真木よう子のコミケ参加・炎上・辞退と、表現の自由の敗北
女優の真木よう子がコミックマーケット93(冬コミ)に参加を表明してクラウドファンディングで資金を集めることに対してやたらと炎上して、結局「謝罪」させられてコミケには不参加ということとなったようなのだけれど、この件については炎上させていたコミケ参加者であろう一部の人たちの方に僕はかなり不信感を持った。後味が悪いどころではなく、憤りを感じるくらい。
強い言い方をすれば、この炎上は「コミケの古参オタクが表現の自由を潰した」という悪い一例として記憶と記録される事案だと思う。炎上というものがしばしばそうであるように一部の人によるものではあるのだろうけれど、事実は事実として残る。
真木よう子氏コミケ参戦の何が問題か
https://anond.hatelabo.jp/20170826170538
ここで色々と「問題」の理由が指摘されているのだけれど、はっきり言ってこんなこと言い出したらほとんどのコミケ参加者が問題ありということになってしまう。以下それぞれの点に対する反論として。
1. 自費出版が原則のコミケでクラウドファンディングにて製作した本を頒布
→何の問題があるというのか。コミケでクラウドファンディングが禁止なわけではないし、実際CAMPFIREでコミケでも頒布する同人作品の制作費用を集めている人はいたし、これからも増えるだろう。元々同人サークル内で費用を集めることは行われていたわけだし、最近出てきたクラウドファンディングというツールを使ったに過ぎない。「クラウドファンディングが悪用されて詐欺につながる」とか言い出す人もいるけど、従来からあった同人ゴロの問題や同人サークル内の金銭トラブル事例はいくらでもあるわけで、むしろ公開されているだけ信頼性は高いくらいだと思う。それに制作費のかかるアニメ等を同人作品として作りたいと考える人達にとっては将来的に巧妙にすらなる方法なわけで、「クラウドファンディングはコミケに適していない」などというのは今後の作品制作に対して無用な制約を作る話ではなかろうか。
2. 「皆様のご希望の写真」を掲載→自分の志で出すわけではないのでは?(ゲスい言い方をすると、収益や売名のためなのでは?)
→これは自分の志で出すことを表明しているし、功名心に関しては多かれ少なかれコミケ参加者というか表現者であれば持っているものだろう。収益というものについては(他の同人誌即売会はともかく)ことコミケに関して言えば理念に反するという人もいるだろうけれど、これは実際問題現実的にそうなってますかね、という部分もあり。同人誌で荒稼ぎしているとか、実際には一握りもいないけれど、わりと聞く話ではある。サークルや知り合い内部での打ち上げ費用に使ったりは当然するわけで、そういうところのラインはまた別の問題ではあるだろうけれども決めかねるはず。そもそも収益が出るとも限らない。
3. 参加目的が「(ファンの)皆様と会いたかった」から
→これを否定するのはあまりにも酷でしょう。どれだけ小さいサークルでもファンやフォロワーさんに会いたいといった気持ちはあると思いますよ。サークル参加はしたことないけれど一般参加者側で何度かコミケに行った側からしてもそういう面はかなりありましたし。「ファン・知り合い・フォロワーに会いたい」→「それは問題だ」って、そんな馬鹿な話があるかいな。
4. コミケを知らない/慣れていないファンに対応できるかどうか疑問
これは理解できなくもないし、列の整理とか大丈夫だろうかという不安はあるけれども、これもむしろ業として芸能人をやっている側とそれに近いであろうスタッフなのだからそこまで心配することだろうかという気はする。この点も他の新規参加者にも言えることでもあり、その場のマナーに従ってくださいということで、ある意味では平等に降りかかる話。
5. そもそもA5カラー320頁って搬入できるのか?
→できる。伝説的な大きさや量のサークルはあるでしょう。そこまで非現実的なものでもない。
【ついでに】真木よう子氏自身がTwitterで口の悪い批判者を晒し上げて謝罪?(という名目でファンに攻撃させている)
→自分に鬱陶しいクソリプが来たときの苛立ちと対処方法を思い出してみていただきたい。当たり前だけど、有名人だろうと芸能人だろうと、みんな人間です。ある程度のアドバイス(しばしばクソバイスだが…)や批判は理解できなくはないとしても、明らかに侮辱的なものは良くないに決まってるだろう。
更についでに言うと、「コミケの同人誌」というイメージについても、数が多いから目立つけれども、漫画やアニメの二次創作同人誌の頒布だけがコミケではないからね、こんなの当たり前のことだと思うけど。写真集を出している人、自作の歌のCDを作っている人、アクセサリーを作っている人、挙げていけばキリがないほど様々な表現の発露の場ですよ。
というわけで、基本的に真木よう子がコミケに参加することに対して、問題はないわけですよ。多くのサークル参加者、一表現者と同じです。
にもかかわらず、いちゃもんつけて無駄に炎上させたり、「叶姉妹は礼儀を通したけど、真木よう子は土足で入ってきた」みたいな揶揄が拍手喝采の状況は、はっきり言って反吐が出る。「頭を下げて入ってきたら認めてやった」とかって、どんな狭いムラ社会だよ。そういう古臭い因習は僕も大っ嫌いですし、例えばTwitterでもそういう類の理不尽への批判はよく言われていることだ。「ニワカ笑うな来た道だ、古参嫌うな行く道だ」という文言は見たことあるでしょ。年々膨張していくコミケ参加者の一部ではあるけれど、こんなに排他的だと思ってなかったよ。
なによりコミケの理念には
「コミックマーケットは同人誌を中心としてすべての表現者を受け入れ、継続することを目的とした表現の可能性を広げるための「場」である」
「運営ルールに違反しない限り一人でも多くの参加者を受け入れる」
というものがあるわけで、「なんか志が低そうで金儲けしそうで準備が不足してそうで理解が浅そうでなんか腰が低くない有名人だから」とかいう雑な推測とやっかみを重ねたものを理由としてその表現者を排除するとか、最低の行為ですよ。明確に、表現の自由の敵だとさえ言える。「直接的に辞退しろなんて言っていない」という言い訳をする人もいるかもしれないけれど、精神的に追い詰めて「自主的に」そうさせるというのはモラハラの常套手段です。
真木よう子から表現の場を奪ったのはお前らだ! マジで反省しろ!
本当に自分の身にも降りかかること、所謂ブーメランの事案ですよ。特に同人制作の手法としてのクラウドファンディングは否定するべきじゃないと思う。後々自らの首を絞めることになるだけだ。
……2年前、東村アキコ『ヒモザイル』の内容が酷いということで炎上して休載になったことがあった。僕もあの漫画は酷いと当時も書いたし今でも思っているし、批評と炎上とその対処のバランスで一概に言えないところもあるけれど、ある意味では確かに批判・炎上が「休載に追い込んだ」という事例として後味の悪い形で心に残ってしまっている件ではある。
今回の真木よう子のコミケ参戦から辞退に至る炎上は、それ以上に酷い表現の潰し方だったと思う。僕は必ずしも「表現の自由」絶対主義を採るわけではない(例えばヘイトスピーチやどうしようもない誹謗中傷に対しては表現の自由を擁護することなく真っ向から反対を表明する)。しかしこれについてはかなり悪しき一例として残るだろうし、残しておきたい。
真木よう子のコミケ参戦はコミケの理念に反していない
https://anond.hatelabo.jp/20170828024450
書いた後に気付いたけど、僕とほとんど同じことを先に言っている人もいた。ありがたいことです。
どれもだいたい書いたことの繰り返しだけど一応追記。RTしたけれど読んでいないという人も大勢いるようで、炎上の特徴だなと思う。
・追記1:「真木よう子の出す本はコミケではなくてもいいのでは」という言説が多かったけど、それ言い出したら他のサークルというかあなたの本もそれを問われることになるわけで、悪手としか思えない。
・追記2:「真木よう子がコミケに詳しくないと自分で言っているから」とかいう言説もあったけど、「コミケに詳しい」とか自分で言ったら「態度が悪い」でハメ技なわけで、人を叩くための言説でしかない。そもそも「コミケに詳しい」とか言える人がどれだけいるというのか。理念やルールは学んでいくのが参加者の義務ではあるけれど、それは時間はあるのだから今後でも可能なはずだ。
・追記3:「真木よう子が自分で辞退すると言っているのだから問題ない」とかいう言説も、自己責任論とモラハラの手法のように思う。「自主的に」そうさせるという陰湿なやり方ですよ。
・追記4:僕はコミケのカタログは読んでいるし、サークル参加したことはないけれど一般参加したことはあります。でもこれも、もし参加したことがなかったとしても言えることです。
・追記5:50万人以上が参加するコミケをムラ社会のままでいいと言い切るのはさすがに無理があると思うし、理念的にも反する。
・追記6:「コミケでは販売ではなく頒布でなくてはいけない」はデマ(https://togetter.com/li/1145047)。僕も慎重に頒布という表記にしたけど、このまとめでも言及されている通り「コミケのルール」として語られていたことが必ずしもルールではないということもあるわけで、自称コミケ事情通が「真木よう子はコミケをわかってない」という理由で排除したけど実はその人たちもコミケをわかってなかったという馬鹿らしい一例。そもそもクラウドファンディングの部分についてもそうですし。どっちが謙虚さが足りないのやら。
・追記7:炎上してやたらとクソリプが飛んでくる状況になるとよくわかるけど、クソリプを受ける側にとっては暴力だと感じますよ。クソリプは一部だけだとか、ちゃんと擁護する意見もあるとかは言えるのかもしれないけど、明らかに悪意と敵意を向けられているということの方を強く感じてしまうわけで。僕はまぁ最初からほとんど無視する方針だからいいのだけど(と言いつつも、この追記7を言い訳がましく書いてしまう程度には気にはする)、真面目な人や精神的に繊細な人だと潰れてしまうと思う。その批判どころか暴言を乗り越えなければ表現はできない、とかいうのはあまりにもマッチョイズムでしょう。そこを改めて意識してもらうために、わざわざ「ネットの反応で表現の自由が潰された」という批判もあった『ヒモザイル』の話も(論旨というか思想信条的には僕が不利になるにも関わらず)このnoteの中で意図的に書いたんですけれどもね。
(参考記事)ネットの正論に潰される表現の自由! 東村アキコの漫画『ヒモザイル』休載はもっと議論されるべき
http://www.excite.co.jp/News/odd/Tocana_201511_post_7841.html
追記8:どうしても完全な知識がなければコミケに参加すべきでないというなら、コミケ検定とか作って合格者だけが参加できるようにすればいいのでは(頒布の件なんかは自称事情通へのひっかけ問題になるよね)。無論、僕はそんなことは望まないけれど。
追記9:真木よう子が結構な漫画好きだという証言が石黒正数先生のツイートなどで出てきた。コミケに親和的かどうかって誰がどう決めるものなんですかね…。
追記10:真木よう子は映画『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』で知ってました。僕は原作版が好きなので映画全体の評価はそこそこだったけれど、まいちゃん役だった真木よう子には良い印象を持ってます。
表紙画像引用:コミックマーケットとは何か?(2014年1月)
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