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マージナルマン・ブルーズ #11

 ガイジンの友だちがいる、というのは新鮮だった。でもヒートーはこのことは誰にも言うなと言っていたので、ナオキーたちにも話さなかった。
 そのうち一緒にいる時間も長くなり、夜7時8時を過ぎることも増えていった。
 8月の中旬ごろ、ザビエルがヒートーと僕に、プレゼントだと言って銀色の重いライターをくれた。ヒートーのにはスヌーピーの絵が、僕のにはドナルドダックの絵が彫られていて英語でよくわからないことが彫られてあった。僕がもらったドナルドダックのは、かなりボロボロで、銀メッキもあちこちはがれてブラスが鈍く光っていた。ヒンジが緩み、ぐらぐらになっているふたを開けると、ピンッという歯切れのいい音がした。と同時にオイルの匂いが漂った。ウイックは残っていたが、それを保護するチムニーは半分破れて無くなっていた。
 受け取るのに躊躇していると、ヒートーに
「ヤー、受け取らんつもりか?」
と責められた。
「ライターとか持ったらいけないものさー」
と言うと、
「あい、これは贈り物。ライターあらん(ライターではない)」
と言われてしぶしぶ受け取った。ザビエルは苦笑いして英語で何か言ったが、僕もヒートーも何を言っているかわからなかった。
 そういうことがあって数日後、あれは母の命日の少し後のことだから8月の15日前後だったと思う。いつものようにナンミンに行ってザビエルと会ったが、ザビエルはいつにもまして無口だった。気づけばヒートーもつまらなそうだった。

「アラブに行くって」
 ヒートーが言った。
「いつ行くの?」
と聞いてもザビエルは答えなかった。僕は「フェン フェン」と、ほぼ英語として成立していない単語を繰り返し、砂浜に下手くそな世界地図を描き、日本のつもりの楕円形から、中東のつもりの地中海のえぐれたあたりまで線を引いた。それから地図の上に大きく「フェン?」と書いた。ちょっと綴りを忘れてしまったのだ。
 ザビエルもヒートーもそれを見て笑った。その時、もしかしたらザビエルがいつアラブに行くのかヒートーは知っているんじゃないかと思った。

 その日はなんとなく帰るのがいやで、だらだら遅くまで浜辺にいた。
 沖縄の遅い宵が迫ってきたころ、丘の向こうから2つの人影が近づいてきた。何だろうと思って眺めていると、そのまままっすぐ歩いてくる。
 おまわりさんだった。

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