吉松悠太

GUI、サウンド、音楽理論をデザインします。 🌐https://plugmon.jp/…

吉松悠太

GUI、サウンド、音楽理論をデザインします。 🌐https://plugmon.jp/ 🌐https://soundquest.jp/

マガジン

  • UI/UXから学ぶDAW論

    DAWの構造と操作をUI/UXデザインの観点から解説します。「なぜDAWは難しいのか?」という疑問の解決から始まり、後半はDAW同士の設計思想の違いの比較もしていきます。

  • FM/PDシンセシスの仕組み

    YAMAHA DX7で採用された「FM合成」と、CASIO CZシリーズで採用された「PD合成」の仕組みを、基本から解説していく記事群です。

最近の記事

UI/UXから学ぶDAW論 ⑤イベント式とクリップ式

iPhoneの生みの親、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は、次のような言葉を残しています。 「デザインとは単に見た目や感じ方のことではなくて、どう機能するかなのだ」というような意味ですね。デザインの意匠は、外見だけでなくその挙動にも込められているのです。 第2回では、DAWでの作曲に際して、楽譜を書くための“空箱”をまず作るという話をしました。音符を格納する「ハコ」は、ほとんど全てのDAWに共通したシステムです。 一見全く同じように見える「ハコ」ですが、実

    • UI/UXから学ぶDAW論 ④モードと“バネ式”

      私たちがパソコンを操る手段というのは限られていて、基本的に「キーボード」か「カーソル」の二択ですよね。 だから「右クリック禁止のサイト」とか「閉じるボタンを押しても反応しない」みたいな状況は、いわばパソコン側の“反乱”であり、多大なストレスになります。 UI/UX論ではときどき、「ユーザーがやりたい動作をきちんと実行できる環境」を“主導権”という言葉に喩えます。クリックしたくても出来ないなど、システム側が“主導権”を握るような構図は、好ましくありません。 クリックと“主導

      • UI/UXから学ぶDAW論 ③直感と“慣用句”

        UI/UXデザインの世界では、【直感的は、慣用的】ということわざがあります。私たちが「これは直感的だ、分かりやすい」と思うUIというのは、けっきょく単にそれに"慣れている"にすぎないのだという指摘です。 例えばiPhoneはよく直感的だと評されますが、「トリプルタップ」とか「2本指でピンチ」といった操作は、本当に何も知らない人が“直感”だけで見つけ出せるかというと怪しいものがあります。だから直感というのは本能ではなく、あくまで経験から来るものなのではないか──。 もちろん

        • UI/UXから学ぶDAW論 ②レシピと全体図

          前回は、多機能化するDAWを前に挫折しないためには、自分に必要な機能だけを選びとることが大切という話で終わりました。しかしこれを聞いて、こう思う方もいるのではないでしょうか? 「そもそもどれが大事な機能なのかが分からない」と。 それはごもっともです。人々はどうやってDAWの基本機能を学ぶのでしょうか? チュートリアルと“テキストの壁”DAW自身の中にも「ツアー」とか「チュートリアル」などと呼ばれる教材があって、実際のプロジェクト上で勉強できる機能が用意されてはいます。

        UI/UXから学ぶDAW論 ⑤イベント式とクリップ式

        マガジン

        • UI/UXから学ぶDAW論
          5本
        • FM/PDシンセシスの仕組み
          5本

        記事

          UI/UXから学ぶDAW論 ①忍び寄る多機能主義

          Cubase、Logic、Liveといった本格DAWソフトは、使いこなすのが大変な存在です。その難しさゆえ挫折してしまったととか、あるいはひとつのDAWに慣れてから別のDAWに乗り換えようとしたとき、操作性の違いに苦戦して諦めてしまったというような体験談は珍しくありません。 なぜ私たちにはDAWの操作が難しく感じられるのでしょうか? この記事群では、それをUI/UXデザインの観点から紐解いていきます。 UI/UXとは「UI(ユーザーインターフェイス)」は平たく言えば、DA

          UI/UXから学ぶDAW論 ①忍び寄る多機能主義

          カタカナ7音の階名からトニック・ソルファの17シラブル階名に改宗した話

          “改宗”と言うほど入れ込んでいることは何もなかったけれども。 きっかけ 去年の夏ごろから自分の中で使う階名のシステムを変えた。乗り換えのきっかけはSoundQuestのメロディ編の英訳に着手したことだ。全編に渡り階名が使われていて、これを翻訳するとなったとき、改めて英米ではシをTiと呼ぶトニック・ソルファ系の階名が(おそらく)主流であるという現実と対面することになった。 少なくとも「調性引力論」の大きな支えになっているジャック・ペリコン氏の理論書ではそうである。 な

          カタカナ7音の階名からトニック・ソルファの17シラブル階名に改宗した話

          ハモネプ2022(冬)から見る、ハーモニーのリスク管理とリターン推定

          昨年末、ものすごく久々にハモネプをちゃんと見ました。しっかり見たのはたぶん十数年前の最初期以来です。 本大会の採点はアカペラに詳しい専門家25人が行うというシステムで、採点項目はいくつかに分かれ、そのうちのひとつに「ハーモニー」がありました。この記事では、採点者のいるアカペラといういわば“競技アカペラ”の世界で高得点をとるためにできるハーモニー構築の工夫について考えます。 ⚑ ハーモニー採点の観点ハーモニーの採点は、何を基準にして決めるでしょうか? 審査員ごとの個人差はあ

          ハモネプ2022(冬)から見る、ハーモニーのリスク管理とリターン推定

          接続系理論の改訂と理論の評価法にまつわる話

          SoundQuestがようやくβ版から前に進んで正式公開となりました。 そして最後の大きな変更ということで「接続系理論」からアルファベットの型分類を廃止しました。この記事では体系の変更に至った背景(どのようにして考え方が覆ったか)について書いていきたいと思います。 これはβ版の接続系理論に付き合ってくださった方へ説明責任を果たすような意味合いでもあるし、また独自の音楽理論を考える人たちに対して「自分はこうやって理論の評価をしています」というアイデアをシェアするものでもあり

          接続系理論の改訂と理論の評価法にまつわる話

          YAMAHA DX7式FM合成の原理

          これまでの回一覧:前提知識 ❶三角関数とラジアン 前提知識 ❷位相への演算 PD合成 ❶基本設計を知る PD合成 ❷波形を生成する さて、今回いよいよ“本丸”とでもいうべきFM合成の解説に入ります。 まず最初に押さえておかねばならない前提認識がひとつあって、それはYAMAHA DX7の音作りは「FM」ではないということです。 というのも、「FM」というのは“Frequency Modulation”の略、すなわち「周波数の変調」ですが、YAMAHA DX7の音作り

          有料
          500

          YAMAHA DX7式FM合成の原理

          “ウ形容詞”と日本語の未来

          四ヶ月前くらいからゆる言語学ラジオというYouTubeチャンネルを登録して楽しんでいる。文字どおり「ゆる」なので、「ガチ」でやる気のない私にちょうどよいのだ。 言語の研究と音楽の研究はたまに似通うところがあって、「これは音楽にもあるなあ」とか思いながら聴いている。 例えば言語の獲得について研究する際、「もし言語を一切教えなかったら人はどうなる」みたいな人権を無視した実験が出来ないため、検証したくてもできないことがあるなんていうのは、音楽でも全く同じだ。「生まれた時から無調

          “ウ形容詞”と日本語の未来

          PD合成の演算 ❷波形を生成する

          おさらい前回は、波形生成のパーツを「位相グラフ」と「波形グラフ」に分けるという基本コンセプトを説明しました。 「位相グラフ」は平たく言えば、波形を描くスピードを司る存在であります。その傾きが急になればなるほど、それに応じて波形を描くスピードも上がるため、位相グラフ次第でいくらでも波形を伸縮させることができるというシステム。 そしてもし位相グラフの傾きがカクカクと折り曲がれば、波形も面白い風に曲がるはずです。 “位相”を“歪ませる”から、フェイズ・ディストーション・シンセ

          PD合成の演算 ❷波形を生成する

          PD合成の演算 ❶基本設計を知る

          前回は、サイン波の「位相」に演算を施して波形を変形させる基本を解説しました。 今回ようやく、PD合成の本論に入ります。FMより先にPDから始めるのは、こちらの方がやや仕組みとしてシンプルで、理解しやすいだろうからです。FMにしか興味がないという人も、頭の準備運動としてちょうどよいはずです。 PDシンセについてPD(フェイズ・ディストーション)は、CASIO CZシリーズで導入された波形の生成方法です。 一聴して分かるとおり、デジタルらしい明るさに加え流動性を感じるペコ

          PD合成の演算 ❶基本設計を知る

          FM/PD合成の仕組み ❷位相への演算

          前回は、そもそもsin・cosが何であるか、そして円周で角度を表す「弧度法」について説明しました。 FMもPDも、サイン波/コサイン波を変形させて新しい波形を作ります。そしてその「変形」というのは、フィルターを通すとかエフェクターを通すとかいうことではなく、数式を変形させるものです。 FM/PDが行う演算はそれなりに難しいものですので、この記事ではまず「数式と連動してグラフが動く」ことを、感覚的に身体に落とし込みます。 二次関数の平行移動手始めに準備運動として、二次関数

          FM/PD合成の仕組み ❷位相への演算

          FM/PD合成の仕組み ❶三角関数とラジアン

          先日FM Anthemというu-he HIVE用のプリセット/ウェイブテーブル集をリリースしました。 UHMというウェイブテーブル生成言語を用いて、FMシンセのアルゴリズムそのものをウェイブテーブル内で再現するというプロダクトです。 製品を作るにあたって、YAMAHA DX7のFMシンセシス、およびCASIO CZ-1000のPDシンセシスが具体的にどのような演算をして波形を作り出しているかというのを学習しましたので、それを解説しようと思います。 この記事ではまず、基本

          FM/PD合成の仕組み ❶三角関数とラジアン

          Bitwigが日本語化。そして勝手に改造

          Bitwig Studioがv3.3.4でついに日本語に対応!ヤッタ──────\\\\٩( 'ω' )و //// そこはかとない違和感しかし、ソフトウェア日本語化の“あるある”ですが、一部の翻訳にはまだ違和感があります。"Double contents"が「コンテンツのダブル」だったり... "Add ~~"が「○○を追加」ではなく「追加 - ○○」という機械的な語順になっていたり… それから翻訳で文字数がかさんだ結果、本来のUI幅におさまらず「…」で省略されてしま

          Bitwigが日本語化。そして勝手に改造

          五度圏が12音を網羅する数学的証明

          音楽理論にておなじみの「五度圏」は、便利アイテムです。時計のように、Cから完全5度ずつ進んでいくと、12回で一周して元に戻ってくる。 しかし、なぜ完全5度(=7半音)刻みで回ると綺麗に各音を1回ずつ拾って一周できるのでしょうか? 感覚的には納得しているけど、きちんと証明できますかと言われると、すぐにつらつらとは説明できない。その証明方法を、Twitterを通じて色んな人に教えて頂いたので、備忘録としてここに記しておきます。 五度圏がやっていることまず五度圏が計算としてや

          五度圏が12音を網羅する数学的証明