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宇宙環境と再生医療講演を聞いて

本講義を聴講し、私は無重力空間における培養実験において細胞の分化が抑制されること、また三次元培養が可能である点が非常に面白いと感じた。
まず、私がこのトピックに興味を持った原因は私自身が大学で再生医療等を勉強していることにある。
私は、再生医学・再生医療は幹細胞生物学と組織工学により支えられていると認識しているが、このトピックはこのどちらにもインパクトを与えそうだと思った。

細胞の分化を抑制したまま培養ができるか?

初めに、微小重力環境下において、細胞の分化抑制をしたまま培養が可能であるという技術について述べる。
講義では、この技術の応用例として、頭蓋骨由来間葉系幹細胞の培養によって開頭外減圧手術後に頭蓋骨を提供し、脳梗塞手術後の完治を可能にすることが紹介されていた。私はこのような模擬微小重力環境下の分化抑制培養の技術応用は、将来的には例えば造血幹細胞ががん化する急性リンパ性白血病のような病気の根本治療をより多くの人に、また再現性のある手法で提供することができるようになるのではないかと思い大変興味深かった。さらにこのような環境下での培養は未分化維持に必須の薬物やサイトカイン等を利用しなくても良い、そして大量培養可能であるという点も再生医療を推進しそうな技術であると感じた。
まず、大量培養に関してであるが、手術や培養過程においてミスが生じても予備があるという状況を作り出すことができるため実用性が高いと感じた。また、工業的に生産し、広く患者に安価に供給するという観点においては大量に生産かどうかという視点は欠かせないと思った。
さらに、培地に特殊な薬物、サイトカインを含ませなくて良いという点は応用の幅を広げると感じた。例えば、応用する際の特性として培養する細胞を変化させる場合や異なる形状で培養したい場合には培地に含ませる薬剤を変化させる必要性が生じるが、その際に模擬微小重力下で培養すると、薬物同士の相互作用を考える必要がなくなる。
加えて、例えば培養の途中で重力を適当に変化させることは細胞の分化の方向性などにどのような影響を与えるのだろうかという疑問が湧いた。

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細胞の三次元的培養とその応用

次に細胞の三次元培養が可能であるという内容については、現在組織工学において問題となっている、細胞シート技術の活用におけるボトルネックを別視点から解消するアイデアになるのではないかと感じた。現在地球上でも三次元培養そのものは可能であるが、一方で立体化した細胞塊内部でどのように血管構造を構築するのかについては議論が交わされている印象がある。無重力空間においては、上下の区別がない分、機能的に偏りのない細胞塊を三次元的に形成するのに非常に向いていると思う。また、温度応答性培養皿を用いた細胞シート工学とは違った視点から、血管構造構築という問題を解消しそうだとも感じた。また、ファンタジーかもしれないが、意図的に機能を偏らせたい際に、重力の掛け方を変化せることによりその偏りを実現できればより一層利便性が高い医療を提供できそうではないかと感じた。

感想

最後に、本論から少し外れるかもしれないが、私はこの講義から無重力空間における初期発生について興味を持った。
私は、受精卵の発生段階においては、1つの卵の中に存在する様々な化学物質の濃度勾配が器官形成に大きな影響を与えることを分子細胞生物学の授業で学習した。しかし、無重力空間においてはこの濃度勾配が崩れるのではないかと思い、そのような状況で正常な発生が起こりうるのだろうかと疑問に思う。
その一方で、無重力空間において分化が抑制されうる現象は何かこれと関連しうるのだろうかとも思った。疑問に思ったため調べたところ、カエルにおいては発生が正常に進むが、ニワトリにおいては初期胚の生存率が低く、正常に発生しないことが分かった[1]。この結果は非常に興味深いし、もう少し詳しく調べたいと感じた。発生段階だけでなく、細胞内の濃度勾配がその細胞の機能を決定付けるようなフェーズ、例えばあるシグナルの伝達などにおいて、無重力であるということがどの程度分子細胞学的に影響を及ぼすのか知りたいと感じた。講義冒頭で宇宙適応症候群(Space Adaption Syndrome)について生理学的観点から紹介があったが、分子レベルでそれがどのような動態を示しているのだろうと思った。

参考文献

[1] 宇宙航空研究開発機構, 「宇宙の不思議」, 2000  Accessed. 2021-05-21 21:32

記事執筆:早稲田大学 先進理工学部生命医科学科  青木 志穂

グラレコ_0515_宮西

グラレコ作成:京都府立医科大学 医学部医学科  宮西 真希


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