チェンソーマン9巻よみました(ネタバレあり感想)

チェンソーマン9巻を読んで感情が消化し切れないので、ネタバレありで気持ちを吐き出すための文章を書く。

以下、最新刊までのネタバレがあります(単行本派のための本誌の内容については未把握)。



9巻、早川アキもとい、旧早川家(アキの親族)とデンジ、パワーとの新早川家の対比があまりにもきつすぎる。藤本タツキ先生は、かなり映画を意識して各話と単行本として収録する話の区切りを構成してると思うのだけど、今回は一層その色が強かったと思った。

洗濯物で新早川家の日常と家族になったことを表すシーンなんて、73話に向けた負のジェットコースターの頂点、もとい、大嵐の前の静かさという感じで本当にコマ割り含めおしゃれ。

家族というものに対する感情が元は虚無だったデンジ、一度失ったことで0になったアキ、ニャーコだけが唯一の家族だったパワーと、それぞれの抱えるバックグラウンドが異なるものの、3人が一緒に暮らす家族になれたことをあんなに示しておいて(掃除当番表とか、北海道旅行の下りとか)、77話のチャイムチャイムチャイムへの急降下は心臓が痛くなりすぎた。

未来の悪魔が見せた未来に、アキ自身が銃の魔人になるという描写は多分含まれていなかったのだろう。前もって分かっていたら、アキの性格として、そうなったら自死なり、岸辺隊長あたりに自分を殺すことを頼んでいただろうしな。。

一度、自分の家族を銃の悪魔に奪われたアキ本人が、自分の新しい家族を自らが銃の魔人になって壊す(デンジによって強制的に壊させる)展開、あまりにも丁寧に練り込まれた地獄でしかない。さすが、漫画の悪魔、藤本タツキという感じ。

つい、早川家に注目してしまいがちだけれど、天使の悪魔の状況もだいぶしんどかった。

アキとバディを組んでからレゼ編の最後を見るに、天使の悪魔にとってアキは守るべき大切な人物だったのだろうし、アキは姫野先輩含めバディに感情移入というか、相手を大事にするタイプだった。天使の悪魔の推薦状のくだりとか、早川アキという人物の良くも悪くもまともな部分が現れていた。

家族や大事な人という関係性にフォーカスが当てられていた今巻で、銃の悪魔に殺された人々の名前がニューステロップのように表示される演出もゾッとするほど(悪い言い方かもしれないが、)すごいなと思った。

あの個人名の表示、よく見ると同じ苗字の人が連続して並んでいたりして、ひょっとしたらこの人たちは家族だったのかもしれない、ということを予感させる。デンジのモノローグで、事情を知らずにバカになった方がいい部分がある、という台詞があったが、まさにそのセリフを読者に向けても突きつけてくる表現だった。

読者は名前のある登場人物たちに対しては投影的な同情を示すことができる。しかし、実際にあの世界で失われているのは、名前もない、事情も「知らされない」市井人々だという事実がなおのこと残酷であるとも言える。アメリカ大統領といい、日本政府といい、銃の悪魔という抑止力のために自国民の命を生贄にしているわけなので。

デンジが公安に入ってから情緒を獲得していく過程を目の当たりにしているだけに、自らその関係を断ち切らせるような事態に追い込まれていることが読んでいて本当に辛かった。

PTSDになったパワーとのくだりとか、明らかに構図がセックスを匂わせるようなポーズなのに、そこに全く性愛を見出せない(見出さない)デンジとか、これを少年誌でやっているジャンプすごいな、というか、希望すら感じてしまった。

肉体への興味と相手への愛が別の軸として存在することを絵で説明できるの、月並みな表現だが漫画が上手いとしか言わざるを得ない。

早川アキの最期と、早川家の終わりがあまりにも丁寧で、それゆえに残酷な9巻だった。手がだんだん冷たくなってくるのは読んでるこちら側もそうなのですが?と思った。

個人的にこんなにしんどくて面白い漫画、他にないので次巻も楽しみ。


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