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その暮らしだけが確か

カーテンの向こう側に見える
鹿の親子が遠くから見ている

視界はクリアで
どこかで行われている反抗と無縁

素直になれる気がしていた
朝露で濡れた草花
カリカリに焼かれたベーコン

お揃いの枕並べて眠ろう
目が覚めなくてもいいよ

これは愛だ
なんて言えないよ 顔が紅潮する
手と心臓が繋がったみたいです

左右が揃ってない靴下とか
角に溜まったほこりとか
面倒な話し合いはまたどうか

迷子になってしまっては引き返せない
呼び止めてくれるのを待っている背中
泣きじゃくっているのは誰?

天国を探していた
その営みで想起される
わたしとそれ以外 以外があなた
永遠に近い

骨だけになってしまうまで
薄く薄く引き延ばしていこう
その暮らしだけが確か

緩やかに平和になって
退屈と連れ立って
窓はただの四角い硝子です
勇気が出ないの?

『そうね わたし はなすわ
たくさん抱えてきたこと』

彼女は抱えていた花束から1本ずつポストへ投函していきました。
中には枯れてしまったものや、長さの足りないものがあり、実に悲惨に映ります。
気付かない人、捨てる人、喜んで受け取ったとして持ち主の詳細に目を向けない人、気持ち悪がる人、人、人。
それが彼女にとっての全てでした。
あと5,6本というところで彼女は横になりました。
長い長い呼吸の音が細く、細く、消えていきました。
沈みこんで、暗い穴へ落ちていくようでした。

『ひとやすみしたいの』

生ぬるい風がひゅうひゅうと
ただ鳴っているだけ

俄に足音がして
優しい目をして
手を撫でて

生糸の優しさ脆さを孕んだ上部の面構え
悪寒 記憶 逆行していく

砂丘の一角に立っているの
痛みを知りたいの

『だってわたし 生きていくんだもの』

投函した言葉はどこかへ届くでしょうか
届いたのでしょうか

結びません
どうか私を忘れてください
渡すものはもうなにもありません

はじめからそこになかったように
カーテンが光を受けてただ光る
その光の先だけを 想うのです

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