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掌編、短編小説広場

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此処に集いし「物語」はジャンルの無い「掌編小説」と「短編小説」。広場の主は「いち」時々「黄色いくまと白いくま」。チケットは不要。全席自由席です。あなたに寄り添う物語をお届けしたい… もっと読む
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2021年7月の記事一覧

短編「暮れなずむ朝顔列車 if・怪談」

※この短編は「暮れなずむ朝顔列車」のアナザーストーリーです。#眠れない夜に と云うものに相応しい物を描いてみ見ようかなと初めて怪談めいたものを描きました。先出の短編のイメージを保ちたいと思われる御方はお読みになられない方がよろしいかと存じます。あっちはあっち、これはこれと面白がって頂けるのであれば幸いにございます。果たして怪談と呼べるものか分かりませんけれど・・・。先出の短編を未読の御方は、是非とも先に、元の物語をお読み頂く事をお勧め致します。それではどうぞよろしくお願い致し

掌編「今年も西瓜の季節が来て、初物に嬉しくなる夏の日曜日。謡います。」

 梅雨の明けて、白雲浮かびしや青い空と手を翳しては心持ち爽快なれど、朝夕の涼やかな風いとも容易く払われては、早速揮う連日の暑さよ、汗滲む。我れ弄ばんレースの裾はらり。  長き年月を経て遂に生まれし幾千億万の命の鳴き声山を動かし、大地黙らせる盛況ぶりにて、我が家の柱も揺れる、瓦も揺れる、心が揺れる。惚れたか、惚れられたか、その刹那に賭けよ、一生涯。誰が笑おうとも気にするに及ばん。仮令網振りかぶろうとも逃げ果せてみせよ来世迄。  青草嗅ぎながら手を振り歩くは登り道、影踏み越え

掌編「四尺玉に託すありったけの想い」

「ともさんっ、俺もう嫌っす」  アイスコーヒーにガムシロ一つとフレッシュを三つ入れた佐久間は、ストローで勢いよくグラスの中をかき混ぜて一息に三分の一ほど飲み干すと、向かいに座る二つ上の先輩へ、愚痴の様な泣き言の様な思いの丈を打つけた。深夜のファミレスに集えなくなってから、彼等の集合場所は一人暮らしをしているともの家と決まっていた。 「なんだよ佐久間、又お母さんか?」 「うちの母親は何遍云っても無駄なんすよ、勝手に部屋に入るなって言ってんのに、絶対入ってるし、放課後も休日もど

掌編「お一人様の缶ビール」

 混み合う電車から解放されて、いまだ慣れないヒールでむくんだ足を、どうにか前へ運ばせて自宅マンションまで帰って来た。明けない梅雨の生温くじっとりと重たい風が、散々汗を掻いた肌へデコレーションするように撫で付けてゆく。気持ち悪くって仕方が無い。堪らず鼻から荒く息を吐き出す。  エントランスで郵便受けを覘き、一番上にある投げ込みチラシ諸共一旦すべて鷲掴みに持ち帰る。一刻も早く楽になりたい。先刻から頭の中を占領しているのは、缶ビールのプルタブ起こした時の、あのカッ、プシュッと云う

掌編「星と笹飾りと七回忌」

 家へお寺さんを呼んで祖母の七回忌を行ったのが五月の終わりだった。ごく身内だけが集まる法事だったけれど、母と私は事前準備に追われた為、無事に終わってほっと胸を撫で下ろした。そして、これを一つの区切りにしようと以前から話し合っていた私たちは、約束通りおばあちゃんの遺品整理を始めた。  いざ始めると、その所持品はかなりの量があった。元来物が捨てられない人であったから。だからここまで手を付けられずにいたとも云える。だが、仮令紙の箱一つとっても、中を検めないまま処分する事はできなか