ペットロスに伴うグリーフへ備える(追記)
車で5時間の距離の実家@田舎で、2匹の犬(わんこ)を飼っています。ヨークシャーテリアのくりんは高校2年生のときに我が家へ来ました。その3年後に来たダックスフントのかりんは、私と入れ違いで実家へ。くりんはもうすぐ16歳(H20年7月生まれ)、かりんは13歳(H23年3月生まれ)になるところで、人間にしてみれば60~70代くらいでシニアに相当し、そろそろ小型犬の平均寿命です。ただ現在までありがたいことに2匹とも大きな病気や怪我もなく元気に過ごしています。
2匹が生きている時間のほとんどを一緒に暮らせていませんが、このあと高い確率で自分より早く逝ってしまう犬たちのことを考えると、最近無性にさみしくなっています。まだ元気で何も起きていないのに、何故かもう悲しい自分の気持ちに対処したいと思っていました。
ペットロスに伴うグリーフ
ペットの喪失が飼い主に強い悲嘆をもたらす「ペットロス症候群」は日本独自の言葉であるようで、諸外国ではペットロスに伴う悲嘆(グリーフ)や死別反応と捉えられているそうです(木村, 2009)。つまり、大事な人や物を喪失したときに人々に見られる「悲嘆反応/グリーフ」は、ペットを亡くしたあとも同様にみられる自然な反応ということです。
一方で、ペットの死によるグリーフは社会的には「公認されないグリーフ」のひとつにも挙げられています。例えば、ペットの死後に仕事や学校を休んだりする仕組みが普及しているわけではなく、ペットを亡くした飼い主は周囲の人に言いにくい状況があります。
この気持ちに向き合うことにする
愛犬たちの高齢化に悲しんでいたところ、たまたま本屋で見つけたこちら『ペットロス いつか来る「その日」のために』(伊藤秀倫/文春新書)』を読みました。ペットの死を経験した作者が、同じくペットの死を経験した人にアンケートをとったり、ペットの死に関わる仕事をしている人に取材をしたりして、人々がどのようにペットとの死別とそれに伴うグリーフを経験しているのか、とても分かりやすく綴られています。
この本を読みながら愛犬の死後を想像してしまい、途中号泣してしまいました。これは重症だと思い、犬の研究をしている同僚に話を聞いてもらったり急いで実家に帰って犬に会ったりしてきたのですが、仮にも心理学者、己の体験を綴って客観化しながら心を整理しようと考えました。
自分の気持ちを記述しよう
私が犬たちに抱いてる気持ちのつぶやきを列挙してみます。
一生生きててくれ(以前から思っていた)
ずっと一緒にいたい
なんなら犬より先に逝きたい
苦しんでほしくない
いなくなったら(自分は)どうなってしまうんだろう
先にいなくなるのはわかってる
もっと一緒に過ごしたかった
綴ってるだけで泣けてきます。
この状態に名前をつけよう
私の今抱えている気持ちや考え、状態に名前をつけることは、今のあるがままを受け止め対処するのに大切です。綴ってみた気持ちを心理学的にみると、認知的には犬との死別があることを分かっていながら、それでもいつか犬たちが死ぬことを心情的に認められない「否認」や、犬との分離不安、死別後の未来への不安、犬を喪うことへの悲しみ、などがあることが分かります。このような気持ちを抱く状態を表す言葉はあるのでしょうか。
候補1:予期悲嘆/予期グリーフ
小林・中谷・森山(2012)によれば、予期悲嘆とは「死別の前に現れる潜在的な死への悲嘆反応」(Lindemann, 1944)のことをいいます。主に、闘病中など「失いつつある」状況で生まれるものと考えられており、がん患者さんのご家族や介護中のご家族、支援者などを対象に研究されています。
小林ら(2012)は在宅で終末期を迎える人を介護する家族の予期悲嘆尺度を開発しました。訪問看護ステーションを利用している家族から有効回答を得て、4つの因子(お別れ準備へのスピリチュアルペイン・身体と生活の疲労感度・死別への先行不安・消耗状態)を見出しています。
これをそのままペットロスに適用するのは無理があるのを承知の上ですが、適用して考えると、私は部分的な予期悲嘆、特に「死別への先行不安」を強く抱えている状態と考えられそうです。
候補2:死別への先行不安
小林・森山(2010)がインタビューによって明らかにした家族の予期悲嘆の構成要素のうち、「死別への先行不安」は狭義の予期悲嘆とされ、「死を想定して喪失感を抱く心理的反応として予期悲嘆を最も表している」と述べられています。この下位要素には①分離不安による抑うつ、②直面する看取りへの先行不安(※在宅で看取るため、目の前の経過を見守るとともにこれから先に起こることが常に気になる)、③泣く行為に現れる悲しみ、の3つが名づけられています。
質的研究によって明らかにされている家族の構成要素ですが、私の心の状態を表すのに、とてもフィットしているように感じました。まさに私は分離不安があり、今後家で犬たちがどうなっていくのか不安で、今から悲しんでいるのです。
文献を探してみよう
「ペット 予期悲嘆」等のキーワードで検索してもそれらしい論文をうまく発見できませんでしたので、"pet anticipatory grief"や"anticipated bereavement pet"などのキーワードを組み合わせて検索してみました。
Spitznagel MB, Anderson JR, Marchitelli B, Sislak MD, Bibbo J, Carlson MD. Owner quality of life, caregiver burden and anticipatory grief: How they differ, why it matters. Vet Rec. 2021 May;188(9):e74. doi: 10.1002/vetr.74.
こちら、高齢または重病のペットの飼い主に介護負担、予期悲嘆、QOLを調べた調査でした。ペットの「予期悲嘆」を問う質問項目がありそうなので、取り寄せ中です。
(追記:2024/4/1)取り寄せた論文を読んでみました。
ペットの予期悲嘆は"Caregiver Grief Scale (CGS)"(Meichsner et al., 2016)という尺度のうちの10項目(Q11のみ除外)で、5件法(1:全くあてはまらない~5:とてもあてはまる)で回答します(50点満点)。
おそらく日本語版がないので、下記に雑多に翻訳した項目を示します。○○はCGSだとshe/heなどとなっていますが、ここでは○○としました。
Spitznagel et al. (2020)の対象者393名の平均点は32±7点ですが、皆さんはいかがでしょうか。私は、より高齢なくりんを当てはめて回答すると、33点とほぼ平均でした。くりんは分かりやすい病気をしていないことや、私が今離れて暮らしていることが点数を少し低めたかと思います。かりんはまだまだ元気なのであまり予期がなく点数はもっと低いです。
Angela Garner. When It's Time to Say Goodbye: Preparing for the Transition of Your Beloved Pet. Findhorn Press. 2021.
こちらは電子書籍です。Amazonの紹介文を訳してみました。
とっても読んでみたいです。
そのほかの文献もこれからゆるゆると探していこうと思います。なにか文献があればお教えください。
予期グリーフを抱えていこう
死別後の悲嘆/グリーフは、なくなったり乗り越えたりするものではなく、抱えていくものであると考えられている昨今、予期悲嘆/グリーフも日々抱えながら過ごしていくものなのでしょう。そして、死別後のグリーフを抱えやすくするためのグリーフワークと同じで、予期悲嘆/グリーフを抱えやすくするための「予期グリーフワーク」(造語)に主体的に取り組んでいくことが重要だという結論に至りました。
海外のサイトを調べてみると、こんなことが書いてありました。少し長いですが引用します。
ということで、私も今後のためのやりたいことリストを考え、予期グリーフと向き合い、抱えていくことにしました。
愛犬のためにしてみたこと
2023年8月~
ドライブに連れていって写真を撮ってもらった
コロナ前のことですが、自分と犬たちが一緒に過ごしている様子をとっておきたく、カメラも犬も好きな後輩に旅行に来てもらったときに、一緒にドライブをして写真を撮ってもらいました。その後、後輩がアルバムを作ってくれて、とても気に入っています。
イラストを描いてもらった
minneを通してイラストレーターさんに犬のイラストを描いてもらいました。黄色い花が好きなので背景に描いてもらいました。激似です!今はPCの壁紙にしていますが、そのうち印刷して飾りたいなと思っています。
見守りカメラを設置した
Amazonで買って実家に送り、設置しました。
両親は共働きであまり家にいないので犬たちは寝てる時間が多いですが、まるまって寝ている姿を見ると愛おしいです。(しかし不安が強いときは、寝ている犬が呼吸をしているのかどうか動きを観察してしまう…)
写真館で記念写真を撮った
自分と2匹で記念写真を撮りに行きました。データを全部買い上げて、気に入ったものはプリントしてもらい、飾れるようにしました。こちらは届くのを待っているところです。
(追記:2023/9/6 写真が届きました!)
長寿ペットフォトコンテストに応募した
くりんに肩の脱臼疑惑があったので動物病院に連れて行った際に、置いてあったリーフレットを発見しました。こんな素敵なコンテストがあるんですね。必ず自分の犬が載ったフォトアルバムがもらえるらしいです。
犬たちと同い年や年上の犬猫の可愛い姿を見て癒されました。
(追記:2023/9/4 掲載してもらえました!)
愛犬のためにこれからやってあげたいこと
2023年8月時点
犬用のおいしいものを食べさせる
いつも人間の食べているものを欲しがる可愛い犬たちですが、犬用のおいしいものを食べさせてあげたいと思っています。ペット用ヤギミルクとか、犬用ケーキとか、何があげられるか考えてみています。
(追記:2024/4/1 ケーキをあげました!)
犬も食べられるケーキの存在を教えてもらって、少し食べさせてみました。食いしん坊のかりんはがっついてくれましたが、歯がほぼないくりんはスポンジが食べられず、クリームだけ。カロリー過多にならないか…。
犬のための旅行にいく
アンジャッシュの児嶋さんが夫婦で愛犬と一緒に旅行に行く動画がありまして、とても癒されるんです。こんなふうに犬と行けるところがあるのかー!と驚きました。
うちの犬たちは車でお出かけのとき何処に連れていかれるのかとても不安そうなので長距離移動はしんどいかと思うのですが、ペットOKの宿で犬たちがのんびりできるなら、連れて行ってあげたいなあと思うんです。
(追記:2024/4/1)犬と旅行に行きました!が…
2匹の面倒を一人で見ることはできかねたため、犬研究者の同僚にお願いして着いてきてもらい(同僚の博士祝いも兼ね)、弾丸で地元に帰って小旅行に行ってきました。
久々の再会に興奮してくれ、同僚にはすぐに慣れた犬たち。
宿はこちら、網走のかがり屋さんです。道東はほとんど宿がないので、一番近かった(車で40分程度)のが決め手です。
宿では、以前のフォトスタジオでの様子から、犬見知りをしていなかったくりんのほうが楽しめると思いきや、かりんの方が部屋の散策やこの状況を楽しんでいるようでした。仕事を一切持ってこなかった甲斐あり、ずっと犬たちを見ていることができました。
ところが、くりんはフォトスタジオの時と様子が異なり「くぅーん」と鳴いていることが多く、散歩に行ってもこの日は寒すぎて震えてしまい、あまり落ち着く時間がありませんでした。夜も鳴くので2時間ほど抱っこしたり撫で続けたりして寝かしつけに苦戦…同僚の持ってきてくれたチュールをあげて、ようやく自分のポジションを見つけて寝てくれました。(その後、何度も起きては犬たちが落ち着いて寝ているか確認…)。
翌日はすぐ帰宅することにし、15時間程度の小旅行は終了。かりんは終始ご機嫌だったので、また一緒に旅行に行けるかもと思いましたが、くりんには自己満足のために可哀そうなことをしてしまったと凹みました。
その1週間後にこちらの絵日記を本屋で見つけ、犬の気持ちが分からないこと、分からないなりに犬のことを考えること、できないことが増えていくという予想の先に犬の成長があるかもしれないこと、等々また色々と考えを巡らせたのでした…。
うちの子グッズをたくさん作る
うちの犬みたいなイラストの描かれたTシャツやバッグは、同僚にいただいたりしていくつか持っています。また、母親に犬のブランケットをあげたことはあるのですが、自分用を持っていません。今は色々作成できるので、何を作るか迷ってしまうのですが、残るものを作りたいですね。
うちの子といえば、海外のこのお店では本物そっくりのぬいぐるみをつくることができ、ペットロスに伴うグリーフをやわらげる活動になってもいるようです。ぬいぐるみをもらった人たちの反応動画が本当に泣けます。
帰省のたびにめいいっぱい可愛がる
ぬいぐるみなどではもう遊びませんが、とにかく撫でられたがったり膝に乗ったりしたがるので、今度帰るときは仕事を持ち帰らずにずっと遊んであげられるようにしたいなあと思っています。
参考にしたいページ
↑この子もヨーキーですね…可愛いですね…。
今後も自分の死別への不安をケアできるものがあれば、やってみたいと思います。
続報が何かあれば追記します。
引用文献
木村祐哉(2009)ペットロスに伴う悲嘆反応とその支援のあり方 心身医学, 49(5), 357-362.
小林 裕美, 森山 美知子(2010)在宅で親や配偶者の看取りを行う介護者の情緒体験と予期悲嘆 日本看護科学会誌, 30(4), 6-16.
小林 裕美, 中谷 隆, 森山 美知子(2012)在宅で終末期を迎える人を介護する家族の予期悲嘆尺度の開発 日本看護科学会誌, 32(4), 41-51.
Lindemann, E. (1944). Symptomatology and management of acute grief. The American Journal of Psychiatry, 101, 141–148. https://doi.org/10.1176/ajp.101.2.141
↑Lindemannは、悲嘆研究のパイオニアです。