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君が望んだ私の幻影(Images with the light-colored shade)

『師匠』が言っていたのは、業界で死んでいくのは弱い奴、下手を打った奴、ハメられた奴、後は運が無い奴ということだった。

「銃を教えたのは面倒も見れないくらい弱かったからだ、他の事も色々教えたのは下手を打たないようにする為だ……結局全部俺の為さ」

「じゃあ私を抱いたのは何」

「そりゃあアレだ、勢いってか、誘ったのは……ゴハッ、全部お前だったろ」

師匠は途切れ途切れに、血交じりの言葉を吐きだす。少しずつ項垂れながら、まだその目は自分を見ている。

「丁度よかった……今度の仕事で死ぬつもりってのはマジだったんだよ、お前には悪かったけど」

周りには死体。幾つも。人間のも、そうでないのも。形が残っているのも、そうでないのも。生きているのは自分『達』だけ、少なくとも今は。

「お前だって解ってついて来たろ、悪かったついでだ……頼むわ」

「……」

目が滲む。視線が揺らぐ。泣いているのか、私は。師匠の顔が見えない。握った銃が何かに引寄せられて銃口が何かに当たる。

「京華よ……お前は運がいい、俺を捨ててけ。もう俺は必要ない。お前の価値は……お前が決めろ」

引鉄に掛けた指の上から、別の指が触れる。そこから伝わる力はもう、触れている、と感じるほどしかない。

……私は、引鉄を引いた。

私の価値も、意味も、自分で決める。

「待って!」

立ち上って部屋を出ようとした私の手を、彼女が掴んだ。
放してよ、私はもうここにいたくないんだ。私は血と暴力の暗澹の中にも、それ以前の緩やかな思い出の中にも戻れない。実家にだって帰ってない。あんたに会ったのは完全な偶然。知っていたら私はさっさと帰ってた。

「行く当てがないなら……私の所に来てよ、家の部屋開いてるから」

本気にしてんなよさっきの言葉。あんなの社交辞令、酒の勢いだけでしょ。

……なんでそんな目で見てんだよ、そんな顔してんだよお前。昔は私と一緒にいた時、一度もそんな顔見せた事なかったじゃない。

【続く/797文字】