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「秋の彼岸、朝霧に姿隠す名月を見た。おはぎ作る」

 春分の日は出遅れた。秋こそはと望みだけ持っていたら、もう秋だった。今度は幸いにして前回作ったあんこが冷凍庫にある。風味は劣るけれど作らないよりは幾分か気が休まる。と云う訳でおはぎを拵えた。

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 今回は青海苔ときな粉。中にあんこが入っている。箸で割ると顔出す。

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はい、美味しい。何と云うか、顔みたいである。青海苔は美容院帰りのパーマ当て過ぎた人みたいで、見ようによってはソバージュ。奥のきな粉はむっつりした子どもみたいだ。じゃあ親子だな。

「母さんなんでそんなパーマかけると?僕恥ずかしくて学校行かれんけんね」

「これがよかったい。見た人の元気ばでるけんね」

                         ー終幕ー

 青海苔のおはぎ好きだ。まだ熱いのを青海苔の上へころんと落としたら、忽ち香ばしい磯の香りが上ってきた。お茶も待てずに食べてしまう処であった。出来立て一番は仏様へ御供えした。今日と云う日に家へ居た僥倖。昼も半分、夜も半分。冒頭の写真は過日の中秋の名月を収めたもの。生憎の曇り空、深夜に家へ帰ってもまだ曇っていた。ところが一縷の望み抱いて屋根の上へ顔出すと、その一瞬だけ雲が割れた。あ、と思い急いでシャッター切る、切る。焦って、ブレる。全然思うに任せない。只瞳には焼き付いた。青白い、清浄な月の晩だった。ブレたけれど、折角だから、お裾分けの積りで。そしておはぎ、二つじゃ足りなくて、もう一個こんなのも作って食べた。

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黒蜜に、白胡麻と黒胡麻。胡麻が滅法好きだ。学生時分、お弁当に胡麻団子が入っているととても嬉しかった。制限時間内に沢山食べられない子どもであったから、甘味は弱る胃袋を励ましてくれた。屹度そこには、どうすればこの子はお弁当を美味しく完食出来るかと、毎日工夫凝らしてくれた母の優しさが詰められていたからであろう。自分には、給食よりもお弁当が断然嬉しかった。

月は何時だって其処に在るのに、必死になって見上げては、出るか、出ないかと探している。遥かなる宇宙から届けられる優しい眼差し、輝かしい光。御蔭で心が穏やかになった。

半分の夜が来たら、今度は月の兎へもおはぎを届けてあげようか。

                 令和三年・秋分の日に いち

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