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新聞で見る★大正12年(その前後)とテロ①~第三のテロ組織現る?

義烈団以上の怖るべき大陰謀の顛末発覚
仮政府密使として逮捕された李竜基鄭秉漢を取調べの結果
背後に動く大きな魔の手 (神戸新聞・大正12年4月24日付け)

神戸大学経済奎江研究所写真文庫アーカイブより

神戸水上署に於て過般過激宣伝団の鮮人密使二名を取押え内務省其他に頻々電照し一面厳秘の裏に取調中である由は既報の如くであるが、其後聞くところに依ると件の怪鮮人は朝鮮全羅北道里州郡金州邑内李竜基(三〇)同益山郡咸悦面瓦里鄭秉漢(二九)と云い、李は現に東京日本大学二年生に籍を置き予てから警視庁のブラックリストにのって居るもので鄭は、目下上海大正学校の教師を勤め曾ては日本内地で高等教育を受けたことあり且つ同人の妻某も夫と同主義で父は上海仮政府の重要な地位を占めて居たもので、両名共早くから独立思想を抱懐し常に上海で同主義者の間に往来を重ねていたが、今回独立過激思想宣伝に関する重要なる使命を帯びてこっそりと上海を出発去る十二日神戸入着のカナダ太平洋汽船のエンプレスカナダ号に密乗し横浜に上陸すべく潜入を企てたのを前記の如く神戸水上署の鋭い眼に睨まれ遂に取押えられたものであるが、両名は同一団体のものではないらしい様子である、斯くて同署の厳重なる取調に対し鄭は使命其他に就て詳細自白したが李は今日に至るまで絶対に口を緘し何等の自白をもしない、鄭の自白に基くと既記の如く曩に陰謀を企てて検挙された義烈団とは何等の連絡なく又在来世間に知られている上海政府其他の団体にも関係のないもので、排日鮮人中の新知識を以て新に組織した団体で其の内容は直接行動及び宣伝等の各部に分れ、突発的暗殺等を実行せんとする戦慄すべき主義綱領の下に立って活動を続け、直接行動に属する今後の運動に就ては屯田式に軍隊教練等を施して他日の計画を夢見る等従来の此種団体中類例のないもので而も其背後には或る大きな魔手が動いて援助を与えているらしく携帯品の密書に依っても之れ等の内容が明かになり主要人物の連盟等も十分に知悉することが出来る。

糸捲の心は宣伝書 グルグル糸を捲いて其筋の眼を晦まさんとす 巧妙を極めた宣伝法

何しろ此の団体は新知識を綱羅しているだけ手段方法も極めて巧妙を極め鄭の如き渡来後在京鮮人留学生其他を煽動すべき重要書類を小さく捲いてその上へ洋服の綻びを縫うのだと称し糸をグルグルと捲いて糸捲きの心にして巧に当局の眼を晦まそうとしているのを水上署で身体検査の結果発覚した万事が斯う云う訳で其の恐るべき計画とあらゆる巧妙な手段を弄する点に於て殆ど至れり尽せりの有様には係官も舌を捲ているされば同署では本事件を非常に重大視し内務省其他にも電報を発し今後の処置に就て指揮を仰いでいるが結局現行法規としては何等の取締規則もない為め李は警視庁の手に引渡し、鄭は朝鮮に追放総督府の手に引渡すこととなるらしい
 尚お同署では慶尚南道生れの朴潤錫(二一)なるものも拘留に処して目下厳重取調中であるが同人は門司市内の某病院で劇薬を窃取逃走して来神したのを取押えられたもので過般来門司署で厳重取調中であったが之れは単に普通の窃盗で独立団等には何等の関係がない模様である

(解説)
上海臨時政府とも義烈団とも無関係な第三の朝鮮人テロ組織の登場か? 屯田式に軍隊教練等とあるように、軍事訓練を受け諜報工作活動にも長けた一団で、その育成には朝鮮人以外の勢力が加担していると思われる。文書を上着に縫い付けているというやり方も本格的だ。
最後の、某病院で劇薬を窃取逃走した朴潤錫なる男も不気味だ。単なる普通の窃盗ですまされたのだろうか。よくいわれる「朝鮮人が井戸に毒」が流言であったとしても、こうした事件を通して、震災でパニックとなった市民の間に、それを信じるだけの暗鬼の下地があったのも事実だろう。半島人にとっても内地人にとっても、不幸なことである。

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