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人柄に宿る味 《夫婦世界一周紀34日目》

サソリに刺されてからというものの、フウロの体調は悪かった。痛みは次の日にはひいたけれど、予期せぬ災難とスリランカの気候、これからの旅への不安がない混ぜになって一気に襲ったようだった。ウナワチュナにいることは選んで決めたはずが、いざ延泊をして気づいたのは、ここを出れる体力が残っていないという事実だった。

エアコンの効かない部屋ではいくら休もうとしても少しずつ疲れが溜まっていく。もう僕もフウロも行きたいところは無くなっていた。クラクションの音一つでも体がこわばり、日中は歩く気にもならない。でもスマホがあれば宿で時間を潰せる。フウロがずっとハマっていたリズムゲームのアプリを僕もやってみることにして、四六時中遊んでいた。そしたら夜中にとてつもない大雨に加え電信柱かなんかに雷が落ちたらしい。スリランカ南部全域が停電だ。当然Wi-Fiも切れ、冷蔵庫の食べかけアイスは溶け、僕たちはいよいよやることが無くなった。

そんな時だ。マハジさんがやってきて、今日君たちにご馳走をしたいと言う。ご馳走すると言われてから一切その話がなくなってしまってちょっと心配していたから、ほっとした。ご飯が食べられるからではない。すっかり荒んでしまった心を唯一支えてくれる善意だった。

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外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

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