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【第11回】松永天馬の歌詞深読みゼミ#9「パズル/湘南乃風」

アーバンギャルド松永天馬の歌詞深読みゼミでは、J-POPの歌詞を題材にしながら、歌詞の深読みを行なっていきます。スペシャカレッジ通信 串田

過去の記事はこちらから!

課題曲「パズル/湘南乃風」
作詞:湘南乃風

パズルの歌詞はこちら


松永

医療系ドラマのタイアップの曲みたいですね。
それでシリアスな曲調になってまして、
おそらく医療ドラマにありがちなキャリアの問題であるとか学歴の問題であるとかも、
歌詞の中にスパイスとしていれてる感じですね。

串田

はいはい。

松永

プラスマイナスを計算している自分にふと疑問を抱き、
こんなはずじゃなかった、
俺の歩んできたキャリアは人の目ばかりを気にしてたとふと立ち止まる主人公。
しかしその後に続く「まずは自分を否定してばらばらにして、自分をぶち壊してやる」っていう解決策が、湘南乃風っぽくて安心します。

串田

確かに。

松永

壮大なパズルを完成させるよりも、
作ることの方が大事だし、
自由に描くことのほうが大事。
結局その絵を見るよりも、がむしゃらな日々。
結果よりも今までやってきた過程が大事。

串田

過程が大事。

松永

でも全部ぶち壊すとは言ってないですよね。
廃業や自分を辞めるみたいなことではなくて、あくまでフレームの中でパズルをもう一回組み立てろと。
「お前、一回就職したんだったら、仕事は続けろ」みたいな感じ?

串田

それって、
すごく常識的なことのような…(笑)

松永

そうなんですよ。
すごく常識的です!

串田

組み合わせ次第では楽しくなるからっていうのも…

松永

組み合わせ次第でっていうのを聴いて、
僕はビッグダディを連想してしまったんですよね。
家族の組み合わせをどんどんどんどん変えて、
ひっついたり離婚したりして、
でも家族というフレームにはこだわり続けるビッグダディのように、
守るべき所は守らなきゃいけないんだっていうね。
パズルで言うフレームの部分は守んなきゃいけないんだぜっていう。
「仕事は続けようぜ」っていうのは常識的なんだけど、ドロップアウトしがちな(かもしれない!)ヤンキー入ったリスナーは「しっかりしなきゃ」って思うわけですよ。

串田

そうですね。磯部涼さんの本に書いてたんですけど、
かなり意識的にマイルドヤンキーにささるようには書いてるみたいですよ。

松永

あー…。確かに、ここで仕事を投げ出したり、犯罪に手をそめたらヤンキーかそれ以上ですからね。
決して投げ出さない、それがマイルドヤンキーのマイルドたる所以かもしれない。
決して「面影ラッキーホール」みたいに行くとこまで行かない、マイルド上等な感じ。

串田

もしかして、
あの有名な曲を青春時代に聴いてた地方の子達が、
今働き出してそういう悩みをかかえてるんではないかっていう僕の推測もあります。

松永

「純恋歌」ですか…。
十年前に「純恋歌」を聴いていた若者たちも「おいしいパスタ作ったお前」と結婚して、今は「ガキ」もいるんでしょう。
そんななか、人生の大貧民で負けてもマジギレしないのが今の俺!
昔はやっぱり、お気楽な歌詞が多かったんですかね…?

串田

湘南の風の中にバリバリのラスタマンと、
そうではない方がいるらしいんですが、
若旦那さんは尾崎豊さんが好きだとか、
歌詞の師匠がさだまさしさんと言ってたり、そういうバランスのグループらしいんですよ。
初めはレゲエ的なアプローチでやってきたらしいんですけど、
中盤からは意識的に、あえてジャンルを脱した多くの人にささるような曲のアプローチをしてるみたいです。

松永

確かにそれは感じるところはありますね。
今は本当にゼロ年代のお気楽ヤンキー的な楽曲が希少種になってきているっていう…。
……ヤンキーも非リアが主流なのか?

串田

その中でのケツメイシさんはすごい…。
ぶれない…!
「パーティー行こうぜ!」みたいなのりの曲って、
海外ではEDMとかでありそうな気もするんですけど、
日本はヒットチャートに無いですね。

松永

時代もあるんじゃないんですかね。
基本的には頑張ろうっていう時代だと思うんです。
震災も起こっちゃったし、
明るさの裏にある暗さというか。
でんぱ組とか典型的ですけど、
自分たちの暗い過去があって今があるっていう。
アイドルの笑顔っていうのは作りものなんだよ、だけど分かってても希望を歌うよっていうアイドルソングばっかりだと思うんですよね。ももクロじゃないですが、まさに「泣いてもいいんだよ」って感じ。

串田

底抜けに明るいものってそんなに無いですもんね。
オレンジレンジとかケツメイシとかみたいなやつ。

松永

もっと馬鹿になってもいいと思うんですけどね(笑)

串田

そういうのも聴きたいですよね。
たまには。

松永

僕ここ数年で、
すごく馬鹿な歌詞だなと思ったのは、
上地雄輔さんのミツバチの歌ですね。

串田

あった!
あれはすごかった!
やばい…
あれは時代的にすごいものだった説。

松永

あの何も考えてない感は凄かった。
ブルーハーツを基調としてるのにブルハ特有の焦燥やポエジーはゼロで、ほんとに昆虫的だった(笑)
若旦那さんも悩んでないで、今こそブンシャカブブンブーンですよ!

次回に続きます。

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