極薄スライスの意味。
日本国内で流通されている生ハムをスライスパックした商品の厚みは1枚だいたい0.7mm~0.9mmで、おそらくこの厚みが生ハムのおいしさを楽しむ理想形なのだろう。しかし、これをもっと薄い〝極薄スライス〟にした生ハム、さらにダイスカットした生ハムがある。その商品の意味を探りたい。
文・撮影/長尾謙一
料理/横田渉
FIS 極薄生ハムスライスシリーズ
FIS ダイスカット生ハムシリーズ
(素材のちから第45号より)
加工形態を変えることで生ハムの食感と風味は変わる。今まであるようでなかった生ハムの新たな楽しみ方を見つけたい。
〝極薄〟〝ダイスカット〟という、生ハムの新たな加工コンセプト。
生ハムはスライスする厚みによって食感も風味もメニューも変わる
以前レストランで〝生ハム3種の盛り合わせ〟を頼んだことがある。ハモンセラーノとパルマハム、もう一つはドイツの生ハムだと説明されたと思う。
出てきたメニューを見て、まず生ハムの薄さに驚いた。今までに食べたことがないほど極薄だったのだ。ふんわりとやわらかく、まるで空気を抱くように口の中に入り、すぐに芳醇な香りが立ち上がる。
それぞれの熟成された旨みがしっとりと広がり、3種を比べながら食べると個性の違いが楽しめる。1種類ではこうした楽しみ方はできない。
そのお店ではオリーブオイルを何タイプかチョイスできたため、オリーブオイルの風味の違いと生ハム3種との組み合わせも楽しめた。今となっては、その生ハムが何ミリスライスだったかは知る由もないが、それまで食べたことのある生ハムの中で一番薄かったことは間違いない。
そして、何よりもうれしかったことは、一皿の価格がリーズナブルだったことだ。なるほど、極薄にスライスすれば一枚当たりの重量が減るわけだから価格も下がる。
生ハムのスライスパック商品に極薄タイプがない理由
後日、そのお店のキッチンを拝見する機会があり生ハムをスライスするところを見せていただいたが、極薄にスライスするために高性能のスライサーを使っていた。価格的にもスペース的にもこのスライサーを導入できる店は限られよう。導入しようにも生ハムをスライスするだけに、これだけの大きなコストをかけるのは経営的にバランスも悪い。
それならば、生ハムを極薄にスライスパックした商品を購入すればいいのだが、意外にも極薄商品はあまり見あたらない。一般的な生ハムのスライスパック商品の厚さは0.7mm~0.9mmがほとんどで、需要はこの厚さに集中している。
生ハムの加工には厳格な衛生基準を満たした加工環境が必要で、こうした環境を持つ加工業者は限られているために特注には費用がかかる。さらに加工ロットも大きく、このため市場に並ぶ商品は標準的にならざるを得なかった。
そこで、株式会社FISが加工する「FIS 極薄生ハムスライスシリーズ」と「FIS ダイスカット生ハムシリーズ」をご紹介したい。
FISの生ハム工房では最新の加工マシンを導入し、徹底した衛生管理のもと生ハムのスライスパック品、およびダイス加工品がつくられている。
極薄にスライスされた生ハムは、丁度いい量のためナイフで切ることなく、大きな盤面を一枚そのまま一口で食べる醍醐味が味わえる。肉の食感を感じる大きさにこだわったダイスカットタイプは、噛むたびに熟成した豚の旨みが口いっぱいに広がり、まるでやわらかな熟成肉を食べているようで赤ワインが止まらない。
薄さの限界に挑戦した「FIS 極薄生ハムスライスシリーズ」と、肉々しい食感にこだわった「FIS ダイスカット生ハムシリーズ」は新しいコンセプトの生ハムといえる。さらに世界に名だたる熟成生ハムの名産地、フランス、イタリア、スペイン、3つの国の生ハムを加工。食べ比べることによってそれぞれの特徴が発見できるから、さらに何倍もおいしいのだ。
一皿でフランス産、イタリア産、スペイン産の生ハムを楽しむ贅沢。
フランス産、イタリア産、スペイン産の3つの名産地の生ハムを加工
「FIS 極薄生ハムスライスシリーズ」と「FIS ダイスカット生ハムシリーズ」はフランス、イタリア、スペインの製法、風土、気候によって特徴が違うヨーロッパの生ハムをチョイスできる。
まずは「FIS ジャンボンオーベルニュ スライス 50g」だ。
フランスの〝へそ〟と呼ばれるフランス中南部、オーベルニュ地方の生ハムだ。良質なフランス産の豚もも肉を原料に、塩と特産のニンニクを擦りこむ独自の製法で12か月の熟成期間を経て仕上げられる。ナッツを思わせるような熟成香とほのかなニンニクの風味がこの生ハムならではの味わいだ。
フランス産の生ハムは、もともと生産量が少ないため業務用の150gは、オーベルニュ地方の生ハムの他にサヴォワ地方の生ハムを使い、商品は2本立てで用意されている。1860年までサヴォワはイタリア領だったこともあり、サヴォワ地方の生ハムはイタリアの味を彷彿させる。
2種目の「FIS プロシュートアルティジャーノ スライス 50g」は、パルマ近郊のレジャーノ・デ・バーニ地方の生ハムで、パルマ産プロシュートと同じ製法でつくられるイタリア産プロシュート。
12か月間の熟成期間で味わいのピークを迎えることができるように、原料の厳選と熟練された職人による絶妙な塩漬けの工程を経て生み出される。今はアフリカ豚熱によって輸入は停止しているが、解禁になる日が待ち遠しい。
3種目は「FIS ハモンセラーノ スライス 50g」。
ハモンセラーノは熟成期間の過程で得る複雑な風味と香りが素晴らしく、引き締まった肉質には艶がある。これは製法によるもので、丁寧な塩漬けと熟成期間での温度に特徴があり、約12か月間で仕上げることでセラーノならではの繊細な香りと食感を持つ、旨みのある生ハムができ上がる。
さて、あらためてこうした生ハムの新たな加工コンセプトの意味を考えてみよう。スライスは、1枚当たりがふんわりと軽くなりコストも下がる。さらにキューブカットは、噛むたびに熟成肉のような深い旨みが味わえる。今までとほんの少し違った加工をすることで、生ハムは使いやすくなったと思うが、いかがだろうか。
(2022年6月30日発行「素材のちから」第45号掲載記事)
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