君は希望を作っている #39

 希望を書く日々に、少し希望の光はあった。
「そういえば最近社長見ないね」
お仕事じゃない、休憩時間に沙羽。
「まぁ、あのようなハイクラスの方は、もちろんお仕事にプライベートにと忙しいのよ。自分を優先してくれないなんて泣きごとを言うような女は、あの人を射止めない」
元気を取り戻したらしい黒崎を、海老原は愛おしそうに見つめている。
 沙羽はそれを見て、よかったね、と呟いた。
 その日はきぼうを休みにして、沙羽は前々から企画していたIT交流会に参加しようと、少しいい、いいって言っても五千円ぐらいのワンピースを着て大きな街に来ていた。
 初心者OKのIT交流会。
 どんなんだろう、沙羽は聴覚を休ませるためのイヤホンを耳に入れ電車の中で浮かれた。
 こんどこそ素敵な出会いが。
 大きなビル、目立たない紫陽花、床も光るぐらいの綺麗なオフィス、あぁ、こういう所で働けたらな……。
 受付を済ませる、ここは投資家とか起業家とかそれなりに有名な人もいるって聞いた、有名人か、偉い監督さんみたいなものかな。
 お仕事もらえればいいな。
「おぉ」
「またお会いしましたね」
参加者は知り合いどうしもいるのか会話にいそしんでいる。
 沙羽は随分と就職相談会と違うなぁとあっけにとられ、主催者の気遣いで広げられたプチケーキやお肉をひたすらパクつきながら、そこにいた人と雑談を始めた、
 ふと、人だかりがある、囲まれているのはよく見た顔。え?沙羽は驚いた。
 それは確かに社長だった。
 いや、まぁここには色んな会社の社長が来るけど、本当に社長なの?社長が?沙羽は驚きを隠せない。
 社長はその辺に座って、誰かと仕事のことかで談笑している。
 沙羽はどこか寂しそうな顔になった。
 そして少し考えたようになって、極めて社会的に挨拶をした。
「私、まだ卵で」
「あぁ、そう」
社長は淡々と答える、沙羽はそれだけの挨拶をすると別のイケメンな参加者に相談する。
「ガテンでこういう所知らなくて、あの……」
沙羽はらしくないほど固まっている。
「じゃあ、似たようなもんだから、ここ。声掛けたらいいじゃん、監督~って」
さわやかに彼は笑った、沙羽は、そうか、と随分色んな人に囲まれている体の大きな中年の男性を見つけ
「あ、あの人偉い監督さんっぽい」
と声を上げるやいなや
「監督~」
と陽気な工事現場のノリで声を掛けた。
「ちょ、その人やばいから!」
なんとなく見ていた社長も、彼も、慌てて沙羽を止めに行った。
 会が終わり、沙羽がほくほくといくつかの名刺を前に微笑む中、あのね、あの人はちゃんと仕事しなきゃ駄目からね、と社長はすれ違い際沙羽へ呆れるように忠告した。うん、職人さんもそうだよね、と沙羽はただニコニコと笑っていた。

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