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【森の国】ノベルセラピー作品

lira作

トナカイのジルは
北の国の
深い深い森の奥に住んでいます。

もう何百年も生きているような気がします。
彼自身、自分が何歳なのか知らないのです

頭には、立派な角が生えていて
耳は、ピンとたち
凛々しい顔立ちをしています
瞳は
すべてのものを見通す光を放っています

ジルは、森の主
この森を守っている存在です

森の中の生きとし生けるもの、すべてを見守る叡智とつながり、
その役割を果たしています
トナカイの家族や仲間、森の生き物たちと共に自然と調和して暮らしています

ジルは今、深い静けさの中で悲しみを感じています

ジルの瞳に映るのは、息子のジムが旅立っていく姿です
ジムは
長い間一緒に暮らした、この森から出て
外の世界を見てみたいと言うのです
自分の夢を見つけるために

1人で旅立つジムは
どこに行くのか
何をするのか
誰と出会うのか
全く決めずにただ歩き出しました

だんだん雲行きが怪しくなり、森は吹雪に襲われました
いつもは仲間や家族と一緒に暖かく過ごせるのに、
ジムは1人で寒さに震えています

それを遠くから見ていた父のジルは
心の瞳を使ってジムを暖かく包みました
どんなことがあっても、ジムがそれを乗り越えていけるように

ジムは寒さに震えながら、1人で森を歩いている時
ふと心の中に暖かさがあるのを感じました
その温かさを感じていると
1人ぼっちの寂しさも
吹雪の怖さも忘れ
なんだか体までポカポカしてきました

しばらくすると、ジムの心の中と同じように風が止み、雪も止んで暖かい太陽の日差しが雲の隙間から差し込んできました

ジムはこの暖かささえあれば、どんなことでもできると思いました

ふと、遠くで見守ってくれている父のことを思い出しました

自分の中に父と同じ温かさがあるのを感じていました

父のジルは、今もかわらず深い静けさの中ですべてのものを見つめています

息子のジムも、父と同じように、新しい場所で森の主になりました

そこには、かつて自分が育った時と同じように
すべての生きとし生けるものが調和の中で暮らす営みがありました


おしまい

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