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無印やユニクロも参入で「マスクバブル」は完全に終焉迎える

>新型コロナの影響で、およそ3か月にわたって品薄が続いてきたマスクだが、ようやくドラッグストアやスーパー、コンビニなどにも陳列されるようになった。最近ではアパレルメーカー、スポーツブランドなどもこぞって参入し、布やその他の新素材を使ったマスクも人気を博している。だが、ファッションジャーナリストの南充浩氏は、こうした“マスクバブル”崩壊後の先行きを懸念する。

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今回のコロナショックで、マスクの需要がにわかに高まり、3月からマスク不足に陥りました。その結果、値段が跳ね上がり、これまで500円台後半から700円台でドラッグストアなどで売られていた50枚入り不織布マスクが4000円弱にまで値上がりしてしまいました(地域によればもっと高い値段があったかも)。

値上がりしただけならまだしも、何週間もマスク自体が入荷しないことも珍しくありませんでした。しかし、4月末ごろからマスクが行き渡り始め、値段も現在では50枚入りで1000円~1300円程度にまで値下がりしている店がほとんどです。また店によっては1000円を下回っているとも伝えられており、“マスクバブル”は完全に崩壊したといえます。

マスク不足が顕著化した3月中頃から、マスクを製造販売するアパレルブランドも増えました。アパレルだけではなく、縫製工場や生地メーカーもマスク製造に続々と乗り出しました。業界向けのメディアを見ていると毎日毎日、マスクの新規参入が報じられていたので、個人的にはこの手のニュースに関してはちょっと食傷気味になっています。

どんな物事にも常にメリットとデメリットが存在します。マスク参入を決めたメーカーにとっては、もちろんマスク不足の緩和に少しでも役立ちたいという思いはあったでしょうし、社会貢献の意味合いもあったでしょう。中には社会貢献のポーズを示したに過ぎないブランドや工場もあったと考えられますが、それを言うなら、マスクに新規参入し続けた海外の有名ブランドとて同様でしょう。

またブランドや工場にとっては実利目的という部分も少なからずあったといえます。非常事態宣言によって、百貨店・大型商業施設が全国的に休業していたので、実店舗からの売り上げはほとんど望めない状態になりました。

自宅待機や自宅勤務が増えたことで、ファッション衣料品の需要も伸び悩みました。まだ自宅勤務なら「仕事をする気分」を演出するために、着替えも必要になります。テレビ会議があるなら、上半身だけはある程度キチンとした身なりを見せる必要もありますが、自宅待機なら一日中寝間着で過ごしても何の問題も発生しませんから、洋服を買い足そうという意欲は通常よりも低くなって当然でしょう。

このため、アパレルブランドとしては洋服の売れ行きが望めない中で、少しでも売り上げを作るために、目下のところ供給が需要に追い付いていないマスクを製造販売することは、ブランドを存続させるためには必要不可欠だったといえます。生き延びるためにはやらざるを得ない面もあったのでしょう。

実際、各ブランドがマスクによってどれほどの収益があったのかはよく分かりませんが、個人経営の商店などではそこそこの売上高を稼いだところもあったと聞いています。

筆者は6年ほど前から在庫処分店の手伝いをしているので、そこと付き合いのある同業他社数社の状況を耳にすることがあります。その中には、1か月間だけで、マスクの売上高が2500万円あった個人業者もいたといいます。年商何十億円規模のアパレルからすると2500万円の売上高なんて大した額ではありませんが、個人経営の商店なら結構な金額です。ネット通販を手掛ける個人業者の中には、1か月間でマスクを8000万円売った人がいたとも……。

しかし、マスクバブルが長く続かないことは、ニュースを見ていれば容易に予想できました。

賛否両論ありますが、アベノマスク配布の発表がマスクの値上がりに歯止めをかける一定の効果があったという意見もあります。なにせ、全世帯に2枚ずつ、洗濯すれば繰り返し使える布マスクを無料配布することを公言したわけですから、時間が経過すれば最小限のマスクは行き渡ることは目に見えていましたし、すでに布マスクを手作りしている人もたくさんいました。長期間にわたってマスク特需が続くことは考えにくかったのです。

また、興和やアイリスオーヤマ、シャープなどの大手企業も何千万枚規模でのマスク増産を発表していましたので、マスクの供給が早晩需要に追いつくことは明白でした。

例えば、3月5日に興和は「ガーゼマスクを3月に1500万枚規模、4月には5000万枚規模で生産する」ことを発表しています。社名に馴染みのない方もおられるようですが、カタカナで「コーワ」と表記すれば、『コルゲンコーワ』をはじめ、医薬品で著名の会社とピンと来る人も多いのではないでしょうか。もともと、同社は繊維関係の商社でブランドビジネスなども手掛けていますし、興和紡という紡績も持っていますから、繊維に強い会社なのです。

当然、興和のマスク生産体制は5月以降も続いていましたから、待っていればマスク不足は緩和されることは目に見えていたのです。

アパレル業界でいえば、青山商事やAOKIといった紳士服ブランドも機能性マスクを発売しています。青山商事は細菌の増殖を抑制する鉄イオンを配合したハイブリッド触媒「ティオティオ(TioTio)プレミアム加工」を施した生地による布マスク。AOKIは外層に撥水加工、中・内層に抗菌加工を施した素材を使用した3層構造のマスクを生産しています。

さらに無印良品も綿製マスクを6月上旬から順次発売すると発表しており、2枚組で999円(税込み)という価格です。

そして、いまや国民ブランドと言っても過言ではないユニクロまでマスク供給を正式に発表しました。速乾性・通気性に優れた機能性商品「エアリズム」を利用したマスクを製造し、今夏より販売する計画です。

確かに高気温になる夏場は、マスクをしていると息苦しく熱中症の心配も高まります。「通気性に優れるマスク」はウイルス予防の観点からいうと、効果がどれだけあるのか疑問な部分はありますが、夏向けマスクはネットではすでに期待が高まっており、かなりの売れ行きとなりそうな気がします。スポーツメーカーのミズノが開発した水着素材を使った「マウスカバー」もネット抽選のアクセスが殺到し、受付が停止してしまったほどです。

“ユニクロマスク”の価格はまだ具体的になっていませんが、大手の低価格ブランドがこぞってマスクを発売し始めたことで、布製マスクが再び品薄になって、今以上の高値で売られる心配はなくなったといえます。そして、マスクバブルは完全に終焉を迎えることになるでしょう。

これからは、社会貢献目的や採算度外視での提供を重視しているブランド以外、つまり、ある程度の収益性を求めていたブランドはマスク商戦から撤退するほうが賢明だといえます。さらなるマスクの値崩れは目前まで迫っていますし、色や柄にこだわらない人であれば、1箱1000円前後まで値下がりしている不織布マスクで十分でしょうから。

(NEWSポストセブン)


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