✴︎ぼく
地上に近づいていくと、ぼくを囲んでいる水のベールは
急にスピードが落ちた。
水のベールを通して見る地球はピントが合わないカメラのようで
何も見えていないのと変わらなかった。
光のトンネルが行き着く先へ、ぼくを包んだまま運んでくれていた。
「今の結ちゃんにこれを伝えるために、
私、ここに呼ばれたんだなって。」
いきなり女の人の大きなしゃべり声が、ぼくの耳に飛び込んできた。
びっくりして目をこらすと、水のベールのピントがぴったり合って、
向こう側に真っ黒で髪の長い女の人が立っていた。
緑とも茶色とも言えないような不思議な色をした瞳から、
ぼくの頭に直接話しかけてくる。
「ハロー!結ちゃんのところに来るベビー!
そんなとこに漂ってないで、早く産まれておいでよ。
結ちゃん、お待ちかねだから。」
ばくばくばくばく。ばくばくばくばく。
ぼくの中心が強く脈打ち始めた。
そこに手を伸ばそうと思ったけど、ぼくはもう形を持っていなかった。
一粒の光となって、
その人が結ちゃんと呼ぶもう一人の女の人の襟足から、
すーっと体に入っていった。
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