』

タイトル:終末少女 AXIA girls 著者:古野まほろ 光文社刊

・あらすじ

 突然始まった「世界の終わり」。黒い海が大地を沈め、無数の「口」が全てを食らいつくしてゆく。孤島に逃げついた少女たちは、それでも海のかなたに無数の「口」を見た。
 次第に近づく音が大きくなっていく中、「漂流者」を助けたことから嘘と裏切りに満ちた殺し合いが始まってしまう。
 孤島に「口」が迫る中、最後まで「生き残る」ものはだれか、そして「救い」とは何なのか。サバイバルミステリーに哲学的なファンタジーを織り込んだ作品。

・感想

 総ページ数は500ページだが、半日で読み終わってしまった。決して速読な方ではないが、一気に引き込まれて気が付けば最後まで読み終わっていた。それほどまでに強烈な印象があり、そして主人公に感情移入してしまう本だった。
 特に、図らずも『悪魔』となってしまった純粋な少女が、他者を堕とす誘惑ではなく「天国を一目見たかった」と強く願い、自らを厳しく律し、『天使』としてふるまい続け、最後に彼女自身にわずかな「許し」が与えられたことが印象に残った。少しの救いと、秩序を守るために最後はそれから手放させられたむごさが心から離れない。
 冷静に、論理的に明かされる残酷な真実は、心の中にひやりとした感覚を持たせた。
 自らと戦った少女、いや、『天使』にはあまりにも厳しい仕打ちなのではないか。「この物語がフィクションでよかった・・・」とこれほどまでに考えてしまうほど引き込まれ、主人公に同情する話は初めてだった。
 それからミステリー小説にある「作者からの挑戦状」が用意されていることが面白かった。全てでそろったところで、「犯人捜し」のための余白のようなページが用意されていて、自分なりに答えを出した後で解答編を見て、「作者と対決」することができる楽しさを味わえた。

・私個人が感じた作者からのメッセージ

①言葉、文章の一つ一つをよく観察していけば、そこに込められた思い、伝えたかったことを正しく理解することができる。
 探偵役が犯人の証拠を暴き出すとき、その「言葉」の矛盾を挙げていた。「言葉」は自分の思いを他者へと伝える伝達手段であるが、その文法、言葉の選び方(なぜその言葉にしたのか?)をよく観察し、考えることによって相手の本心を浮かび上がらせることもできる描写がとても丁寧で、論理に破綻がなく、エレガントだった。読んでいて心地よかった。

②自分自身がいなくなっても、文章や発信された者たちは「私」として残り続けること。
 これは最後に看破されてしまった少女へ向けたメッセージであり、彼女は「天国」へ行くことは叶わなかったが、最後に救済された少女(『天使』)が叶わなかった彼女の一途な思い、懸命な努力を胸にとどめて行くことで、真の意味で『救済』されたのではないだろうか、と思った。

③言葉や文章は、ざっと読んだり、深く考えずに解釈するのではなく、「何を」「どう」言われたのかを把握して、正確に覚えておかなければならないということ。
 コミュニケーションの流れをつかむためには、正確な理解と把握が不可欠であることを感じた。作者は細心の注意を払って記述していて、真実が明らかになった後、読み返してみると全く破綻がないことに驚いた。読んでいて堅苦しくなく、それでいて鮮やかな文章であった。

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