狂人PM最強説について

狂人PM最強説について

宮川耕@TOCエキスパート/PM歴20年

ある友人と飲んでた折、「狂人PM最強説」が提唱された。

曰く、「PMは狂ってないとつまらない。私は物事を整理して分かりやすく話すのは得意だけど、狂った境地に行けないのですよ。だから悲しい。狂人に痺れる、憧れるぅぅぅ」とのことだった。

一般的には、「小学5年生にでも分かるように説明すべし」と言われ、分かりやすいことが良しとされている。話す内容が分かりやすく魅力的でないと、受け手の行動を引き出せないからだ。

一方、それらは、相手から行動を引き出すためのコミュニケーションとしてのあるべき姿であって、考えていることとコミュニケーションは違うよね、という面もある。

PMは、プロダクトの作り手、創造主、アーティストなのだから、当然人より100倍考えてないといけないよね、という話だ。その100倍部分には常人には理解しがたい感覚や聞きなれない話が含まれているだろう。それをクロック下げずに話そうものなら狂人に映るだろうと。

もちろん、考えている内容と、そのサマリーとして発話する内容は当然違っている。

余談:PMの資質


作り出す側と使う側では、全く見えてる世界が違う。作り出す仕事は消費者モードでは務まらない。ここが分かっていない人は、PMやるのはやめておいた方が良い。絶対に大成しない。

このあたりの感覚がピンとこない場合、厳しいフィードバックをして良いのであれば、30分で現時点での思考の深さを判定して差し上げるので、声をかけて頂ければと思う。普段、高単価フリーランスコミュニティのPM部門で30分の面接官やってるので、構造化面接の末、あなたの相対的な位置づけをお伝えすることができる。

狂人PMが100倍部分を見せる時


狂人PM最強説を唱えた友人は、とても優秀だ。何よりマインドが良い。向上心があり、プロダクト愛がある。だから、上司の狂人PMは100倍部分もちらっと話すのだろう。

狂人PMは、見込みがない人間には、100倍部分を話さない。話してもノイズになるだけで、引き出したい行動を引き出す邪魔になるからだ。

世の中は、普通の仕事の足し算で出来上がっており、部下に卓越を求めて良いケースは多くない。

だから、普段の会話で、質問者がセンスとスタンスを見せない限り、狂人PMの面白さを引き出すことは出来ない。

上記は上司/部下の関係性の話。

それ以外の会話で、狂人性が垣間見えるケースも無いことは無いと思う。
しかし、条件が厳しい。

・相手が話が通じるレベルで
・センスが良い
・スタンスが良い
・その種の話に興味を持っている

これらを満たしたらということになるだろうか。残念ながら、普段そういった機会はほとんど無さそうだ。

狂人PMが100倍部分を隠す時


なので、ほとんどがこっちの対応になると思う。今の時代は、メディアにしろSaaSにしろコミュニティにしろ、組織として作り、運営していく時代だ。組織の中には普通の人が多く、多くのプロダクトは普通の人の仕事の足し算で成立する。

プロダクトの一貫性を保つためにプロダクトビジョンを作り、プロジェクトや担当領域に分解し、組織全体の行動ベクトルを合わせようとする。

実は、その一つ一つのプロジェクトやタスクに関して、アサインされた個人やチームが卓越した仕事をする余地はいくらでもあるのだが、狂人PM=CPOは、期待値を卓越した仕事水準には置かない。

むしろ、最低限の水準に期待値を置く。これだけは満たして欲しいという水準を設定した上で、チームにミッションを渡す。

また、個人やチームの成長のためには、少しストレッチした水準を要求するべきなので、それが出来る場合には、そうする。

このあたりはマネジメントの教科書に書かれてあることなので、割愛するが、例外もある。

ジョブズは、超一流だけを集めて、彼らの能力よりもさらに高いストレッチ水準でミッションを渡し続けた。

超一流にとっては作品=自身の魂なので、「普通の仕事をしてくれ」と言われるのは逆に我慢ならないのだろう。なのでアップル社ではめちゃくちゃなマネジメントが成立した。

しかし、普通は成立しない。サラリーマン気質の人間が多い組織ほど、教科書に書かれてあるスタンダードを守らなければならない。それが成果を出す可能性が高いマネジメントアプローチである。

だから、組織の中で狂人的コミュニケーションは生まれにくい。

マネジメントで成果を出すためのコミュニケーション

実際、教科書的なマネジメントアプローチが採られることは多い。多くの組織ではムーンショットよりも、着実なルーフショットが評価されるし、それがスタンダードな仕事の進め方だとされているからだ。組織が大きくなればなるほど、逸脱や不確実性を嫌う。

そのため、普段の狂人PMとプロダクトチームとのコミュニケーションは、最低限の水準や少しストレッチした水準に対する差分をどう埋めるか?というテーマに収まる。

脱線


それはそうと、たいてい、持ってこられるアウトプットは最低限の水準以下に収まってしまう。そのため、こういった無駄なコミュニケーションが発生してしまう。いわゆるレビューやフィードバックというヤツだ。

残念なことにレビューはフィードバックは実際にはほとんど機能しない。

多くの場合、持ってこられるアウトプットをぱっと見て、見える範囲でレビューしても、無駄である。30点が50点になることはあっても、80点にはならない。

まずイシュー選択が間違っているからだ。検討すべき内容を検討し尽していない。 そんな土台がぐらぐらの状況で作られたアウトプットはほぼガラクタなので、見た目の手直しをしても、後で、他と整合しなくなって、捨てることになる。

他のモジュールやプロダクトの一貫性に整合しない場合、弱いものが捨てられる。検討し尽してこの形しかないんだ!となった場合は、強いので、他のモジュールがそれに合わせることになる。そういう生態系がある。

イシュー選択が間違っている例


ここで一つ架空の事例を紹介しよう。長くなるが付き合っていただきたい。コンサル先で1PMに相談された時の話だ。

PM「ここのデザイン直したんですけどレビューしてもらえますか?」
私「いいけど。それはどういう現状認識をしていて、どんな課題に対する行動なの?」
PM「えっと、前のデザインが簡素すぎて分かりにくいと思ったんで」
私「簡素すぎると思った、なるほど。ところで、今回のミッションにおいて、何がゴールなの?ゴールに対して、重要な部分は既に出来上がっていてもう磨く余地ないの? なんで細かなとこの最適化やってんの?」
PM「重要な部分は既に出来上がってるんです」
私「わかった。じゃー実際にユーザ3人に使ってもらって画面録画してきて。ユーザインタビューやってきて」
PM「わかりました」

(後日)
(画面録画を見ておく)

私「どうだった?」
PM「いやー、厳しかったです」
私「どのあたりが?」
PM「まず、デザインの部分、たくさん説明入れてみたんですけど、全然見てもらえませんでした」
私「だよね、ユーザは細かな文章は読まないよ、少なくとも1回目の利用では見ない」
PM「あとは、新しい検索機能を使ってもらった結果、ユーザの状況にマッチする商品を見つけてもらえると思ったんですけど、3人中2人はマッチしないということでした」
私「なんでマッチしないの?それはどういう現象なの?」
PM「事前に5パターンのカテゴリを用意していて、検索キーワードと行動ログから、カテゴリの出し分けをやったんですけど、それがうまくWorkしないみたいでした」
私「ロジックは分かった。それで、この先どうすんの?」
PM「・・・」
私「全く圧かけるつもりないし、単純に次どうするか知りたいだけなんだけど」
PM「録画をプロダクトチームのみんなで見て、議論してみます」
私「いやいや、PMさん、あなたがこのソリューションで行こうって言ったんだよね。あなたがこれに関して一番詳しい。考え抜いているはず。だったら、Workしない場合に、どうチューニングすると良いのかアイデアを持ってないとダメだよ。録画みて、そもそもユーザが事前想定している5つの状況のいずれかだったのか?状況が確認できた場合、なぜその状況だと判定できたのか?判定できなかったのか? 判定が合ってたとして、見せた商品がなぜマッチしたのか?なぜマッチしなかったのか? これは話しても分かりにくいから2軸でMECEに整理してからチームに共有した方がいい内容だけど、このあたりの整理をしてからじゃないと、議論にならないよ」
PM「確かにそうですね」
私「ユーザインタビューで、上記を知るためのインタビューが出来てないように感じられたけど、どう考えてたの?」
PM「いやー、うまく機能するとばかり思ってたんで、特にインタビューの設計はしてなかったです」
私「思いつきのソリューション作って、機能しなくて、リカバリー策分からんというパターンだよね。よくあるやつだけど」
私「これって、3ヶ月かけてプロダクトチームの時間使って、やるべきことだったの? 機能作らず、1週間で仮説検証できんかったの?」
PM「できたと思います」
私「だよね。次はそうしなよ、それがPMの仕事だから」
PM「なんで途中で教えてくれなかったんですか?」
私「いや、だって私、おたくの社長と、プロダクトマネジメントの水準をアセスメントして下さいっていうミッションで握って、観察させてもらっていて。意思決定の流れとか実行力とか、整理してレポートするって仕事だから。どんな現場でもまずは現状把握からだし。思いつきで中途半端に組織に手入れしたりしないよ。正解らしきやり方が分かっていても」
私「今回は、PMさんから声かけてくれたんで、求められれば、出来る範囲では貢献はするよ、というスタンス」

PM「あの、厳しいこと言ってもらっていいので、フィードバック頂けないですか?」

私「了解。じゃぁ、一点質問。なんでデザイン直したくなったの?」
PM「そういうとこ気になるんですよ、細かい性格で」
私「UX/UIへのこだわりがあるのは良いと思う。一方、自分の行動原理をメタ的に理解しておくのも必要だと思う。PMは重要イシューをピック出来ないとダメ。自分の感覚が絶対だとしてそれで組織を動かしてしまっている。この部分に関しては自覚的でないと、マネジメントはできない。
当然、時間は有限だから、最重要なイシューに取り組まないといけないよね。常に、1つのことしかやれないならどのテーマに取り組むだろうと考えて欲しい。それはデザインの最適化だっただろうか・・・と。
それから、最初に簡素に作ったデザイナーさんにも意図があるからね、UIのセンスはそのデザイナーさんの方が高いでしょう、あなたの勝手な思いつきで直しちゃダメだよ。実際、ユーザーが欲しいものではなかったわけで。自身の強みと弱みはちゃんと自覚しておいた方がいい。」
私「それから、現状のプロダクト作りの意思決定基準だと、3人に1人しかマッチしない検索機能でも、折角作ったから勿体ないからということで、機能追加すると思うんよね。そうやって何の課題解決にもならないものがどんどんプロダクトに追加されていくと、ハウルの動く城みたいなプロダクトが出来上がっちゃう。もう既にそうなってるけど」
PM「そうなんですよ・・・どうにかならないですかね。これ。自分でそんなソリューション作っててアレなんですけど」
私「どうにもならないよ。リリース数をKPIで置いてるから、PMさんがこの機能はイケてないからと言って、デプロイやめたら、チームメンバーの評価下がるよ。できないでしょそれ。」
PM「はい・・・残念ながら」
私「だから、リリースした方がいいよ、それ。君と君のチームのために」
私「おたくの社長次第だけど、レポートの後、本格的にプロダクト作り支援をするとなったら、プロダクト作り直すのが良いんじゃないかな、そのうち成長止まるだろうからね。もう相当、ユーザーにとって認知的負荷高くなってる状態だから、新機能追加してもほぼ使われない状況が続くと思うわ」


狂人PMの100倍部分の中身


例の中での会話は、だいたいPMの教科書にかかれてあるレベルの話だ。読んでいただくと分かるが、普段は100倍部分は使わない。そんなレベル感でも、顧客が求めているものではあるので、それなりのフィーを取れる。

顧客のレベルからすると、上位6%のPMも、上位0.1%のPMも、違いが分からないので、需要に対して、満足水準の仕事が出来ていれば、稼ぐことは出来る。真の勝利を求める企業の創業者でもなければ、0.1%の人材を求める必要はない。

ただ、マーケットで勝つのは1社なので、0.1%のPMが勝つのだ。そして、その先10年の創出収益は、下手すると100倍は違ってくる。

実はそれくらい実力に差があり、上位0.1%PMが上位6%PMを見たら、戦略のレベルの低さに、プークスクスと笑ってしまう・・・こともある。

人材市場では上位6%は1000万プレイヤーであり、有名企業の名刺を持っていたり、責任者をしており、凄い、ということになっている。一般的には。

ただ、プロスポーツの世界を見ると、差が実感できると思う。メッシは最盛期で年間91ゴールをあげたが、今世界トップクラスと言われる人達は年間20ゴール程度である。それに次ぐカテゴリとして年間10ゴール取れるFWは3億くらいは稼ぐ。このあたりまでが0.1%。でも、0.1%近辺のプレイヤーは差を作れるプレイヤーだとは評価されない。

それが、6%まで広げるとなると、トップリーグではプレイ出来なくなる。数千万稼ぐかもしれないが、名を覚えてもらうことはないだろう。

私自身がどこにカテゴライズされるかは分からない。ただ、何が出来て何が出来ないかを知ってるだけだ。あまり相対的な位置づけや他人の評価には興味がない。

ただ、取り組みたいプロダクトを徹底的に磨く、、、ということをやっているし、やってきた。長くやってきたので、作り手側であり、ビルダーであり、人より100倍考えてきたとは思う。

もはや、何のためかもよく、分からないけれども、プロダクトの先には顧客がいるので、顧客を何とかハッピーな気持ちにしたい、ということで毎回情熱をもってプロダクト作りをやっている。

狂人の100倍部分は、稼ぐためには必要のない知識だ。だからここから先は好奇心や趣味の話になる。

需要があるのは教科書的な知識であり、大半の企業で、基本的なことがやれていない現状からすると、やはり、必要なのは教科書的な知識である。

狂人的アプローチは、マーケットでNo.1になりたいポテンシャルのある企業以外からは必要とされない。

なもんで、語るべきかここにきて迷う。とりあえず、長くなったので、中身の話は今度にしようw そのうち語ることがあるかもしれない。

まー年末年始、暇だったら。 そもそもこの100倍部分の性質が、常人には理解されないメタ視点というものなので、なかなか表現が難しい。

もちろん、何事も言語化は出来るものだけど、論理的整合性が取りにくい話もあるので、書くのに苦労するのは確かだ。 

代わりに、最後に、狂人と天才の違いを書いておく。


狂人と天才の境界


マネジメントで成果を出すためのお作法を無視して、クリエイター魂全開の天才はいる。 

その種の人はまたジャンルが違って面白い。世で言われている天才は、大体このイメージだと思うが、これは別枠で語らなければならない。

というのも、ビジネスの世界では、よほど突出した天才でないと、好きなもの作っていいよという権限獲得までいかないので、PM界隈ではお見掛けすることがあまりないからだ。

ジャックドーシー、ジョブズ等、創業者クリエイターが良い事例かもしれないが、他に誰?と言われたら、あまり思い浮かばない。この種の天才は基本的に共同作業を苦手としているため、組織化された社会ではほぼお見掛けしない。個人で完結する仕事で大成することがごく稀にあるといった感じで、天才性/作家性が世の需要にマッチすることはほとんどない。

作家性を隠し、大衆向けにチューニングする人達は、私のカテゴリ感で言えば狂人にカテゴライズされる。 これくらい書けば、天才と狂人の違い、あるいは私のカテゴリ感を理解してもらえるかなと思う。

狂人の100倍部分は、偏った能力発現=天才性ではなく、深い人間理解や、世の中の構造理解から形成されている。

これらは学べるし、長い長い実践と、観察(好奇心)があれば、身に着けることもできる。

友人の狂人カテゴリは、サヴァン症候群などの天才も含むカテゴリ感だったが、私は後天的な能力獲得が可能という捉え方だ。

天才と狂人の間に、幅広い境界エリアはあると思う。

ユニークな選好を持っているがゆえに、そのこだわりが、良い結果を生んだケースなどは、たまにあると思う。

そのこだわりを一旦相対化しちゃうと、ニッチだねぇ、にしかならないので選ばれないが、なんかしらんが、そのユニークな選好を持つ人が力を持って、プロダクトに作家性が芽生える、その結果、ユニークなプロダクトが出来上がった、うまくいった。みたいなことは、たまにあると思う。 

境界(グレーゾーン)は割と広いかもしれない。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
宮川耕@TOCエキスパート/PM歴20年
プロダクト作り支援が最近のお仕事。