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【私のアウトドア履歴書♯7】松岡 剛志さん(株式会社レクター代表、一般社団法人日本CTO協会代表理事)

スペースキーの小野(@tsugumi_o_camp)です。今回のアウトドア履歴書は、株式会社レクター代表、一般社団法人日本CTO協会代表理事の松岡剛志さんにインタビューしました!スタートアップのCTOを歴任し、業界のテクノロジーを牽引する松岡さんが熱中するアウトドアの魅力と課題について、熱く語っていただきました。


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松岡 剛志さん(@matsutakegohan1)
ヤフー株式会社の新卒第一期生エンジニアとして複数プロダクトやセキュリティに関わる。その後、株式会社ミクシィで複数のプロダクトを作成の後、取締役CTO兼人事部長へ。B2Bスタートアップ1社を経て、技術と経営の課題解決を行う株式会社レクターをCTO経験者4名で設立し、代表取締役に就任。2018年、株式会社うるる 社外取締役に就任。2019年9月より「日本を世界最高水準の技術力国家にする」ことを目標とした一般社団法人日本 CTO協会を設立し、代表理事を務める。


松岡さんにとっての、アウトドアの魅力とは


-本日はよろしくお願いいたします!早速ですが、原体験から聞かせてください。

幼少期は兵庫県芦屋市の山の近くに住んでいました。関西出身の方ならわかると思うのですが、芦屋って山と海がどちらも近いエリアなのです。自然豊かな土地で、それこそイノシシがたびたび小学校の校庭に現れるような環境でした。山が子どもたちの遊び場であり、野生動物は友達のような感覚でした。(うり坊と遊んでいて、親イノシシに追いかけられた体験は、今ではいい思い出です……。)

海も近かったので、小学校低学年くらいから釣りを始めた記憶があります。父に連れて行ってもらって、それが釣りの原体験です。

-生活の中に自然があると、始めやすいですよね。釣りはどのようなジャンルをされるのですか?

かなりの種類の釣りをやってきたのですが、今ハマっているのは雷魚です。雷魚は独自の文化があり取っつきづらい釣りなのですが、青森にお住まいの柏崎さんという師匠に出会いまして、勉強させていただいてます。あとはフライフィッシングで渓流釣りだったり、チヌ(クロダイ)もやります。少し前までは、イカ釣りにもハマっていました。今でも誘われればどんな釣りでもやるのですが、さまざまなジャンルが存在する釣りにおいて、ある程度のレベルに達するには選択と集中が必要だと考えます。

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雷魚

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フライフィッシング(アメマス)

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種子島のアオリイカ

-幅広い!釣りにハマったきっかけは何だったのでしょう?

大きなブームが2回あって、1回目のヤマは始めた直後の子どもの頃。単純に釣れたので楽しかったです。同じくらいに、釣り場で繰り広げられる社交術も勉強になりました。親よりももっと年上の人たちもいて、その人たちとのコミュニケーション自体が新鮮だったし、釣れない人が取る巧みな交渉とか。「世の中ってこうやってできているのか!」と子どもなりに衝撃を受けたのを覚えています(笑)。

-巧みな交渉術は、釣り人なら共感するところですかね(笑)。

それから大学進学をきっかけに千葉へ引っ越して、学業などでしばらく釣りとは遠ざかっていました。大学では建築を専攻していたのですが、徹夜もざらにあるくらい忙しくて。多忙でストレスがたまっていたある時、家の近くにある海に目が留まったのです。家から5分のところに海があったことにいまさら気が付き、久しぶりにやってみようかと。そしたら全然釣れない、いろいろな本を読み、ポイントを探し、時間を変え、半年かけて30センチ程度のシーバスを釣り上げました。そこからが2度目のヤマ。シーバス釣りにハマり、現在に至っています。

-また大人になって、楽しさが変化したのでしょうね。松岡さんにとって、釣りの楽しさとは何ですか?

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可能性を組み合わせていき、答えを求めようとするプロセスそのものです。自然のことは我々には最後までわかりません。不確実性そのものである釣りの中で、再現性をどうやって高めていくか?答えがない問題の答え合わせをしているような感覚がなんとも楽しいです。

魚は自らの生存のために、かなり合理的な行動を取るのではないかと私は考えています。何かを捕食している魚を釣るのであれば、水温や塩分、地形、風向き、風量……、様々な要素の重ね合わせで、魚にとって捕食のしやすいベストであろう場所を想像し、そこに仕掛けを流し込む。その流しで釣れなければ、自身の仮説に問題があるわけですから、それならば次はこの仮設で、というプロセスが非常に楽しいです。さらにその結果、魚が釣れてくれればこれ以上の快感はありません。

ただどこまで行っても、すべての変数を理解できるはずもないので、完全に理解したと思った釣りでボウズを食らったりする。本当に知的なゲームですね。知恵の輪をずっと解いているような、そんなところが釣りのおもしろさだと感じています。

-知恵の輪ってすごくイメージしやすいです!

もちろん、瞬間的なおもしろさもあります。狙ったところにうまく投げられたときとか、「やった!」ってなりますよね。あの感覚はブラインドタッチ習得と似ているのかもしれません。合わせを入れる瞬間や、その後の強い引きがなど瞬間的なおもしろさもありますが、私は条件の重ね合わせの中から最適解を探す部分がとにかく好きです。自分の知恵の中で、仮定を導き出して最善のアクションを取る。その読み通り、魚が釣れたときの達成感は何とも言えないです。

-なるほど!松岡さんは狩猟もされるとのことですが、狩猟の魅力についてはいかがですか?

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狩猟は7年ほどやっていますが、楽しさでいうと釣り以上かもしれません。たとえばカモを狙う場合の話ですと、

①池の形や木の茂り具合、道路の入り方などからカモがよくいる場所を絞る(だいたい固定化されます。)
②近くの構造物やバックストップ等の条件から、どの角度なら安全に合法に銃を打つことができるのか考える。
③そのコースにどのようにしてカモを飛ばすのかということを考える。

このような感じで、ロジカルに考えてアプローチするのです。あらゆる仮説を検証して、最善のアクションを導き出すのがこれもまた楽しいです!

技術としての射撃も非常に学びが多いです。散弾銃は音速よりやや早い速度で発射され、30-40m先の時速60km程度で飛行するカモに向かって飛びますが、カモそのものに狙いをつけて射撃すると、40m先に弾が到達するまでに0.1秒かかり、カモは1.6m程度前に進んでしまいます。この対策として、使っている弾の弾速、カモの飛行速度、お互いの距離を考えてカモの未来の位置を予測して射撃する必要があります。それが上手になるには反復練習が必要で、やればやるほど自分がうまくなっていく様はとても刺激的です。

-狩猟を始めたきっかけは何だったんですか?

釣り仲間でもあり偉大な先輩でもある川邊健太郎さん(ヤフー株式会社 代表取締役社長)に誘われてです。私が新卒でヤフー株式会社に入ったときから仲良くさせてもらっていて、いつの頃からか釣りにも一緒に行くようになりました。そんなある日、川邊さんが私にこんなことを言ってきたのです。

「松岡、日本の海洋資源はどんどん枯渇している。ところが、野生鳥獣はどうだ。むしろ増えているではないか。成長路線の市場を狙うのが筋なのではないか。」

-成長市場を狙うっていうのがおもしろい(笑)。

川邊さんはストーリーテリングが本当に上手だと、いつも勉強させていただいてます。このプレゼンをされて「やってみようかなー」という気になってしまいました。正直、当時は狩猟を野蛮な遊びだと考えていたところもあって……。こんなきっかけがないと、絶対にやらないだろうなと思ったのも理由です。

-狩猟も釣りも、不確実性の中から解を探す“知恵の輪”的な、無限のおもしろさがあるということですね。わかる気がします!


松岡さんとギアの話


-では次に、お気に入りのギアについて聞かせてください。

たくさんあって、1つに絞るのが難しかったです……。いろいろ悩みましたが、この「Monster Kiss社のMX-6+」のロッドを推します!ロッドは40本程度持っていて、おすすめが10本くらいある中の一押しになります。

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このロッドの一番良いところは、私の知るパックロッド(4つ以上に分解でき、バックパックの中などにしまうことができるような釣り竿)の中で、最も投げて気持ちが良い点にあります。20g前後のルアーについて、非常に容易に飛距離を稼ぐことができる、特にシマノのメタニウムとの相性が最高なので試していただきたい。それでいて強さもあり5〜10kgの魚と普通にやり取りできる点が素晴らしいです。

単純な竿としての性能を考えたとき、構造上分解できない、若しくは分解する箇所が少ない竿のほうが、より性能の良い竿として作ることが容易です。それではなぜパックロッドを挙げたのかというと、遠征において最大の恐怖は釣り場にたどり着けないことであり、その次の恐怖がギアの欠損により釣りができないことです。つまりそれは航空機におけるロストバゲージや預け荷物の破損のこと。どんなに性能のよい釣り竿でも、手元になかったり壊れてしまったらどうにもならない。私はもともとソフトウェアエンジニアですので、不確実性の高いものから問題解決したい。ですから私が所有する釣竿は、一部を除き全てがパックロッドです。

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(海外釣行記)コロンビアでのピーコックバス

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(海外釣行記)ピラルクにこれから逃げられるという瞬間

-海外釣行経験者ならではの視点ですね!

従来のパックロッドには見ることの少ない、イノベーティブな仕掛けも多くあります。たとえばMonster Kissからは複数の機種が出ていますが、ブランク(竿の芯になる部分)の太さが違っても、繋ぎ合わせる穴の部分はサイズを統一しているので、他の機種とグリップを入れ替えることができる。つまり互換性があるんです。

これを利用することでグリップの長さを変更することができるため、ジギングの竿として使うことも可能。また、グリップ前方はひっくり返して使うことができるので、スピニングリールをつけて遊ぶこともできます。これによって非常に多くの場面、多くの魚種に対して利用可能であり、「もしなにか竿を1本だけ持っていくとしたら」と聞かれたときの有力な答えになります。

-「Monster Kiss」あまり聞いたことないですね……。

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インディーズブランドで、怪魚ハンターとしても有名な小塚拓矢さんのブランドです。彼の釣りマニアとしてのプライドが詰め込まれたブランドなので、非常に強いこだわりが感じられます。特徴はパックロッドとして最高峰のキャスタビリティと、強さ、軽さ、感度、操作性の融合。彼の作ったロッドは何本か持っていますが、特にこれが気に入っています。『TSURI HACK』でもぜひ紹介してほしいですね!

-釣りのインディーズブランドも応援したいです。ありがとうございます!


※惜しくも取材に持っていけなかった推しギアはこちら!

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タックルハウス FEED.ポッパー 100
人生で最も多くの場所で投げたルアーはと聞かれたら、このルアーのように思います。このルアーはとにかく飛ぶ。私はキャストが下手で筋力もないので、様々なものの選定基準は飛距離です。汎用性も高く、ありとあらゆるトップウォーターで釣れる魚に対して、最初に投げ続けている気がします。


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Beretta A400 unico 12番
狩猟を始めた時に最初に購入した散弾銃です。非常に軽く、反動を抑えた仕組みが特徴です。中間照星を打って、狙いやすいようにしています。カモは目がよく、自然界にない黒く光るものがあると逃げやすいと言われており、Gun Wrapを使って銃身などをカモフラージュしています。


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Edgun Matador R3M 5.5mm
ロシアのエアライフルです。ブルパップタイプのエアライフルの走りなのではないでしょうか。非常に精度が高く、取り回しがよく、このタイプの中で最も軽量です。何よりかっこいい。最新型のR5Mも検討しましたが、デザインで旧型を購入してしまいました。


アウトドアから受けた影響


-釣りや狩猟は、松岡さんにどのような影響がありますか?

仕事仲間と行く釣りや狩猟は、お互いをより深く知ることができるということがとても大きいと考えています。釣り場に立てば、役職や立場は関係なくなります。フラットな立場で一緒に好きなことを楽しめる。そのなかでいろいろな人が大事にしていることが見えてくる。この人はすごく結果にこだわるし、この人はすごくプロセスにこだわる、この人はすごく大胆で、この人はすごく用意周到。結果として「仕事上の付き合いの誰か」という疎な関係から、「個別化された人格同士の付き合い」になり理解が深まることはとてもいいことだと捉えています。

また仕事上でも例えば誰か(上司や部下とか)に何かを求めてしまうとき、反省しやすくなったように思います。20年釣りをやったところで、毎回狙い通りの魚が釣れるわけではありません。自分では計り知れない事情や条件が重なって、物事は動いている。魚に対してでさえ思い通りにはいかないのに、知的生物である人間に対してすべてがうまくいく保障はないですよね。釣りをしていると、自然とそういう脳のトレーニングができているように思います。だから、相手に対して自分が反省しやすいというか、立ち返りしやすい思考になれるような良い影響を受けています。

-上司はみんな釣りをするべきかも(笑)。

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他はなにかあるかなー。悪影響のほうが多いかもしれないです(笑)。仕事をしていても、釣りに関して「この仮説を検証したい」と考えたら集中できなくなります。もうそわそわしちゃって、「今から行きたいー(泣)」って。冷静になれない自分と戦っています。

-意外です!(松岡さん=クールで冷静なイメージ)

最近いい方法を見つけました。釣りのポイントに隣接している、ホテル兼コワーキングスペースを近郊で見つけたんです。時合(じあい※魚が釣れる時間帯のこと)は灼熱の中で釣りをして、その前後はクーラーとネット完備のコワーキングスペースで仕事をする。これは最高です。

-そういう施設も増えてきましたよね。仕事面でもいろいろな影響があるようですが、私生活ではどうですか?

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釣りは物心つく前からやっていたので、釣りのある生活がスタンダード。釣りがない生活の方がいろいろな悪影響がでてきそうです。私は釣りをしたい時に釣りができる事が大事だということを家族もよく理解してくれていて、その時間を持つことを尊重してくれています。そこへの感謝の気持ちは絶対忘れないように心掛けています!

あとは、私生活においても期待値調整というか、勝てる構造をつくっておくことが重要であり大事だなと。ミクシィ退任後は1年間バックパッカーとして世界中を回っていたのですが、それには妻も同行しました。義両親ももちろん知っているので、「私=釣りとか冒険をする人」というアンカリングができたのでしょう。今では妻の実家に行った際にも義両親から「釣りに行かなくていいの?釣り場のおすすめ地元の人に聞く?」と気を遣ってもらえるほどになりました。私という夫への期待値が低いとも言えるかもしれませんが、ありがたいことです。

-それはたしかに重要!

もう一方でこちらは真面目な話なんですが、私は生き物を殺すのが嫌いです。血を見るのもすごく苦手で、それなのになぜ釣りや狩猟をしているのか、我ながら不思議なところです。(だから"それでもやってしまう"んでしょう。)ですから釣りは基本、キャッチアンドリリースを好みます。ただ、狩猟ってほぼほぼ死んでしまう。一番つらいのが、締めなくてはいけないときです。

半矢というのですが、鉄砲の弾の当たりどころが悪く、即死させられなかった鳥がいたとします。こういう鳥はとどめを刺す必要がありますが、鉄砲等が使えるわけではなく、自分の手で締める必要があります。暖かく手の中で生きている鳥獣の鼓動がやがて止まり、冷たい死体になります。そして、羽毛をむしっていくと、ある時からそれは死体から肉になる。その生命の変化を目の当たりにすることで、命に対する向き合い方が変わりました。言葉には言い表せない、とても大事な倫理観を彼らからもらいました。

-釣りも狩猟も、生き物を相手にしていますからね。

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本当にそうです。繰り返しになってしまうのですが、私は血を見るのが極めて苦手です。誤って釣り針が自分の指に刺さり、出た血を見るだけで貧血になるくらいです。ですから妻の出産の際も、立ち会いは絶対に無理だと考えていました。でもその時に、狩猟でのこれまでの鳥獣たちを思い出したのです。狩猟とはいえ彼らの命をいただき続けている以上、生まれてくる命にも向き合わないといけないような気がしました。立ち会いでは予想通り一瞬で貧血を起こしたのですが、それでも向き合う責任が私にはあったんだと。狩猟を通じて、命に対してより強い責任を感じるようになりました。うまく言えないんですが、優しくなったというか、大事にできるようになったという感じです。

-こういう感情って、直に体感することで心に刻まれるものだと思います。すごく貴重な体験をされたんですね。こちらも勉強になります。


松岡さんがアウトドアに思うこと


-アウトドア業界に対して思うことはありますか?

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民主化・大衆化の流れがきたなという印象ですが、この動きは歓迎すべきことだと考えます。アウトドアの歴史で見ると、1970年頃の登山ブームに始まり(この時はかなり先鋭的)、2000年頃は百名山ブーム、2010年頃の山ガールからすると、だいぶ条件や環境が整ってきたのではないでしょうか。

ギアが安くなったのは大きいと思います。安価で必要十分な製品を、いろいろな人が手に取れるようになったことはいい傾向だと捉えています。また、釣り船では女性用の更衣室が完備されていたり、釣った魚をその場で食べられるパッケージプランがあったりと、多様なユーザーが楽しめるサービスへの対応が進んでいる印象があります。そういった対応の成果なのか、減少の一途をたどっていた釣り人口は横ばい、一部では回復基調にあると言われているそうで、それも素晴らしいなと。

このトレンドは今後も続いていくだろうと思う一方で、この状況が続いた時に予想されるのは「事故の増加」です。カジュアルに始めた人たちが深みに進んでいく上で、ステップの幅がまだ急だなと。そこをケアする何かがあればいいなと感じます。

-たしかに。業界がまだ対応できていない部分も大きいですね。

スマホで登山計画の作成・登山届の提出(※一部の自治体のみ)ができる『YAMAP』や、海難事故の際に数秒で救助を要請できるシステム『Yobimori(ヨビモリ)』なども登場してきているので、こういった部分をもっと整備していく必要があるかと。こういう仕組みとセットで、“アウトドア版カスタマージャーニー”を埋めていくような取り組みがあったらいいなと感じています。

-ふむふむ。

このコロナ時代では、救助者が“コロナかもしれない問題”も発生しています。そうなると、いつも以上にリスクを抑えてアウトドアを楽しむ動きがより高まるかもしれません。リスクを抑え事故率を低下させることが、これからの時代に重要になっていくのだと。これには個人のモラルの問題をはじめ、ギアの問題、IT活用、環境意識など様々な要件が絡んできますが、どのようなレイヤーにおいても必要になってくる考えだと思われます。

-モラルや環境意識を伝えるのは、メディアでも苦労しています。

業界の変化に合わせて、組み込んでしまうのもアリかもしれないです。釣具店などはECによって小売機能は失われつつあるので、いっそのことガイド業やサロンのような役割にチェンジしてしまうのも一手。そういった価値の変化の中に、安全に対する仕組みを組み込んでいくとか。

-釣具店が釣りのマナーをおしえる場になるというのはおもしろいですね!

アウトドア業界がこうなったらいいなという理想像はありますか?

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“サステナブル”であること、これに尽きるかと。日本は海洋資源が豊富な国ですが、海洋資源が減っている現状がある。それはデータでも証明されていますし、いち釣り人として、感覚値としても感じています。結果として世界の漁業と比較したとき、日本は一人負けと言われています。渓流などの陸は状況がもっと深刻で、きちんと管理して保護するフェーズに来ているのだと強く感じています。

漁業においては、日本はオリンピック方式と呼ばれる資源管理方式が主流です。これは漁獲可能量を規制するものですが、可能枠に対して早い者勝ちになるため乱獲につながると指摘されています。資源を維持しながら漁獲するには、ノルウェーなどの漁業先進国で主流となっているIQ方式(魚種ごとの漁獲可能量に対して個別の漁業者に割り当てる方式)をもっと取り入れるほうがいいのではと思います。この方式の方が、漁業者もサイズや状態の良い魚を高く売るために努力をするなどメリットも多くあります。日本は漁具や漁期の規制が一般的で、漁獲量で管理されている魚種自体は少ないですが、これからは漁獲量を管理していく動きがもっと加速してほしいです。

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趣味としての釣りにおいてはキャッチアンドリリース区域を増やすなどして、魚を保護する努力をするべきだと考えます。遊漁者による漁獲圧は黙認できないところに来ているような気がします。一方で、食文化として地域の魚を必要としている人たちもいるので、その場合は管理釣り場にするとか。釣って食べることを楽しみたい人は、資源量が多い魚種に限定したり、狩猟と同様にライセンスと定数を設けるとか。目的に合わせてバランスよくやっていくことが必要だと考えます。そんなサステナブルな世界が理想とする姿なのではと思います。

狩猟においては、まず状況の把握のやりきりが大事だと考えています。様々な鳥獣について、1日の定数が定まっていることで乱獲を防いでいるのは素晴らしいことです。ではその数字は適切なのか?漁業と異なり職業猟師は非常に数が少ないです。このためB(職業猟師や関係事業者)だけではなくC(ライセンスを持った趣味の狩猟者たち)からの情報収集とそれに基づく資源量の推測が重要だと考えるのですが、このプロセスは非常にアナログでどれだけ正確なデータが取れているかは難しいところです。狩猟はよりDXされて、より正確な資源量と定数管理が行われることを望みます。

-すごい、問題意識への目線が高い!

日本は魚種が多い国でもあります。また、国土の7割が森と言われているだけあって、渓流のポテンシャルも高い。観光文脈としての釣りの可能性も十分あるかと思います。国内外の交流を増やして業界を盛り上げていき、その文脈の中にサステナブルな世界観を意識していくことが重要なんだろうなと思います。

-そのような中でスペースキーに期待することはありますか?

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安全や環境意識への課題について話しましたが、それが自然と身に付くキャンプ場とかあったらいいのかもしれないですね。スペースキーさんがそういうキャンプ場を運営するとかどうでしょうか?「サステナブル」と言われても、なかなか自分事化しにくい概念なので、それが遊びながら学べれば一石二鳥かと。

ゴルフは紳士のスポーツと言われますが、アウトドアもそうではないですか?フィールドでは誰も見ていないという状況の中で、ごみの捨て方から遊び方など、1つ1つにどうあるべきかが求められているなと。そういう意識やふるまい方が、環境資源の保護などにつながってくる。そのリテラシーをどう身に付けるかが大事です。


松岡さんとアウトドアの、今後の目標


-今後、アウトドアに関して目標としていることはありますか?

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狩猟に関しては、もっとレベルアップしたいです。狩猟は1日に狩っていい数が定数として決まっていて、私が主にやっているカモ類だと1日5羽までとなっています。カモの中でも特にマガモは難易度が高いのです。美味しいのでみんなが狙うという競争率の高さと、それゆえのマガモ自身の警戒心の強さが理由となっています。これまでに種類を選ばなければカモで定数達成はあるのですが、マガモだけで定数達成はまだなので、ここを目指してみたいなと。

そのためにどういう土地でどのような戦略を立てて達成するか、真剣に取り組んでいるところです。目標があると張り合いが合って楽しいです!どういう場所にどういう鳥がいて、どのように逃げるはずだから、このように配置するなど、戦略・戦術を練るのはもちろん、自身のスキル向上としてベレッタ社のコーチライセンスをお持ちの方に依頼して、クレー射撃の練習に通ったりと、目標から逆算してタスクをつぶしていくのが楽しいと感じています。

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釣りに関しては、実はあまり目的をもってやっていないのです。やっていることが普通であって、それ以上でも以下でもない。強いて言うなら、ずっと釣りを続けられるような状態を保ちたいということでしょうか。この先、何があるか誰もわからないですから。どんな状況になっても、問題をクリアして行ける構造を作って、釣りが続けられるようにしたいです。それには日頃の努力と期待値調整が重要!前述しましたが、何事においても勝てる構造を作っておくことは大事だと思います。

-家族に「釣りに行かなくていいの?」と言ってもらえる状況は、松岡さんの努力の賜物ですね!ちなみに、ビジネス×アウトドアでやってみたいことはありますか?

・ナノフリークス(先ほどの『Yobimori』を開発している企業)

・UMITRON

私は上記の企業にエンジェル投資しているのですが(事業についてはHPを参照ください)、やってみて思うのは、いつか天然の魚を食べることが野蛮だという時代が来るんだろうなということです。かつての日本もそうでしたが、今や牛や豚、鶏は管理される食材となった。魚もいずれそうなるだろうなと思うんです。そういった部分に挿し込めるビジネスに積極的に関与していきたいです。

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狩猟にしてみても、日本は人口が減ってきて、地方の山林が荒れているという現状があります。山林が荒れると災害も増えるだろうし、鳥獣害被害も増えるでしょう。仮に今後、国がこういった課題に何らかのアプローチをしたときに、技術的なアプローチで協力するとか、何か一緒にできたらいいなと考えています。

-そういうことをやってみたいという人が増えるのも大事ですし。業界の先を見据えたお話が大変参考になりました。ありがとうございました!


■ おまけ画像 ■

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ちびカンパチ。釣りはもちろん大好きですが、

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たけのこも堀ります。

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夏みかんの収穫もします。


■ 編集後記 ■

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♯6の高宮さんからのご紹介でインタビューを快諾いただいた松岡さん。「CTO協会の代表理事」の経歴からどんな方なんだろうとドキドキしてしましたが、とても気さくでユーモアなお人柄にすっかり惹き込まれてしまいました。

高宮さんが師匠と仰ぐ松岡さんの釣りへの熱量は相当なもので、ロジカルに「知恵の輪を解き続けるように」遊ぶ。それは狩猟も同じであり、自然の中で遊ぶことが、不確実で無限の可能性があることを証明してくれました。

一方で、熱量高くのめり込んで楽しんでいるからこそ、見えてしまうのが資源保護や安全への意識。長く楽しむために業界の未来をも見据えるその視線に、多くのことを学ばせていただいた取材でもありました。