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④ゴムと恐竜

視界が滲む。


ジムの端っこで三角座りをしながら天井を見上げていた。



気を抜いたら熱いモノが溢れてしまう。


もう何回目だろう。



その頃には、薄々気付いていた。



僕は弱い。



それも滅茶苦茶弱い。



当時、僕より小さく、女性会員さんにもボコボコにされていた最弱と呼ばれていた人にもやられた。



そして今日、伝統派空手出身の新人にボコられた。



強くて、弱い人にも容赦ないタイプの人だった。
鼻血出した上、ミドルでKOされた。



練習後、先生が1人の先輩に
『コイツになんかアドバイスしたれや』
と言った。



『泣いて落ち込んでも強くならんから』



その人はそう吐き捨てる様に言った。



(なんて冷たい事言うねんこの人、、)



それが当時の大野さん(大野"虎眼"賢良)の印象だった。


そうこうしているウチに年末に差し掛かり、初めてジムの忘年会に参加する事になった。


初めて行った焼肉食べ放題。


こういう場合、呑まないと怒られるかもと思い全く飲めないチューハイを注文。



そして肉が到着し、早速食べ始める。


僕は衝撃を受けた。


(え、コレ、、ゴムか何かちゃうん??)


横を見ると七輪に乗せすぎなぐらい乗せられ、焦げ焦げになったゴムの塊を

『美味いわぁ〜、ホンマ美味い』

を連呼してビールをヤクルトの様に呑む先生がいた。



そう、田舎の牧場で美味しいお肉に囲まれて育った自分の舌は肥えてしまっていたのである。



周りを見たらマサさんも呑んで無いし、無理してアルコールを注文する必要が全く無かった事にも気付く。


『おぅ、いっぱい食え、食わな強ならんぞぉ〜』

と言って焦げ焦げの樹脂を僕の皿に乗せる先生。



飲めないアルコールも相まって

(アカン、無理や、、、)




そう思った時、僕の横から皿とチューハイを奪っていく太い腕。


『無理して呑まんでエエ。コレも俺が食うたる』


そう言ってガツガツ食べる男。



大野"虎眼"賢良、見た目は腕が太く恐竜の赤ちゃんみたいな人🦖だが、不器用で滅茶苦茶優しい男だった。



そこからは僕も打ち解ける事が出来、好きなボクサーや漫画の話をいっぱいした。


忘年会の帰りも道が同じだった事も有り、共に帰路へ。



(エエ先輩やなぁ)



『おぉ、ちょっとコンビニ寄るわ』

ウィーーン

プシュ





チューハイを飲みながら色々話してくれる先輩。


(楽しい時間やな)



そう思って歩いていたら


『ちょっと待っといて』



ウィーーーン




プシュ





(いやほんま楽しいわぁ)




ウィーーン



プシュ




大野"虎眼"賢良、一駅区間で3度コンビニに寄りチューハイを買う男。




(実は焼肉屋のアレも飲みたかっただけちゃうんか、、)


等と言った考えがふと頭をよぎったが、楽しいので忘れる事にした。


なんやかんやで楽しい年末になった。



年が明け練習を再開、スパーの時間となった。


そしてまた空手の彼に目をつけられた。


つかつか僕に寄ってくる少しニヤけ顔の男。


『やろうよ』


僕が渋々「お願いします」



と言いかけた所


『俺ががやったるわ』


と登場したのが太い腕の人でした。



太い腕の人はその彼をフルボッコにして僕を守ってくれました。



その日以来彼をジムで見る事は無かったです。



大野"虎眼"賢良、昭和の不器用を体言する男。



何やかんやでいつも守ってくれる、一番お世話になった先輩です。

左手上から、小堀、大野さん、マサさん、先生
左下から、小堂さん、兄やん。

つづく

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