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もしかしたら、私は歴史を変えているのかもしれない


自分の名前で気に入ってるのは最後の漢字が「美」ではなく、「実」なことです。

だから、名前の漢字を説明するときも「美しくない方のミ(実)です!」って紹介するんです(笑)

これ言うと、相手もちょっと笑ってくれるんで、私の鉄板ネタなんです。


大きな夢をたくさん実らせてね。これが私の名前の由来です。


23歳の夏。私はこの名前に背中を押され、人生最大の一大決算をしました。

あの時、自分の名前ともう一つの私の名前。その二つの意味を知った時、涙が止まらなかった。

両親の願いと、私の使命、運命というにはなんだか小さすぎるように思う大きな、でもか細い繋がり。

世界の何たるかが分かった気がした。

駅から家までの徒歩30分。暗い町の中を泣きながら歩いた帰り道。私はあの時の衝撃が忘れられません。


東京に来て一番悩んだことはお金とどうしようもない孤独感です。

就職して寮に入っていたのですが、契約社員だったこともあり給料が少なくてその日暮らしの生活でした。

契約社員にしたのは、脚本家になりたいから。

就職活動中、私は一度採用された会社の内定式の日に採用取り消しをお願いしたことがあります。

本当に、本当に、心から申し訳なかった。部活にしろ、バイトにしろ、会社にしろ、辞めると伝えることは、私にとっては結構重いイベントだったんです。だから、期限が決まっている契約社員にしました。

東京には友達どころか、知り合いさえ2、3人いるかどうか。会社の人はプライベートでも会うという感じではなかったので、ふとした時になんだか寂しくなって自然と涙が出てくる、毎日そんな感じでした。

いわゆるホームシックですね。

自分がこんなに弱い人間だったとは思わなくて、それにも悲しくなって。そんなことを繰り返していました。

ある夏の帰り道。

もう18時半なのに少し薄暗かったから恐らく秋に差し掛かるくらいの頃だったと思います。

「今死んだら、どうなるんだろう」

そんなことを考えたんです。

親元にいる時は分からなかった。人間は生きてるだけでお金が掛かるということ。

それは何年経っても変わらない。こんなことがこれから先の人生も続くんだと。軽い絶望感に急に襲われました。

じゃあ死んだら?今死んだら誰が気付いてくれるだろう。

きっとしばらく気付かれない。無断欠勤を続ける私を叱りに、上司だから同期だかが寮に乗り込んでくるだろう。それでやっと発見される。警察を呼ばれて、救急車も来て。死んでからも、家に帰れるのに時間が掛かりそうだな。

そこまで考えて、大阪と東京が途方もなく遠く感じた。それでやっぱり涙が出ました。

今すぐに仕事を辞めて、大阪に帰って、実家から通勤できるところに転職して、お母さんの介護をしながら家族で暮らした方が絶対にいい。

そうすればお父さんも楽できる。親戚たちに契約社員であることを後ろめたく思い、秘密にする必要もない。私だってお母さんといられる。その方が皆幸せになる。絶対にそれが正しい。その方がいいに決まっている。



…………でも、できませんでした。

両親が大好きで、実家が好きで、大阪の友達も大好きで、大阪の街が好きで。東京にいるのはこんなに辛くて悲しくて、嫌いなのに。

それでも、脚本家になりたいと思ったんです。

なんて頭の悪い選択をするんだろう。なんて親不孝。

その時、自分の名前の話をふと思い出しました。

それだけで、親の願いだー私の使命だーなんて思わなかったけど、私のもう一つの名前。

私が生まれる前、今の名前ともう一つ、最終候補に残った名前がありました。両親と私が初めて顔を合わせた時に、その名前は合わないとすぐに落選してしまったようなのですが…。

もし私が今の名前でなく、もう一つの名前の方だったら。彼女はどんな人生を歩んだのだろう。ふとそう思いました。

大阪にいただろうか。家族のために生きただろうか。

それで何となく、もう一つの名前の由来を検索してみたんです。

調べて初めて知りました。どちらも同じ意味だったのです。

志に向かって真っ直ぐ進む。

唐突に、涙が溢れました。何だか二つの名前に、大丈夫だ。間違ってない。そう言われた気がしたんです。なんでですかね。

父も母も、お互いに家庭の事情で自らの夢を叶えられなかった人です。

本人たちからそんな話は聞いたことないけど、彼らの姉弟や、姉妹から聞いてたから。

私の名前の由来には、そんな二人の歴史が刻まれているように感じました。

でも、父と母が夢を諦めざるおえなかった両親、私の祖父母にも、歴史がある。二家族ともお金に少し苦労した家だったそうです。祖父母がそうなった背景にもまた、いくつもの人の人生が絡んでいる。

私の現在に至るまで、多くの人の歴史が重なっていると気がついたんです。

か細い、でも確かにここにあるたくさんの人との繋がりの糸の先端を今私が持っていると思うと、なんという奇跡だろうかと思いました。

それと同時に、自分以外の生きとし生けるもの全ての存在が奇跡だと思った。唯一無二の絶対的存在。

私はすごい。でも、あなたもすごい。

それに気が付きました。

両親はこれまで関わった全ての人の歴史を背負って生き、そしてあまたの言葉の中から三文字を私に与えてくれた。

だからと言って、「名前つけたんだから好き勝手しますね」なんてことは言えない。こんなに面白い世界に私を呼んでくれて本当に感謝してる。

私は人生をかけて、証明したい。

お母さんとお父さんが私にくれたものは間違ってなかったと。


名前に恥じぬ生き方を、これからももがき続けます。



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