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みんな意外によく知らないベンチャーキャピタルのIR

一昨日、日本ベンチャーキャピタル協会から「VCファンドのパフォーマンス評価に係る調査報告書」が公開されたので読んでみました。135ページにわたる超大作だったのでせっかくだと思い、要点をnoteにまとめました。「何書いてあるか知りたいけど書いてること難しいし、読む時間ないです」っていう方は非常にざっくりとしたまとめですがご覧ください。

まずこの報告書は、「VCファンドの組成額が日米で凄く差がついているのは何でだろう?」という問題提起から始まります。

言い換えると、VCファンドにお金を出してくれる人(=LP)のうち、お金をたくさんもっている機関投資家の割合が米国より日本の方が少ない。

その原因は、①VCのパフォーマンスを測るためのデータが不足している、②VCのパフォーマンスを測るルールが未発達という2点。

逆に言うと、②VCのパフォーマンスを測るルールが精緻になると、①VCのパフォーマンスを示すデータがとりやすくなって、LPがお金を出しやすくなる。

LPがお金を出してくれれば、スタートアップにお金が流れやすくなって、起業家はハッピーになるはずです。

そしてこの報告書に書かれている主な内容は、②VCのパフォーマンスを測るためのルールをどうやって精緻化していくのかという議論です。

つまりこの議論は、VCの投資評価、ひいてはVCファンドが自分たちのパフォーマンスをLPにどう説明するかという議論なので、別にVCが自分の投資先を厳しく管理しようとか、そういう話ではありません。

VCファンドのパフォーマンスとはつまり、VCの投資先のパフォーマンスと同じです。ただ、VCの投資先は上場していないので、株価がありません。だから、VCファンドのパフォーマンスを測るためには、VCは自分の出資先の株式について、株価(のようなもの)を見積もって「評価額」を算定します。

では、その評価額をVCはどうやって算定されるのでしょうか?この報告書ではいくつかのVCにヒアリングをして実態調査を行っています。

現状、国内のVCは、基本的にはコスト・アプローチで評価しているところが多いです(※1)。コスト・アプローチというのは、VCが最初に投資した金額をベースにしながら、その金額を超えない金額で評価額をきめていく方法です。なので、あるVCが100万投資した投資先がユニコーンになったとしても、VCとしては上場するまでは100万円で評価しつづけるなんてこともあります。

一方、海外のVCは、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ中心で評価しているようです。2つの評価技法の詳細な説明は割愛しますが、こっちは投資した金額以上で評価する(マークアップ)ケースがあります。こういう違いがあるから、日本のVCのパフォーマンスは悪く見えて、海外のVCのパフォーマンスは良く見える、というデータ(特にRV/PIという指標が悪くなる。)がとれてしまったりします。

(以下は国内・海外VCのパフォーマンスのイメージ図です。)

ただ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチは手間がかかります。つまり、計算上用いる仮定(インプット)も山ほどあり、計算が難しい。最初に投資する時にVCが見積もるvaluationをLPに報告するたびに実施するイメージです。

そういうわけで、今の日本のVCには、「面倒な計算をするのであれば、海外の機関投資家を自分のファンドに迎え入れなくてもいいや」というインセンティブが働く環境になってしまっているということです。

ただ、この状況も変わりつつあります。海外のVCはその面倒くさい計算を我慢強くやってきたプラクティスがたまってきたため、「どうやってベンチャー投資を評価するか」というガイドライン(IPEVガイドライン)ができており、従来に比べ素人でも分かりやすい説明がされつつあります(といっても日本語完訳版はまだないのですが・・・)。

さらに、国際財務報告基準(IFRS)上は、基本的にはベンチャー投資をマーケット・アプローチ、インカム・アプローチで評価するので(※2)、日本のベンチャー投資家がIFRSを適用したら否が応でもこの要求に対応しなければなりません。

ということで、VCがファンドのパフォーマンスをちゃんと評価する下地はできつつあります。小難しいルールがたくさんありますが、機関投資家等、大口の出資者からお金を出してもらうならリソースを割いてちゃんと評価ルールを精緻化しようね、ということです。

私個人の意見としても、(機関投資家をひっぱってくるなら)VCの評価ルールを精緻化しようという議論には賛成です。というのも、VCが投資後の評価を精緻化することは、投資時の評価を合理的に見積もることにつながるため、valuationの問題で背伸びをしすぎたり、VCに安く買い叩かれるリスクが少しは軽減するような気がしているためです。どのみち、ベンチャーファイナンスに関わる仕事をしている私としてはこの報告書に書いてあるような海外のプラクティスをよく勉強しようと思った次第です。

ちなみに、このnoteでは第3部「国内VCのIR向上に関するガイドライン」の内容にあまり触れていませんが、これは「どうやってVCはファンド作るの?」ということが書いてあります。初めてファンドをつくるCVCの担当者の方なんかにはちょうど良いガイドラインになっていると思います。


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※1:金商法を前提とした場合、コスト・アプローチはマークアップ、すなわち評価益を計上しないのが通常ですが、「投資事業有限責任組合における会計処理及び監査上の取扱い」の規程に従って、投資損失引当金を計上し、それを戻入れることで事後的に評価益を計上するケースはありますが、理論的にはイマイチです。また、コスト・アプローチでよくある方法は評価額を投資簿価×25%、50%、75%等、4段階に分けて測定する方法があります。

※2:厳密にはマーケット・アプローチとインカム・アプローチで測定できない株式はコスト・アプローチで評価するといったタテツケです。


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