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掌編 「ドラえもんと僕」

 朝起きたら、自分の学習机の前に立つ。そして周りを見回して、誰も居ない事を確認する。よし。僕は期待と、ぬか喜びに備えて少し息を吸って、一番平たい引き出しに手を掛ける。 開けてみる。

 駄目だった。分かってはいたんだけれど、やっぱり溜め息をついてしまった。僕は着替えて朝ご飯を食べに一階へ下りて行く。

 僕だってドラえもんが欲しい。いつか引き出しが四次元に繋がらないだろうか。タイムマシンはないだろうか。そう何度思っただろう。毎日毎日思っているから、多分365回は思っている。だってもうすぐ六年生になってしまうから。のび太は五年生でドラえもんと出会った。だから僕も五年生になったらドラえもんがやって来るかもしれないと思って、密かに待っていたんだ。でも全然来ない。引き出しは空っぽ。そう、僕はドラえもんに備えて一番平たい引き出しには物を入れない様にしているんだ。そこまで準備万端なのに、来ない。

 僕は勉強が出来る。得意ってほどじゃないけど、零点なんて取ったことが無い。運動もまあまあできる。走るのは中くらい。いじめっこの暴れん坊もクラスに居ない。けれどやってみたい事がたくさんある。空を飛びたい。ドローンよりも手軽に飛んでみたい。ドアを開けたら好きな場所へ行けるなんてとっても助かる。怒られそうになったらそれでおばあちゃんちへ逃げよう。あと、みんな時間が無いってよく言うから、買い物へ行くのも、会社へ行くのも、家族旅行へ行くのにも貸してあげたい。みんなの役に立つんだったら、ドラえもんもきっと貸してくれるはずだ。

 僕は今日もドラえもんを待っている。僕より背が高くて重たいみたいだけど、ちゃんと君の布団を用意するよ。ちゃんとご飯も用意してもらうし、これはお母さんにお願いしなくちゃいけないけど、大丈夫。それにこれは一番大事。僕は美味しいどら焼きの店も知っている。

 僕は、一緒に色んなことをしたいんだ。だからドラえもん、僕は君に会いたいよ。

           おわり


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