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〝旬のホヤ〟が届いた。

石巻・谷川浜から旬のホヤのおいしさとともに、嬉しいニュースが送られてきた。 

文・撮影/長尾謙一 

〈ホヤ冷凍品〉
・ホヤむき身
・ホヤ殻付きむき身
(素材のちから第45号より)

このおいしさをもっとたくさんの人に知って欲しい
見た目から海のパイナップルと呼ばれるホヤ。旬のホヤは身が厚くて、甘み、酸味、塩味、苦み、旨みのバランスがとれていて1年の中で一番おいしい。

生ホヤの出荷に加え、冷凍加工場ができたという朗報

旬のホヤを送ってくれたのは、宮城県石巻市谷川浜のホヤ漁師の渥美貴幸さんだ。渥美さんのホヤの養殖は2011年の東日本大震災の津波で、船や養殖いかだも失いすっかりダメになった。それでも努力して3年後の2014年にはなんとか再開して、頑張っていたところに今回のコロナだ。影響を受けてホヤの出荷量も減り事業も大変だったのではないだろうか。

谷川浜のホヤ漁師、渥美貴幸さん

お礼の電話を入れたら新しいニュースに嬉しくなった。この厳しい環境の中、冷凍加工場をつくったそうだ。そして、生ホヤの販売の他にむき身にした冷凍品の販売をはじめた。

確かに生のホヤはおいしいが、扱う知識と技術が必要なため売り先がある程度限定される。しかし、これをむき身冷凍すれば使い手も広がる。旬につくった商品を1年通して販売できるメリットもある。

水揚げしたホヤはすぐに殻をむき、肝臓と糞を除き真水に3%の塩を加えた人工海水で保存して冷凍する。殻を残してむき身にした商品もあるそうだ。

さて、送ってもらった旬のホヤを食べたいと「ホヤ・フレンチ」を提供している東京・恵比寿の〝ビストロ ダルブル〟に持ち込んだ。

フレンチでホヤメニューの裾野を広げる

「ビストロ ダルブル」
シェフ 無藤 哲弥 さん

ホヤは刺身メニューしか食べたことがない人が多いのではないだろうか。しかも、臭いから嫌いだという人がきっと多いに違いない。しかし、この認識は間違っているとビストロ ダルブルの無藤シェフは言いきる。

「とれたてのホヤには臭みはないし、甘み、酸味、塩味、苦み、旨みすべてにバランスのとれた素晴らしい食材。時間の経過とともに臭いを発するようになりますが、臭みの出ない処理をすれば、水揚げされたばかりのおいしさを楽しめます。ホヤは刺身にしか使えないと思われていますが、もっと違ったおいしい料理ができるということを料理人として発信し続けていれば、気づいてくれる人も増えてくるのではないでしょうか。他の料理人の皆さんもいろいろと料理を考えてくれるようになれば裾野が広がるでしょう。」と期待する。

実際にビストロ ダルブルでは、一度無藤シェフのホヤフレンチを食べるとファンになるお客様が多い。特に女性には人気が高く、ホヤづくしのコースで女子会の予約が何件も入るほどだ。ホヤのメニューも数えきれないほど増えた。

ホヤメニューに限界は見えない

それでは、持ち込んだ新鮮なホヤを調理してもらったのでご紹介したい。まず一品目は〝ホヤの赤ワイン煮〟だ。

ホヤの赤ワイン煮

酒蒸ししたホヤをバターでソテーして、赤ワインと醤油、酒とみりんと砂糖でつくる和食の煮つけのようなソースと、普通にフォン・ド・ヴォーを入れる赤ワインソースの、タイプの違う2つのソースを合わせている。

もともと無藤シェフはホヤを刺身で食べる時には、醤油だけでなく、醤油に煮切った赤ワインを加えて食べるそうだ。赤ワインの渋みとコクが、ホヤの独特の風味をバランスよくマスクしてくれ、絶妙なおいしさが楽しめるのだそうだ。

確かに、シャープなイメージを持つホヤの風味がまろやかになり旨みを引き出している。さらに旬を迎えたホヤの歯ごたえのよさは素晴らしい! この一言に尽きる。ホヤでしか味わえない食感だ。

次は〝ホヤとマンゴーのトロピカルクリーム〟だ。レモングラスと生姜のシロップをつくり、温かいうちにゼラチンを入れて濾し、これを新鮮な生のホヤとマンゴーと一緒にミキサーにかけ、グラスに流して冷やした。

ホヤとマンゴーのトロピカルクリーム

タピオカを加え、さらにパイナップルとバジルの緑のソルベをのせて仕上げた。砂糖を多くするとデザートに、塩味を強くすると前菜になる。ホヤの苦みとマンゴーの甘酸っぱさが絶妙で、この甘いメニューの表現にもホヤしか出せない味と香りがいかされている。ホヤが臭いなら、マンゴーのような味も香りも強い素材とはまったく合わないだろう。

こうして試作していただくと、メニューはどんどん広がり限界は見えない。

旬のホヤのおいしさを試したい

最後はホヤをキッシュにしてもらった。

ホヤとほうれん草のキッシュ

フライパンにバター、ほうれん草、塩、胡椒、ナツメグと少量のニンニクを入れてソテーする。ほうれん草がしんなりしてきたら、そこに酒蒸ししたホヤと煮汁を入れ、さらに生クリームを加え軽く煮詰める。これを小麦粉、卵、牛乳を混ぜておいたものと合わせてアパレイユをつくり、パイ生地に流し込んで焼き上げた。

これもおいしい。〝磯感〟とでもいおうか、凄く海の風味がする。この独特の苦みと香りはホヤにしか出せない。ホヤの味が圧倒的なのは、ほうれん草との相性のよさで、ほうれん草の苦みがホヤの苦みをおいしく増幅させ、ホヤ感を強く出すのだそうだ。パイ生地からのバター風味とも一体感がある。

さらに、ほうれん草はナツメグとニンニクを加えると結構ウニ感が出るという。そのウニ感をホヤに合わせることによってとても食べやすく、ホヤの初心者には絶好のメニューになる。このキッシュは、取材当日のディナーで出すメニューを撮影させていただいた。

無藤シェフがホヤをビストロメニューに出しはじめた5年前と比べると、お客様からの評価に今はかなり手応えを感じるようになったそうだ。

この雑誌は7月の初旬〜中旬には皆さんのお手元に届くので、まだ旬の時期に間に合う。どうぞ、新鮮な生のホヤをお試しいただきたい。さらに、ホヤが一番状態のいい時に水揚げし、丁寧に処理した冷凍品を通年メニューに取り入れてはいかがだろうか。


協力/お問い合わせ:ほやほや学会

(2022年6月30日発行「素材のちから」第45号掲載記事)

※「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

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