海外のスクールで認定スクラムマスター(CSM)講座を受講&資格取得しました
こんにちは、コインチェックCTO室の大村です。
去る1/31にUKのスクールの講座を受講し、認定スクラムマスター(CSM)の資格を取得しました。
海外のスクールで認定スクラムマスターの資格を取得した方の体験記はあまり見たことがないので、英語でスクラムマスターの資格を取得することに関心がある方に向けて、参考になる情報を提供したいと思います。
1. 資格取得の経緯
コインチェックCTO室では、開発出力の向上をMissionに掲げ、その手段として開発プロセスの標準化を目標に掲げています。
昨年採用活動に注力した結果、DevOps組織の規模を80名超の規模まで拡大することができました。結果として、これまで各開発チームの皆さんの自助努力を通じて取り組んできた開発プロセスの整備や品質向上の取り組みを、一定程度共通化する必要が出てきました。
一口にアジャイルと言っても、様々なフレームワークがあります。そこで、とりあえず王道のスクラムについて知ってみよう!と考えました。
これまで私は、実際にスクラム開発の現場に居合わせたことはなく、スクラムについてはアジャイル開発の入門書で軽く知識を入れた程度でしたが、まずは飛び込んでみようということで、認定スクラムマスターの資格を取得してみることにしました。
2. スクール探し
さて、とりあえずスクラムをやろう!と旗を立てるからには、まずは私自身がアジリティを体現していることが大切なのでは?!と思うわけです。
そこで、チームでスクラムの話が出たのが木曜日だったので、翌週くらいには取得せねば、と一念発起して認定スクラムマスターになる方法を調べ始めました。
ちらっと調べてみたところ、認定スクラムマスターの資格を取得するためには、まず認可を受けたスクールの講義を受講した後、オンラインでテストに合格する必要があると言うことがわかりました。
それなら一番早く受講できるところを探してみようと思ったのですが、ここで驚愕の事実が判明しました。
そもそも日本にはスクラムマスターの認定講座を実施しているスクールがとても少なく、そしてほとんどが一ヶ月以上先まで満席になっているのです。(ちなみに、下記のScrum AllianceのページのLocation Filtersを指定することで日本のスクールの授業を検索できます。)
せっかくやる気になっているのに困ったなぁと思って少し眺めていると、どうやらスクールはどの国で開催されているものを受講しても良いということがわかりました。
言語は英語であればOKとして、とりあえず私は夜行性なので、日本時間で0時くらいに終わってくれればありがたいと思っていたら、ちょうど翌週の月曜日・火曜日の開催で日本時間17:00-25:00のオンラインコースに空きがある、UKのスクールを見つけました。しめた!と思い、すかさず申し込みました。ちなみにこちらのスクールです。
こんな短期間で認定スクラムマスター取得を決意して申し込みまで実施する人が私の他に実在するのかわからないのですが、海外のスクールでCSM認定講座を受講すれば、日本で取得する場合のおよそ半分くらいにコストを抑えられます。
私の場合は直前割みたいなものがきいて、10万円強くらいの価格で受講することができました。日本のスクールの相場が調べたところざっと20万円強くらいだったので、ラッキーです。
申し込みをすると、LMSみたいなもののログインURLが送られてきて、あとは時間になったら配布されたZoomのURLに入るだけ、というなんとも簡素な仕組みでした。オンラインは本当に楽ですね。
3. 講義
講義当日、しっかり朝から夕方まで仕事をしてへとへとになった体でZoom Linkをクリックすると、なんとも国際色豊かな面々がブワ〜っと画面一杯に現れました。
日系の人は私一人で、大多数がインド系の方、ついでヨーロッパの方が多かったです。先生はオランダの方らしく、Eclipseを開発したチームに在籍されていたとのこと。
講義の内容を全て紹介していると冗長になってしまうので、ここからは印象に残ったシーンのみ紹介していきます。
講義の概要はスクラムの思想や、生まれた背景、そしてスクラムイベントを一通り体験しスクラムマスターのロールを確認するといったようなものでした。
3-1.スクラムの源流 〜やっぱりすごいよ野中郁次郎〜
何よりも感動したのが、スクラムの源流にTOYOTA生産方式があり、野中郁次郎がHarvard Business Reviewを通じて世界に紹介したことがアジャイル=スクラムの源流にあることが言及されたことです。しかも野中郁次郎がこの論文を発表したのは1986年のことです。早すぎません?
失敗の本質も1984年ですから、彼はまさに先見の明の権化だったと言ってしまって過言ではないでしょう。
”Sotaは日本人だから彼のこともちろん知ってるよね?”と先生から聞かれたので、”はい!!もちろん!!日本のソフトウェア業界で働いている人はみんな知ってます!”と、元気よく(多分嘘を)答えました。
ただ、ラグビーは見てないですと言ったら、イギリスの参加者の方から超ダメ出しされました。日本のラグビーチームはすごいんだよ、とのこと。マジでなんも知らないのでへ〜〜〜って思いました。
3-2. アジャイル体験ワーク〜名簿ゲーム〜
スクラムを体感するために実施された名簿ゲームというワークがあります。これは、参加者全員の名前を重複なく呼んでいき、そのタイムを計測すると言う簡単なものだったのですが、これが案外難しい。
名簿が与えられるのですが、”名前を呼ばれたら次の人の名前を呼ぶ”というルールで、禁止事項は、①自分の前後に記載されている名前を呼ぶこと、②メモを取ること、③2回以上同じ人の名前を呼ぶこと。
参加者は25人ほどでしたが、初ターンは①〜③の反則がボロボロと発生して、結局タイムは4分くらいでした。ここからタイムを縮めていくためのレトロスペクティブが始まっていきます。
また、参加者からはタイムを縮めるために下の名前だけ呼んでもいいか?という提案が出ました。これは、ゲームの要件に対する決定権を持つプロダクトオーナーである講師の決定事項となります。POとのディスカッションを経て、この提案はOKとなりました。
4回ほどゲームを回して、最終的には40秒程度で終了することができました。スクラムの改善プロセスを簡単に体感できてわかりやすくて良かったと感じます。
3-3. リファインメント 〜プランニングポーカー〜
もう1つは、プロダクトバックログリファインメントを行うための、プランニングポーカーの体験セッション。スクラムは相対見積もりがベストプラクティスとして推奨されることが多く、バックログリファインメントで活用されることも多いです。
セッションでは、ゴリラを1とした動物の大きさを例にプランニングポーカーを実践しました。グループに分かれて、下記のブラウザベースのアプリケーションで実施しました。
なるほどと思ったのが、動物の大きさのような定量的に見える指標の評価でも、参加者の間で前提のズレが生じます。例えば「キリンの体長ってタテで測るの?ヨコで測るの?」のような議論が発生したり、「そもそも動物園のライオンって野生の物より小さくないか?」みたいな意見が出てきたり。
プランニングポーカーは認識を合わせるための道具で、見積のスコアに差分が生じた際にその理由・背景を共有することが重要なのだなと改めて実感しました。
相対見積は、人月単位での工数見積もりに慣れすぎていると、え?これ本当に意味のあるプロセスなの?みたいな気持ちになりますが、『実際人月みたいな、本当は主観的なのに客観的に見える見積もりよりも、基準となるものを決めてそれと比較した際の相対見積の方が全然正確にできるんだよ〜』と先生。
『相対見積は、時間や難易度など全て含めてどのくらい大変かというのをざっくり決めていくもので、重要なのはその指標の決め方に対してメンバーが共通の認識を持っていること』確かに。人月だって人の主観が混ざっている以上、客観的で意味のある指標だとは言い難いですもんね。
3-4. マインドセット 〜非暴力コミュケーション〜
一番感銘を受けたのがこの非暴力コミュニケーション(Non Violent Communication/NVC)です。スクラムはチーム内での心理的な安全性を担保することがなによりも重視されますが、NVCは事実・感情・ニーズ・要求をもとに共感に基づいたコミュニケーションを実践するためのフレームワークです。
NVCの考案者かつ実践者のDr. Rosenbergの上記のセッション動画はとっても長いのですが、3時間視聴しきればNVCのなんたるかについてはほぼ完璧に理解できます。
ごく簡単にNVCのポイントを自分の言葉で述べておくと、以下になると思っています。
特に上記の二番目のポイントが重要となるのですが、NVCについてはあまりにも感銘を受けたので、別のエントリで詳しく書く予定です。
4. テスト受験
さて、16時間に及ぶレッスンの受講が終了したあとは、ついにテストの受験です。講師から、しばらくしたらメールが届きますから二週間以内に受けてくださいね〜というアナウンスがありましたが、講義が終わって2時間くらいでScrum Allianceから受験用のリンクが配布されましたので、翌朝ちゃちゃっと受けました。
受かりました。ちゃんと研修受けていれば、多分落ちないです。不安な方はスクラムの入門書でも片手に受験しましょう。
無事に試験に合格すると、認定スクラムマスターの証書が発行されます。やった〜!
5.学び
退勤後に8時間の講義を受けるのは本当に辛いので辞めた方がいいです
認定スクラムマスターの試験は割と簡単です
海外のスクールは割安かつ時間の選択肢が幅広なので、英語に自信がある方にはお勧めします!
3について少しだけ補足すると、東アジア圏以外の海外には、発言されるまで黙って話を聞いているとか、全員が平等に発言できるように配慮する、といった文化的なコードは存在しません。講義は基本的にワーク形式で進んでいきますが、グループの中でも(当然ですが)発言を促されたりはしません。
そして、参加者が気になることや疑問を持った場合、講義の途中でもバンバン講義者を遮って、発言や議論が飛び交います。ここで大切なのは、英語に自信があろうとなかろうと、喧騒の中で何かを叫んでみよう!ということです。
スクラムというフレームワークが想定している人間像は、こういう”言いたいことがたくさんあって、それを発散せずにはいられない、エネルギーに溢れた人々”なのであり、そのエネルギーの方向づけと調整の技術としてスクラムは初めて機能する物だと理解しています。
逆に言えば、”なんでもいいです”とか、”●●さんが言ってるから自分は黙っておくか…”みたいなマインドセットは、スクラムから一番遠いところにあると思っています。
ごく個人的な仮説を述べておくと、日本でスクラムチームが機能しない傾向があるのは、主体的に意見を発信することを忌避して、何かと受動的に振る舞うことを要求する文化・規範の存在が大きな理由だと考えています。
なので、もし海外のスクールに参加される方がいれば、ぜひ喧騒の中で”すいません!私の意見も言わせてください!”と叫んでみて欲しいです。そして、スクラムが想定している本来的な人間像を是非体感して欲しいと思います。
6.最後に
というわけで、まだまだ見習いのスクラムマスターの私ではありますが、スクラム系のイベントがあれば積極的に声かけしていただきたいですし、ナレッジシェアの機会があればいつでも登壇します!
コインチェックの開発組織をより良いものにしていくために、粉骨砕身の意気で尽力していく所存ですので、どうか暖かく見守っていただけますと幸いです!
今後ともどうぞよろしくお願いします
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