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小説「ヘブンズトリップ」_21話

話の続きだ。
 史彦が「大変だ」と言ったのは、これから受ける事情聴取についてだった。
 警察はまず、彼らは三人を確保することと、俺たちの身の安全を最優先にして、特に何も聞いてこなかったらしい。
 ということは・・・・。

 史彦と同じようにしゃがみこんだ時き、さっき俺が、目覚めたパトカーの運転席からドアを開けた。
 「寒いから中で話をしよう。早く入りな」
 優しそうな警察官のお兄さんがとほほえみながら声をかけてきた。
 夜が明けて、朝日が降り注ぐ、美しい朝で、気温はものすごく低くて、寒かった。

 この状況から、ごまかすことはできないだろう。
 正直に話すことにした。これ以上、嘘を突き通すことは不可能だ。
 名前や、生年月日。住所、学校の名前、ここで何をしていたのか? 何の用があってここを訪れたのか? 警察官の男性は次々と質問をぶつけてきた。
 これから自宅に連絡がいって、学校に連絡がいって、病院に連絡がいく。
 俺たちが大人たちにどんなことを言われるかはだいだい想像がつく。
 
 警察の人はアンケートボードのようなものに書きこみながら、俺たちの事情聴取を勧める。
 どうしても、俺は聞きたいことがあった。
 俺を殴った男と、その他の二人の男。彼らは何者なのか? そのことを警察に食い入るようにしつこく聞いた。
 「君たち、子どもは あんまり、詳しく知ることじゃない」
 そう言われた。
 それじゃ、ダメだ。
 それじゃ、ここで俺たちが見たことをなかったことにされるみたいで納得がいかない。
 俺は取り乱して、警察官の顔に自分の顔を近づけた。
 「おい、落ち着け!」
 逆上して冷静じゃなくなった俺を抑えつけたのは史彦だった。
 「ケガをしたお前の気持ちはわかる。けど、俺たちはもう保護されたんだ」
 鼻息を荒くして、史彦の言葉を飲みこむように噛みしめた。 
 史彦が俺をなだめたところで、それ以上警察官は何も聞いてこなかった。
 彼ら三人を乗せたパトカーが動き出すのをずっと見ていた。
 助手席に乗っていた、白髪の老人と目が合った気がしたが、俺は目をそらさず目を開けた。
 
 「帰ろうぜ・・・」
 史彦の言葉は頬の緊張をゆるませた。

 帰りは俺と史彦は別々の車に乗ることしか許されなかった。史彦はおじいさんのマークⅡを置いていくわけにはいかないし、俺らふたりが同じ車で逃走しようとすることも危惧された。
 俺はパトカーに、史彦は自分の車で地元の警察署まで送られることになった。
 
 「じゃあ、また後でな・・・」
 いつもの史彦の口調だった。

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