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うるさいおっさん

電力の技術系・事務系の現場経験などから学んだ『現場力』に関係する記事を掲載します。「現場力」が無いことで、事故を未然に防ぐことができず、対応にも失敗します。
よく知らないという、自分の中の隠れた恐怖心が、対応時の冷静な判断を狂わせることにもなるのです。


活線に向かって指を指すな

入社した当時、同じ組織の別の部署にN主任という方がいました。見た目からして、小言を言いそうな、いわば怖いおじさんでした。

同期入社の友達がN先輩に変電所の機器について尋ねようと「Nさん、あれは・・」と指差しました。「こら!活線(充電された電路)に向かって指をさすな!」と早速叱られました。

このように、特に若い社員は顔を見ると小言を言われたものです。N主任の職場に出かけるとき、若い社員は彼の存在を強く意識していました。
率直に言えば、何か文句(小言)を言われるのではないかと、ビクビクしていました。

それでも、若くて反抗的だった私は、彼の話が理屈に合わないと思えば、ことあるごとにNさんに食ってかかりました。
当時そのNさんと同じ職場に勤務していた同期入社の社員に、周囲の先輩が「誰や、あのNさんに食って掛かってる奴は?」と尋ねていたそうです。

 

それから、何年か後、私とNさんは同じ課で勤務することになりました。Nさんは安全担当の役職者になっていました。安全関係の文書を書いていると、彼はこまめに添削してくれました。
これは、小言をいうために添削していたのではなく、丁寧に説明しながら修正ポイントを指摘してくれました。その添削は、時には私の意にそぐわないものもありましたが、新しい視点が加わり良くなったと感じるものもありました。

彼が丸くなったのか、いや私の方が少し大人になったのか、反抗的な態度をする必要はなくなりました。それでも彼は、別の若い社員に対しては「取り組み姿勢が悪い」などと批判していました。
その後、Nさんと会うことはなかったのですが、彼は退職してからしばらくして亡くなられたと聞きました。

指の長さで生死が分かれる

今にして思えば、彼は若くして亡くなられたのでした。
『活線に向かって指をさすな!』という言葉は、今でも同期入社だった人たちとの話題に上る言葉です。

高電圧の機器を扱う仕事の世界では、その指の長さ程度の差で、生死が分かれることもあります。その危険性を一言で表した、とても貴重な言葉です。
そして長い年月を経ても同期の話題に上るということは、こうした内容が、私たちの体にしみこんだ、本書で扱う現場力だと思います。

当時のN主任は、説明の仕方や話し方に工夫の余地はあったと思いますが、逆に丁寧で穏やかな説明だったら、印象に残っていなかったのかもしれません。

 

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