映画の「間」に在るもの
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映画の「間」に在るもの

 今晩は。日が短くなりました。わが家も只今は鈴虫の声に包まれています。すっかり秋色の気配が漂います。

 私は此処で好きな映画についてお話するのを楽しみにしています。しかし今晩は一本に絞ってじっくり語る前に、映画の趣についてお話したいと思います。

 映画館へ通い詰める、という程ではありませんけれど、私は映画を観るのも好きです。子どもの頃はテレビ放送で映画を見ることの方が断然多く、洋画とアニメが殆どでした。大人になるにつれて、自分の好みというものが段々判然して来ます。私は日本映画に心奪われる事が多いようです。何故だろうと思いました。好きな映画を並べて共通部分を探します。そうして或る日気が付きました。私は「間」(ま)が好きなのです。

 映画は大体二時間前後で起承転結を成立させなければなりません。短いと物足らないですが長過ぎてもだらけてしまいます。そして物語には重要な、これだけは言っておかなければならないという骨の部分と、無くても話の内容は伝わるけれど必要な部分があります。推理ものだと其処へ謎解きのヒントが忍ばされていることもあります。緊張の強いられる話ならば緩急をつける意味合いも含まれています。例えるならばジェットコースターでしょうか。始めから終わりまでわくわくが在る、そういう映画がエンターテイメントであると私は思うのです。「映画はエンターテイメント」と云うのは私の映画好きの根幹です。

 そして、エンターテイメント性に優れた映画には、緩急だけではない、「間」が存在すると思います。この「間」というのは、例えば面白いシーンと面白いシーンの狭間に不意に生まれる空気感であったり、急転直下のシーンの最中にすっと挟まれている一場面であったりします。空気感を生み出すのは役者さんとの共同作業、すっと挟む一場面は監督の手腕の占める所が大きいのかなと勝手に分析しています。

 ではその「間」に何が在るかと云うと、何にも無いのです。何にも無いから映画が面白くなるのです。「間」の時間にそこまでの物語を登場人物と一緒になって味わうことがあります。「間」のタイミングでここまでの展開を思い返してその後を予想します。「間」を見て頭の中を整理します。「間」が風景であると、登場人物たちの居る場所がより一層実感できて、物語に入り込みやすくなります。

 山田洋次監督の「隠し剣 鬼の爪」を御存知でしょうか。私に日本映画の面白さを教えてくれた名作であり、原点です。この映画には緩急があります。真っ直ぐに人の生き方を描いている点で実直です。しかし堅苦しさや悲哀に満ちていません。生きるのは苦しくてしんどくて大変だけれど光があると、己の信念を貫く主人公が教えてくれます。そしてユーモアが全体に散りばめられています。其処に加わるのが「間」です。この映画の「間」がどんなものかは、是非とも観賞しながら味わってみて頂きたいと思います。屹度一人一人響く処が違うだろうと思うのです。

 そしてこの「間」にも共通するものを、背中に教わった映画がありました。その映画で、高倉健さんは立っているだけでした。カメラでは無く、あっちを向いて、只立っていたのです。背中しか見えません。背中で物語る、何て事もありますが、この時の高倉さんは何にも語っていませんでした。カメラの前に立っているのだから、役者は何かを語るものかと思うのですが、何も語ろうとしていないのです。それが圧巻でした。私は画面に釘付けでした。天然自然の「間」が、カメラで切り取られているのに其処へ在ったのです。この高倉健さんを拝見したのは映画「あなたへ」でした。忘れられない背中が其処にはあります。

 ところで、劇作家三谷幸喜さんは、長回しや空間演出で役者さんと「間」を独特に表現し、エンターテイメントな空間を作られるのがお上手だなといつも脱帽してしまいます。三谷監督の映画について語ろうと思うと、今は時間が足りません。大好きな作品が沢山あります。また一本ずつ取り上げていけたら、あなたと語り合う事が出来たら嬉しく思います。

 最後に、テレビで映画を放送するとき、其の多くは所謂ノーカットではなく、放送時間に合わせて摘ままれています。真っ先に摘ままれるのが余韻である「間」です。それではその映画の本当の面白さが伝わらないと、私はとても残念に思います。少しずつ放送形態も変わってきているような気がしますが、映画は是非ともそのままの形で流して欲しいと思います。

 季節は丁度秋です。夜も長い。自分の好きな作品に触れたり、或いは新しい扉を開いたりするには最適な季節かも知れません。好奇心の赴くまま、未だ見ぬ世界と出会うのが楽しみなこの頃です。

 今晩はこの辺りで失礼させて頂きます。

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いち

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お茶にしますか?それとも紅茶が?
好物:天然自然 生年月日:1983年11月20日  出身地:広島県 大抵の場合小説を書いて生きています。わが師である夏目漱石先生は執筆の準備運動に手紙を書きます。自分は手紙を書く時間が凄く好きだ。手紙は大好物です。 や、今日も月が奇麗だ。どうぞよろしく。